怪談マエストロ、27年目の新境地 稲川淳二が語る「ラストのない恐怖」の真相とは…
「優しい魂」を持って帰れるようなストーリー 想像させる恐怖
――ところで怪談には宿とか病院とか必ずロケ現場がセットになっています。みなさん頭の中で実際の画をそれぞれ想像しながら聞いていると思うのですが、稲川さんはロケーションについてどのように考えていますか。
「聞く側がわかれば大いに結構だと思うんですけど、背景を細かく書いちゃうと、肝心の話の強弱がなくなっちゃって、人物が生きなくなっちゃうんですよ」
――映像や写真といった視覚から訴えるのとは違うと。
「そう、違うんですよ。それが難しいですよね。以前、台湾に旅行に行ったとき、怖いと言われていた場所を取材しましたけど、画で見せたら怖いんだろうけど、私にとってはどこもちっとも怖くなかった。結局、私が一番怖かったのは泊まっていたホテルのロビーだったんですよ」
――何が怖かったんでしょう?
「ぼんやりとした暗闇に、赤い提灯が浮かんでいて、それは言いようがないんですよ。でも、それを見た瞬間の怖さ。これなんですよね。どういう景色を象徴的に切り取っていくか、そこなんですよね」
――説明するではなく想像させると。
「そうなんです。それが一番です。だから理解するための知性や理性っていうのはほんの少しだけ必要ですよね。小さいお子さんに『ワッ!』と驚かせるのとは違いますから。何気ない言葉のやりとりをしている安心した状態から、ある一言でもって『あれ?おかしいぞ』って、そう思った瞬間、急に怖くなって話が逆転するんですよ。初めてのお客さんにはちょっと高度かもしれないけど、私は挑戦していかないと意味がないですから。令和元年の稲川怪談として喜んでいただけるようなテーマで全国のみなさんに会いにいきますから。実は来年の構想も頭に浮かんでいるんですよ」
――ぜひ一足先にお聞きしたいです。
「来年はオリンピックですから、怪談のグレコローマンですよね」
――それはどんな話ですか?
「押さえ込んだら絶対に逃げられないって言う、恐怖のがんじがらめ」
――ひえ~。
□稲川淳二(いながわ・じゅんじ)1947年8月21日、東京都渋谷区恵比寿生まれ。タレント、怪談家、工業デザイナー。2012年、怪談ライブ20年連続公演の偉業が認められ、8月13日が「怪談の日」として制定された。毎年恒例の稲川怪談を収めたCD、昨年の模様を収めたツアーDVDも発売中。