朝倉海が堀口恭司戦の敗北からたどり着いた境地とは RIZIN.30はボンサイ柔術と対決へ
ジョシュ・バーネットの私的ベストバウトは?
ここで話は少し飛ぶが、実力差があるからこそお目にかかれた内容の一戦として思い出すのは、ジョシュ・バーネットVS近藤有己戦である。
パンクラス旗揚げ10周年記念大会(03年8月31日、両国国技館)のリングで行われた一戦は、キング・オブ・パンクラスの無差別級王座決定戦として「新日本プロレスVSパンクラス対抗戦」の大将戦で争われていたが、ジョシュのセコンドに中西学の姿があったことは、その当時非常に珍しさを感じたものだった。
記憶によれば、お互いの体重差は20キロ以上あっただけに、ジョシュが近藤をジャーマンスープレックスホールド2連発で投げ捨てた場面がハイライトだったが、あの場面は朝倉VS渡部とは違った意味で、「あっ!」と叫んでしまった。いつだったか記者が過去にジョシュ本人と話した際、「あの試合は素晴らしかった」旨を伝えると、ジョシュも「あれが私のベストバウト」と答えていたことを思い出す。
結果的には3Rにジョシュが近藤にスリーパーを決めて、王座を奪取することに成功したが、約20年前の試合とはいえ、あの体重差で3Rまで持ちこたえた近藤の商品価値はまったく下がらなかったし、ああいった体重差のある相手にも平然と挑んでいくことをいとわない日本人ファイターの1人だった近藤の闘志は、今考えても素晴らしいものを感ぜずにはいられない。
また、最近の試合だと、「RIZIN.22」(20年8月9日、ぴあアリーナMM)で行われた、浅倉カンナVS古瀬美月戦も実力差の際立った一戦だった。この試合では、浅倉がめったに見せないキラーぶりを公開。1R1分35秒、パウンドによるTKOで古瀬を追い込んだことが記憶に新しい。
そうかと言えば、同じ実力差のある試合でも、「HERO’S」(06年10月9日、横浜アリーナ)で所英男が、当時、芸能界から格闘家に転身した金子賢と闘った際には、なぜか所が硬くなってしまい、勝つには勝ったが、それまでの格上に挑んでいくようなはじけたファイトが見られなかった試合もあった。
余談だが、所は金子に勝利した後、リングサイドにいた、師匠の前田日明氏に「勝ちました」と報告にいった際、「当たり前や」と返答されたことを思い出した。
何が言いたいのかといえば、たとえ実力差があったとしても、全てが全て、「風車の理論」につながるわけではないということ。
そう考えると、いかに「RIZIN.28」での朝倉が素晴らしかったのかが分かる。
もしかしたら本人は否定するかもしれないし、その自覚がどこまであるのかは知らないが、もし朝倉が堀口恭司にボコられていなかったら、そんな境地にはたどり着けなかったのではないか。記者はそう思う。なぜなら挫折や恥とは、人間を大きく変貌させるきっかけになり得るからだ。
そんなところで、約2か月後に開催される「RIZIN.30」において、朝倉はどんな試合を見せつけるのか。まさかの「風車の理論」再発動はあるのかを含め、少なくとも私的には東京五輪の結果以上に、今から興味津々である。