田村正和さんが教えてくれた「古畑任三郎」長ぜりふでNGを出さないコツとは?

どうしていつもNGを出さないんですか?

 そこで田村さんに「どうしていつもNGを出さないんですか?」とズバリ聞いてみました。当時はまだ役者として未熟だった僕は舞台やテレビと違い、演技でしゃべろうとするといつも緊張していたんですね。僕にとっては素朴な質問だったんですが、周りのスタッフはその質問にピーン! と張り詰めた空気になりましてね(笑)。

 それを聞いた田村さんは「誰にも言っちゃだめだよ」と前置きして僕に教えてくれました。あの長ぜりふは、古畑任三郎として編み出した独自のテクニックだったそうです。相手のアリバイを崩していく長いせりふの中で「うーん、あなた……」とか「えー、それは……」とか入りますよね。その間に次のせりふを思い出していったそうです。そうやって田村さんは、ご自身のお話を通して僕に役者としての大切なことを教えてくださったんです。

 そして、いよいよ田村さんとの共演シーンです。クイズの司会者役として解答者の古畑任三郎を紹介するシーンの撮影が始まりました。リハーサルでは台本通り淡々と紹介したのですが、それを見た田村さんが「競馬実況中継風に紹介してみた方が面白いんじゃないかな?」ってアドバイスをくれたんです。

 そこで「さあ、今回は現職の刑事さん。古畑任三郎さんです! どうぞ!」「古畑さん、フライングだけはしないでくださいね!」「すみません」あれは再放送を見てもらえたら分かると思うのですが、架空競馬実況のネタをそのままやっているんです。そこに田村さんもアドリブで合わせてくれたんです。僕の個性、良いところをすぐさま見てアドバイスをしてくださったんですね。

 そして撮影の最終日、砧スタジオで田村さんは私にこうおっしゃいました。

「楽しかったよ、山田さん。何年経ってもそのまま変わらない努力をしなさいよ」

 最後に私にかけてくれた言葉でした。「どんなに経験を重ねても今のまま初心を忘れず、新鮮な気持ちを持ち続けなさい。これからも新鮮な気持ちで教わるんだよ」と。

 芸歴が38年経とうが、常に初心を忘れずに生きていく。田村さんに教わったことです。

 そんな思い出の「古畑任三郎」シリーズの傑作選が、現在関東ローカルで放送中だそうです。「VSクイズ王」は7日の放送予定です。ぜひみなさん、田村さんのアドリブをお見逃しなく。

□山田雅人(やまだ・まさと)話芸家・タレント・俳優。1961年1月22日生まれ。大阪市大正区出身。落語でも漫談でも一人芝居でもないマイク1本とスポットライト1つの独自の話芸「かたり」の世界。スポーツ選手、映画、人物、名勝負など取材を重ね、隠れた人間ドラマの感動をマイク一本で語る。2021年、公式Twitterをスタート。ABCラジオ「ドッキリ!ハッキリ!三代澤康司です」(月~木、午前9時~、山田は毎週火曜出演)放送中。

山田雅人ツイッターはじめました

連載【山田雅人のことば】
#1 田中邦衛さんの大切な黒いカバン
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#2 橋田壽賀子さんが役者・山田雅人を育てた手紙
https://encount.press/archives/177118/

インタビュー
山田雅人は話芸家として活躍中 キャリア40年の原点を激白
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山田雅人「渡る世間は鬼ばかり」藤岡琢也さん相手に楽屋で磨いた“話術”
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