真田圭一八段解説! 藤井聡太2冠勝利の棋聖戦五番勝負第1局の勝敗の分かれ目はどこに?

将棋の第92期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第1局が6月6日、「龍宮城スパホテル三日月」(千葉・木更津市)で行われ、藤井聡太棋聖(王位、18)が渡辺明名人(棋王、 王将、37)に90手で勝利。藤井2冠にとって初のタイトル防衛戦となるこの棋聖戦第1局を、真田圭一八段(48)に振り返ってもらった。

藤井聡太2冠【写真:ENCOUNT編集部】
藤井聡太2冠【写真:ENCOUNT編集部】

“あっさり勝ち”に見えたのは藤井2冠の妙手ゆえ

 将棋の第92期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第1局が6月6日、「龍宮城スパホテル三日月」(千葉・木更津市)で行われ、藤井聡太棋聖(王位、18)が渡辺明名人(棋王、 王将、37)に90手で勝利。藤井2冠にとって初のタイトル防衛戦となるこの棋聖戦第1局を、真田圭一八段(48)に振り返ってもらった。

 まず対戦相手について。渡辺明3冠は棋界第一の実力者。しかも1年前、失った棋聖のタイトルを取り返すべく即挑戦者として挑む、いわゆる「リターンマッチ」で、この棋聖戦は今後の棋界最強者を定める戦いとも位置づけられる。ちなみに対局場となったのは千葉県木更津市の「龍宮城スパホテル三日月」。千葉県の南房総でタイトル戦が行われるのは実に約30年ぶり。千葉県出身の私としては非常に喜ばしく思う開催地となった。

 さて、その第1戦は振り駒で渡辺3冠の先手に。戦型は相掛かりで、以前の両者の対局の進行をなぞる、経験と研究が生きる展開となった。中盤の終わりから終盤の入り口ぐらいの局面まで、ハイペースで進んだ。

 その中で、藤井2冠に決断の一手が出る。58手目、飛車取りを放置して△3四歩と角道を通した手だ。ここは飛車取りを防ぐ手を指せば、全く違う難解な展開となるところ。飛車を取らせても戦えるという判断は、敵玉と自玉、双方の危険度の判断と正確な距離感が求められるところだ。藤井2冠の強さを支える終盤力をベースとした強気な踏み込みと言えるだろう。

 ここから終盤戦となり、まだまだ一山も二山もあるかと思われる局面で、66手目△3三桂が妙手だった。この手は簡単に妙手と言ってしまうのがためらわれるぐらい、実に指しにくい一手だった。第一感で浮かぶ手というよりは、本線の、例えば△6九と▲同玉△7七角成といった、直線的に玉に迫る順をベースにした中で、より得を求めた手と言える。意味は自陣で働き場のない桂をさばきたいという手だが、指しにくい理由は角道を止めてしまい、角が働かなくなったまま局面が進むと悪手になってしまうリスクが高い点だ。

 事実、渡辺3冠はここから猛攻を掛けて△3三桂に悪手の烙印(らくいん)を押しにいく。だが、自玉に寄せがないことを藤井2冠は正確に読みきっていた。相手に無理気味に攻めさせて、その攻めをきっちり余す(防ぐ)勝ち方は、プロなら怖いようでも一番勝ちやすい勝ち方だが、強い相手にこの勝ち方をするためには、相当精度の高い読みと大局観が必要となる。

 結局、藤井2冠の快勝となったが、もし内容的にあっさり藤井勝ちと見えたとするならば、△3四歩と△3三桂、この二手で難解な展開を一気に切り開いた藤井2冠が素晴らしかったと言うしかない。

 まずはタイトル初防衛に向けて、圧倒的な内容で好発進した藤井2冠だが、渡辺3冠もこのまま引き下がるとは思えない。昨年に引き続き、目の離せない棋聖戦五番勝負となりそうだ。

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