華やかだけではない声優の世界 「基本はお芝居」名門・代々木アニメーション学院のこだわり
声優の仕事の基本はお芝居 だから1年生では演技を徹底指導する
――代々木アニメーション学院の声優タレント科は2年間でプロの声優を目指すコースです。各年次ではそれぞれどのような授業を行っているのでしょうか。
竹下さん「簡単に言うと、『1年生で役者になる』『2年生で声優になる』というイメージです。声優はただ声を使ってしゃべればいいというものではなく、基本は役者です。だけど、マイクの前で自由に動けない状態でせりふをしゃべる必要があります。マイクの前の訓練が必要ですが、まずは役者として自分の身体で驚いたり、殴られたり、喜んだり……というさまざまな動作を覚えてもらって、そこからマイク前に行くという流れです。なので、1年生では演技の授業が中心になっています。
2年生はオーディションに臨まなくてはいけないので、オーディション対策の授業も多くなってきます。自分をちゃんとアピールするために、『自分のことをどれだけ分かっているのか』ということから、たたずまい、髪型や服装などのトータルコーディネイトもしていきます。代アニを卒業後は、事務所に所属するという目標がありますので」
――今はたくさんの声優が幅広い分野で活躍しています。業界で通用するために一番大事なことはなんでしょうか。
竹下さん「華やかな部分に目がいきがちですが、声優のお仕事の基本はやっぱりお芝居だと思っています。もちろん声優の活動は多岐にわたります。歌やダンス、イベントなどで活躍している方も多いですが、それは演技が良いから歌が歌えるようなアニメのキャラクターに呼んでもらえたりするわけです。
なので、演じることは大事にしてもらいたいです。そして、人と関わり、縁を大事にしてほしいです。声優は人と人が関わるお仕事で、自分1人では全くなにもできないんです。あいさつ1つでもそうです。終わったら『ありがとうございました』と言える。そういうコミュニケーション、人との出会いや機会を大事にしてほしいなと思います」
――アフレコの授業では、絵に合わせるだけではなくセリフの前後関係や台本全体の流れを意識するようなアドバイスが印象的でした。アフレコの上で難しいことを教えてください。
竹下さん「最初は“距離感”について言われることが多いです。例えば、今しゃべっている2メートルくらいの距離で『ありがとうございました!』とものすごい大声で言うのは、なんだか変だと思いませんか? でも、大きな部屋の入口から部屋の奥にいる人にあいさつするときに小さい声だと、届かないですよね。
マイクの前ではみんな必死になるので、セリフを読むだけになってしまうのですが、キャラクターの距離を考えて、どういう格好で、どんな気持ちでしゃべっているのか? 向かい合ってアフレコはできないけど、中にいるキャラクターは向き合っていたり、取っ組みあっていたり、離れたりする。それをブースでは横並びでやらないといけないので、難しいと思います。
そこで、普段からどれだけイメージしているかが大切になってきます。例えば、自宅で下の階から『ご飯よ』と呼ばれたとする。教室に入って友だちに『おはよう」と言う。その時にどんな声を出している? どのくらいの距離感? エレベーターに乗っているとき、走りながら前を行く友人に声をかけるとき……。
実際の自分の実体験として分かっていないといけないですね。わからないのであれば、そういう場面のある映画やアニメを見て勉強する。経験がないから演技ができません、は通用しません。だからと言って実際に試すこともできない。そういう時には先輩たちのそういった映像のシーンを見たりして、勉強してほしいです」
――授業で学ぶだけではなく、日頃の蓄積が大切なのですね。
竹下さん「絵にただせりふを当てているだけだと、ちょっと訓練すれば素人の方でも読むことはできると思います。でもわれわれはキャラクターを生かさないといけないので、『その前、その間になにが あったの?』『どういう風に言われたから、せりふはないけどムカッときたの?』といったところも考えないといけません。あとは、『この作品のこのシーンで何を見せたいのか』というシーンのニュアンスを把握することも大事になってくると思います」