ノアの攻めの姿勢が止まらない。「新日本プロレスに追いつけ、追い越せ」と、日本プロレス界のトップを目指すサイバーファイトをDDTとともにリードする人気団体のまい進が続く。

　馬場・全日本プロレスの流れをくむノア。「リング上がすべて」とレスラーが積極的に発言することは少なかった。かつて全日本で天龍源一郎氏が結成した反体制軍団「天龍同盟」も、ジャンボ鶴田さんらに立ち向かうそのファイトはすさまじかった上に、エスプリの効いた天龍節もさえわたったが、体制批判などはまれだった。

　ところが、拳王が立ち上げた反体制組織「金剛」は、会社批判、オーナー批判を繰り返している。拳王のひと言は、正論。とはいえ、痛いところをストレートに取り上げるのは、どんな組織でもなかなか難しい。

　特にノアではご法度だったはずだが、ここにきて各選手が自ら発信する機会が増えている。SNSを活用し、記者会見も頻繁に開かれるようになった。

　先日も7・11仙台サンプラザ大会を控え、決意表明する場が設けられた。ノアの至宝GHCヘビー級王座を争う王者・丸藤正道と挑戦者・杉浦貴は、いつも通りの丁々発止のやり取りを展開し、独特のユーモアも交え、注目を集めた。ただし、丸藤も杉浦も少し前までは自分発信は少なかった。

　メインイベントを飾る2人に加え、スランプ気味の清宮海斗も登場し熱い思いを訴える。そして、昨今のノアらしさを爆発させたのが、キング・タニーだった。

　タニーは2005年にレスリング国体3度優勝を引っ提げ、自衛隊からノアに入門。谷口周平と本名でデビューを果たし、恵まれた体格もあって期待は大きかった。ところが、なかなか頭角を現せないまま、時間だけが過ぎていく。

　そこで12年にはマスクをかぶり「マイバッハ谷口」に変身。悪党に転身かと思いきや、こちらも爆発とはいかなかった。19年にマスクを外し、素顔の谷口周平に戻ったものの、周囲には厳しい意見が渦巻いていた。

　転機を迎えたのは20年の年末だった。ファンキーなモハメド・ヨネとタッグを結成。生真面目な谷口と正反対のヨネとのコンビ誕生は衝撃だった。今では、齋藤彰俊、井上雅央も加わり、ファンキーエクスプレスとして、ノアマットで大暴れしている。

　4人によるキング決定戦で、谷口が勝利しキング・タニー（TANY）となった。「ファンキーエクスプレスの象徴、キングとして戦って行きたいと思います！　レッツ　ファンキング！」と実直に決意表明している。

　7・11仙台大会では、タニーはヨネと齋藤を従え、桜庭和志、藤田和之、ケンドー・カシンの杉浦軍と対戦する。

　事前会見では「勝利をつかんで、またタイトルマッチに絡んでいきたい。応援お願いします」と抱負を述べたが、記者たちの関心は、美人レスラーとして知られていた（西尾）美香夫人との関係に終始した。というのも、タニーは5月末の会見で、家庭内不和を自ら告白していたのだ。

「どうなったのか？」。何とも無粋な質問にも、律儀なタニーは「和解の方向で進んでいる。ただ会話は最小限だけ」と真摯（しんし）に答える。肝心のファンキーエクスプレスのキングに関する質問はないままに終了した。

　7月7日は結婚記念日だった。「今日は外食に誘いました」と夫人の食事風景をSNSに披露。関係は改善できるのか？　何とも気になるところだ。

　いずれにせよ、タニーに化身しようが、キングになろうが、谷口はやはり谷口。真面目な性格なので若いころにディスコ通いもして来なかったのか、ポーズを取るのも、リング上で踏むステップも、どこかぎこちない。

　大丈夫かとなぜかこちらがハラハラしてしまうが、自分と重ね合わせた中年男性ファンの密かな応援と、何とかしてあげたいと思う母性本能の強い女性ファンの熱視線も徐々にではあるが増えて来たようだ。

　各選手のキャラクターが立ち始めたノアにあって、何をしても内面の人のよさがにじみ出る真面目な谷口は唯一無二の貴重な存在。今後もいろいろな意味で目が離せない。