真田圭一八段解説 藤井聡太2冠連勝の棋聖戦五番勝負第2局「盤面全体が良く見えていた」
将棋の第92期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第2局が6月18日、「ホテル・ニューアワジ」(兵庫・洲本市)で行われ、藤井聡太棋聖(王位、18)が渡辺明名人(棋王、王将、37)に171手で勝利。藤井2冠が王手をかけたこの棋聖戦第2局を、真田圭一八段(48)に解説してもらった。
序盤から前例のない力将棋の展開で藤井2冠は持ち時間をかなり消費したが…
将棋の第92期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第2局が6月18日、「ホテル・ニューアワジ」(兵庫・洲本市)で行われ、藤井聡太棋聖(王位、18)が渡辺明名人(棋王、王将、37)に171手で勝利。藤井2冠が王手をかけたこの棋聖戦第2局を、真田圭一八段(48)に解説してもらった。
藤井2冠の先勝で始まった棋聖戦第2局。負ければ後がなくなる渡辺3冠にとっても重要な一局だ。
先手は藤井2冠。注目の作戦は、第1局に続いて「相掛かり」となった。だが本局は第1局と異なり、両者に前例のある進行を外していこうという気配が感じられた。力将棋と呼ばれる、事前の準備よりその場その場での対応力が求められる展開だ。
内容的にはすぐ前例のない展開となり、角交換の後31手目にまずは藤井2冠が▲5六角と自陣角を放ち、続いて44手目に渡辺3冠が△5四角とこちらも自陣角で対抗する。このような力比べとも呼べる展開は、棋士としては望むところと意気込める反面、局面のバランスが崩れてしまうと、勝負所なく敗れてしまう危険もあり非常に神経を使う難しさもある。藤井2冠も局面の急所をつかむことに苦心したのだろう。まだまだ中盤という局面で、4時間の持ち時間をかなり消費してしまい、残り時間で渡辺3冠に差をつけられてしまった。
内容面では、55手目▲6五角と盤上から角を消しにかかった手は、良くしようというより相手の攻撃力を奪う守備的な意味合いの強い手だ。この時点で藤井2冠の残り時間は50分。渡辺3冠は2時間ほど残していたことを考えるとかなりの差だ。ここから藤井2冠の耐える展開が続く。この10手後には残り時間は7分。もう終局まで腰を据えて考えることはできない。
だが時間がなくても指し手が崩れないのが藤井2冠の強みだ。悪い手を指さないのはもちろん、指し手に迷いが感じられない。ずっと銀がタダで取られそうな局面が続いて、焦ってもおかしくないのだが、盤面全体が良く見えているという印象で慌てるそぶりがない。技術的な面で言えば、117手目▲6一角と敵陣に打った角を▲4三角成~▲6五馬と自陣に馬を引き寄せた指し回しだ。勝ちにいくより負けにくくする。秒読みの中でのこの落ちつきはさすがというよりない。なんと残り7分から終局まで100手以上を乗り切って、藤井2冠が勝利した。
渡辺3冠の側にも、「こう指していたら」という局面はあったかも知れない。だが、そうであったとしても、別の展開になればそれはまた難解な別の展開であるということ。つまり、相手に明確な勝ち筋を与えないのが、難解な展開になった時の藤井2冠の強さで、これはデビュー以来際立っている。
このタイトル初防衛戦も、連勝であっという間に、後1勝で藤井2冠の防衛という状況となった。だが、本局は全体的には渡辺3冠が押していた面もある。次局は意地を期待したい。