プロレスと酒と旅 TAJIRIの本「プロレス深夜特急」は読めば読むほど味の出る名著
何とも魅力にあふれた本が徳間書店から発売されている。全日本プロレスのTAJIRIが作者の「プロレス深夜特急」。いわゆる一般的なプロレスラーの自伝ではなく、ヒューマンドキュメンタリーでもあり、旅行記でもある。
数多くのマットに上がってきたTAJIRIだからこそ言える含蓄のある言葉
何とも魅力にあふれた本が徳間書店から発売されている。全日本プロレスのTAJIRIが作者の「プロレス深夜特急」。いわゆる一般的なプロレスラーの自伝ではなく、ヒューマンドキュメンタリーでもあり、旅行記でもある。
世界中を旅して、たくさんの人に出会い、貴重な経験をしたTAJIRIだからこそ書けたのだろう。きれいな観光地ではないリアルな内容。人間くさく、あふれ出てくるエネルギーは半端ない。
「どこの国でも、プロレスラーはみんなプロレスが大好きで、プロレスをするために必死に生きている」ということがヒシヒシと伝わって来る。
また聞きや、テレビ、雑誌、ネットなどから得た知識ではない。実体験した人間の言葉は強い。それをかんで分かりやすく書いているので、大変読みやすく、面白い。一気に読んでしまった。
TAJIRIは「プロレス頭が良い」と評価されることが多いが、地頭も良いのだろう。頭の回転も速く、瞬時における判断力にも優れる。また、適応力、順応性がある。これらすべてがリング上の変幻自在のファイトにつながっているのだと、再認識させれられた。
人生は1度きり。主役は自分自身。人生も後半戦にさしかかると「もっとああしておけば良かった」あるいは「こうしなければ良かった」など、後悔ばかりが浮かんでは消えるが、TAJIRIはおそらく今までの人生に後悔はない、または少ないのではないだろうか。
軽快なタッチで明るく楽しく書いてはいるが、随所に切なさも感じる。風俗習慣、気候、言葉も食べ物も違う異国では、もちろん苦労も多かったはず。だが苦労を苦労とも思わず「いい経験」になったと言えるのは、自分に自信があるからだろう。WWEからノーギャラのインディー団体まで、数多くのマットに上がってきたTAJIRIだからこそ言える含蓄のある言葉だ。熱心なファンが多いのもうなずける。
TAJIRIの終わりなき旅はこれからも続く。コロナ禍でなかなか海外に行ける社会情勢ではないが、収束したら何をさしおいても旅に出発するのではないか。ぜひとも「まだ見ぬ強豪」を発掘してほしい。現代ではSNSが発達し、情報過多といえるほど情報があふれ返っている。昔のように身長体重国籍不明の「まだ見ぬ強豪」のフレーズに期待がふくらみ、ドキドキワクワクすることもなくなった。
だからこそ「まだ見ぬ強豪」を期待したい。TAJIRIなら、やってくれそうだ。世界の奥地の秘境から、世間に知られていない伝統武術の使い手を探し出し、来日させてほしいと願う。暗い世相、夢や希望の持てない時代。こんな時だからこそ「まだ見ぬ強豪」にドキドキしたい。その模様を続編の本で読みたいものだ。
世界最大の団体WWEにKUSHIDAやイケメン二郎などTAJIRIの教え子たちが羽ばたいていったのも、彼の教えが大きかったのではないか。自分の可能性を信じて世界を相手にチャレンジするのは素晴らしい。
プロレスと酒と旅。3冠王ともいえる何とも魅力的な3つの要素。プロレスファンのみならず、ぜひたくさんの方々に読んでもらいたい。