他人の人生を狂わすデスマッチファイターの禁断の魅力とは?【連載vol.36】

葛西純の発信力は素晴らしい。彼の言葉は説得力がある【撮影:柴田惣一】
葛西純の発信力は素晴らしい。彼の言葉は説得力がある【撮影:柴田惣一】

愛嬌のある目で人懐っこく笑うが、リングに上がれば別人

 葛西は職業を「プロレスラー」ではなく「デスマッチファイター」という。「刺激が足りねえ! 俺っちは、刺激がほしい」と常々口にするが「生きて帰るまでがデスマッチ」と常識的な面も持ち合わせている。

 これは「家に帰るまでが遠足」という学校の先生を思い起こさせる。気の緩みからか、帰宅途中、しかも自宅近くで交通事故などに遭うケースが多いことからの注意喚起だそうだ。そう考えると、葛西はデスマッチの先生だ。デスマッチの傷とけがは違う。死ぬためのデスマッチではない、生を感じ、生きるためのデスマッチなのだ。

 2人のお子さんの良きパパでもある葛西。「結婚してダメになった」と言われてしまう選手も、残念ながらいる。結婚したり子どもが生まれたりして守るものができると、どうしても一歩引いてしまう選手もいるが、葛西は違う。余計に狂うのだ。これはすごいこと。今までにないと言っても過言ではない。

 自伝「CRAZY MONKEY(クレイジーモンキー)」を出版し、5月下旬には「狂猿」というドキュメンタリー映画も公開される。その勢い、迫力は一向に衰えない。

 葛西は全身傷だらけの体は勲章だと胸を張る。最前列で場外乱闘に巻き込まれ軽傷を負った女性ファンを気遣い、また後年、その傷跡を目にして、申し訳なさそうに「俺っちたちはいいけど……。観戦するときには気をつけてね。場外乱闘が来たら逃げてね」と優しく語り掛けていた。

 普段はクリクリした愛嬌のある目で人懐っこく笑うが、リングに上がれば別人だ。そのギャップがたまらない魅力だと熱狂的なファンも多い。

 刺激を求めてどこまで狂うのか。葛西純の生き様から目が離せない。

次のページへ (3/3) 【写真】まさに千両役者! カミソリボードを手に花道を進む葛西純
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