怪談マエストロ、27年目の新境地 稲川淳二が語る「ラストのない恐怖」の真相とは…
ラストのない、かげろうのような怪談 27年目の新境地
――どんな話なのか、少しだけ教えてもらえませんか?
「ふとやってきたその場所、かつて自分が暮らしていた街、そこの人々の記憶ですね。『あの人は学生時代に甘食をよく買ってたパン屋のオヤジだ』とか。向こうは自分のことなんか覚えていないんだけど、自分は覚えている。そんな、すごく近い距離にあるような風景、話なんだけれど……実は話にラストがないんですよ。かげろうのような、輪郭はうっすらと、でも全体はぼやけて見えない」
――何気ない生活風景みたいですが、逆に怖いです。
「確かに怪談なんですが、聞いてもらったみなさんが、終わった後、なんだか妙に穏やかで優しい魂を持って帰れるような、そんな話を今年はご紹介しようと思っていましてね、これが上手い具合にできたら、去年の公演の86倍ぐらいの面白さになりますから(笑)」
――「優しい魂」って、素敵な言葉です。稲川怪談はまるで塩むすびのような、ゆっくり味わうことで、怖かったり、温かかったり、そのストーリーや風景、人物の表情までもが画となって浮かんでくる。そんな体験をいつもさせてもらっています。
「ありがたいですねえ。まさに私が伝えたいのは、そこなんですよ」
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東京五輪を迎える来年の構想まで…