グレート・ムタの次なるマジックは? コロナ禍の無観客試合だからこそ膨らむ期待

「令和の御大」武藤敬司の化身「グレート・ムタ」がノアの6・27配信マッチに見参。約1年ぶりの実戦で金剛の首領・拳王と対戦する。

(左)グレート・カブキの息子とも言われたグレート・ムタ【写真:柴田惣一】
(左)グレート・カブキの息子とも言われたグレート・ムタ【写真:柴田惣一】

6・27配信マッチで約1年ぶりの実戦、拳王と対戦

「令和の御大」武藤敬司の化身「グレート・ムタ」がノアの6・27配信マッチに見参。約1年ぶりの実戦で金剛の首領・拳王と対戦する。

 6・13配信マッチに現れ、拳王に緑の毒霧を噴射し、この日から投入されたドローンカメラにも赤の毒霧を吹きかけた。ムタのプロレス頭脳には、本当に感服である。会場全体をムタ・ワールドに染め、ファンを魅了する。目新しいドローンカメラを見逃すはずはなかった。

 思えば、ムタは花道を駆け抜け、はしごなどそこにあるものすべてを利用してきた。1989年、米WCWマットで誕生したムタの闘いの歴史は、意外性に富んでいる。94年5月1日、福岡ドーム大会の開場前だった。アントニオ猪木との大一番を控え、ムタの代理人・武藤がリングサイドの周辺をチェックしていた。リング下、花道……入念に目を通し、不敵な笑みを浮かべながら、満足げに帰っていった。「何か、考えているな」と、ムタマジックへの期待が膨らむ。

 いざ、決戦のゴングが鳴った。長い花道をダッシュしてのラリアート、毒霧、本部席へのパイルドライバー……。いつの間にか猪木は額を割られている。ムタは照明設備用に吊り下げられたはしごを昇り始めた。不安定なはしごを大きく前後に振った。勢いを増したムタは、ターザンよろしく猪木にキックをぶちかましてみせた。はしごの正しくはないが、効果的な利用法である。

 そこにはしごがあるなんて、誰も気にもしていなかったはず。開場前にニヤリとしたのは、はしごの新たな使い方が、ひらめいたからだった。もちろん関係者にムタの体重にもはしごが耐えられることを確認していた。

 用意周到、大胆不敵だ。勝負には敗れたが、試合内容では猪木を圧倒した。毒霧と鮮血まみれの猪木は、勝利者インタビューでも不機嫌そのものだった。どんな対戦相手でも自分の手のひらで転がしてしまうのが猪木。それが、この日はムタの術中にはまってしまったのかも知れない。「ブッ殺しゃいいんだよ。俺のことを。『何やったっていい』って言ってんだから」と吐き捨て会見を切り上げている。

「魔性の闘魂」猪木がムタの「魔界」に引きずり込まれた。猪木引退へのカウントダウンマッチは、ムタがそのプロレスセンスを発揮する一戦となった。

次のページへ (2/2) 96年新崎“白使”人生戦でもムタの神髄は発揮
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