「王道」全日本プロレスらしさを受け継ぐ2人の男の今後を占う【連載vol.47】

新型コロナウイルス感染で、全日本プロレス6・26東京・大田区総合体育館大会を諏訪魔は欠場。3冠王座を返上した。しかも大田区大会は一度延期になったビッグマッチ。気合が入っていただけに、さぞや無念だろう。

3冠王座を返上した諏訪魔の復活ロードはどうなるのか【写真:柴田惣一】
3冠王座を返上した諏訪魔の復活ロードはどうなるのか【写真:柴田惣一】

毎週金曜午後8時更新「柴田惣一のプロレスワンダーランド」

 新型コロナウイルス感染で、全日本プロレス6・26東京・大田区総合体育館大会を諏訪魔は欠場。3冠王座を返上した。しかも大田区大会は一度延期になったビッグマッチ。気合が入っていただけに、さぞや無念だろう。

 そこで思い出したことがある。2016年1月2日。昼は全日本、夜は大日本という後楽園ホールの正月昼夜興行に参戦した諏訪魔。興行の間に「食事をしよう」と約束していた。

 昼の全日本大会では、秋山準を見事に下し、5度目の3冠王者となった諏訪魔だが「試合で右足首、痛めちゃって」と、少し足を引きずりながら現れた。キャンセルしてもいいのに、律儀な諏訪魔らしく「行きましょう」と言ってくれた。ところが、お正月の東京ドームシティはイベントも多く、周辺は大混雑。申し訳ないことに、少し離れたお店まで歩かせてしまった。現在、頸椎椎間板ヘルニアで長期欠場中の野村直矢も一緒だった。

 諏訪魔は「大丈夫。ちょっと痛いけど、夜の試合もあるし、頑張らないと」と、負傷など一切感じさせずに、会食を楽しんだ。後から知って驚いたが、まさかアキレス腱断裂の大けがだとは思わなかった。

 実際、夜の大日本の大会でも大暴れ。その精神力に感服したのをよく覚えている。だがその後、欠場に追い込まれ3冠王座を返上。ゼウスとの王座決定戦を制した宮原健斗が王者となった。

 諏訪魔は、さぞや悔しかったはず。今回はコロナ感染で欠場。そしてまたしても3冠返上。病気やけがはしたくてするわけではない。残念、ガッカリしたというファンもいるが、一番つらいのは諏訪魔本人だ。

 全日本ひと筋の生え抜き。全日本を守ってきたという自負がある。しかも今は“闘う専務”だ。度重なる不運に見舞われた諏訪魔だが、このまま沈むとは思えない。全快の暁には、ぜひまた3冠を狙ってほしい。リターンマッチというわけではないが、前王者には挑戦資格は十分あるだろう。

 また、野村の復帰を期待する声も大きい。ドロップキックなど古典的な技にこだわり、一歩も引かず胸を突き出し、前へ前へ出る勇ましいファイトは見る者を熱くする。

 普段は大人しく、「僕が持ちます」と女性の荷物を持ってあげるなど優しい野村だが、リング上では豹変(ひょうへん)。鬼気迫る表情と、負けん気の強さ丸出しの激しい試合は評価が高い。

 前述の諏訪魔と食事をした5年前、金髪だった野村は怖かった。そして、諏訪魔が「おいしいよ」と何度も薦めるデザートのティラミスを頑として注文しなかった。

「お前、ティラミス嫌いなのかよ?」と激高する諏訪魔。

「いえ、嫌いではありません。でも僕はコーヒーゼリーにします」

「じゃあ両方食べればいいじゃないかよ。デザートなんだから2つぐらい食べられるだろ?」

「食べられますけど、コーヒーゼリーがいいです」

 お店のスタッフも固唾(かたず)を飲んで見守る中、緊張感のあるやり取りが続いたが、最終的に諏訪魔が根負け。野村はコーヒーゼリーを頼んだ。

 見ているこちらがヒヤヒヤしたが、大先輩相手に何という豪胆。「すごく気が強いんだね」と、小声で聞くと「フフッ」と横顔で笑った。

 後日、そのお店には、デザート2品が合体した「ティラミス・コーヒーゼリー」がメニューに加わっていた。もしかして、諏訪魔と野村の一件があったからだろうか。

 ダイナミックな試合で「全日本らしさ」を体現できる生え抜きの2人には、一日も早く、元気に復活してほしいと願っている。欠場の悔しさをバネに、必ずや飛躍できるだろう。頑張ってほしい。

次のページへ (2/2) 【写真】長期欠場中の野村直矢のショット
1 2
あなたの“気になる”を教えてください