朝倉海が堀口恭司戦の敗北からたどり着いた境地とは RIZIN.30はボンサイ柔術と対決へ
23日についに開幕となる東京五輪だが、その直前にあたる20日、来る9月19日にさいたまスーパーアリーナで開催される「RIZIN.30」の第1弾対戦カードが発表された。
「相手が7の実力でも9まで上げてから10で仕留める」
23日についに開幕となる東京五輪だが、その直前にあたる20日、来る9月19日にさいたまスーパーアリーナで開催される「RIZIN.30」の第1弾対戦カードが発表された。
注目はやはり、6月から開始されたバンタム級ジャパングランプリ。この1回戦を勝ち抜いた8人がどんな取り組みで2回戦を争うのか。この一点だった。
結果、朝倉海VSアラン“ヒロ”ヤマニハ、井上直樹VS金太郎、扇久保博正VS大塚隆史、元谷友貴VS瀧澤謙太の4試合が決定。浜崎朱加VS藤野恵美の女子格闘技の試合も組まれた。
ちなみにこの会見、全5試合を闘う10人が全員そろって行われたが、それぞれが思い思いの理由を持って臨んだようで、会見全体から不穏な空気が漂ってくる、非常に見る価値のある会見だった。
一般的にはともかく、特に“闘い”をビジネスにするイベントにとって不穏さは興行の成功を追い風にする“神”。それぞれの熱視線はすでに視殺戦の域に達していた。
さて、前振りはそのくらいにして、今回のテーマは朝倉海である。
前述通り、朝倉はアラン“ヒロ”ヤマニハというボンサイ柔術の刺客との2回戦を闘うことになった。これは兄の未来が、「RIZIN28」(6月13日、東京ドーム)で、同じくボンサイ柔術のクレベル・コイケに絞め落とされたことから、その対立構造を引き継いだもの。
しかしながら、そうした取ってつけたような(失礼!)アングル(仕掛け)はともかく、朝倉はすでにものすごいものを手に入れていたことをご存知だろうか?
朝倉と言えば、「RIZIN.26」(2020年大みそか、さいたまスーパーアリーナ)で堀口恭司に敗れ、そこまであった勢いを一気に止められたかと思えたが、どっこいそれでは終わらなかった。
年が明け、「RIZIN.28」から大みそかまで、半年かけて実施されるバンタム級ジャパングランプリへのエントリーを決めると、「全試合KO」を掲げ、事実、1回戦の渡部修斗戦では、おそらく朝倉海史上最高のベストバウトを描き出した。
要は渡部の良さを十分引き出しながら、「あ!」っと思わせる場面を作り上げた上で、最後はきっちりと朝倉が渡部をボコってのKO勝利。まさに完勝だった。
言ってしまうと、朝倉はただ殴って勝つのではなく、「攻防」をリング上で描いて見せたのだ。これは近代MMAの歴史を勃興期のリング上から追い続けてきた記者にとっても、めったにお目にかかれない代物だった。
その光景は、「相手が7の実力でも9まで上げてから10で仕留める」といった、アントニオ猪木の「風車の理論」をほうふつとさせた。つまり朝倉はそうした高等テクニックを東京ドームという晴れ舞台で披露したのだ。
確かに、一方的な秒殺劇をリング上で描き出す戦術も、相手との実力差を見せつけるには有効な手段かもしれないが、そのさらに一段上をいくのが「風車の理論」だと記者は思う。
仮の話、朝倉と渡部の実力差があったからこそ現出できたのだとしても、敗れた渡部の価値は下がっていないと思えるし、むしろそんな体験をした渡部もまた、尊いものを手に入れたに違いない。