【その時音楽シーンが動いた #3】“月9の時代”と“CDバブル” 2つの扉を開けた伝説ドラマの主題歌「ラブ・ストーリーは突然に」
カラオケボックスとCDシングルにより新たな“ヒットの方程式”が確立
ヒットの要因としては、楽曲の完成度もさることながら、高視聴率を毎週獲得する話題のドラマで繰り返し使用されたことが挙げられよう。「東ラブ」プロデューサーの大多亮(フジテレビ)は88年1月期の「君の瞳をタイホする!」を皮切りに高視聴率作品を量産していたが、ドラマ制作では「音楽」「ファッション」「ロケ地」の3要素を重視。「男女7人夏物語」(TBS系)を源流とする恋愛群像劇を若者向けにアレンジしたラブコメディ路線を「月9(月曜夜9時枠)」や「木10(木曜夜10時枠)」で展開し、トレンディードラマの一大ブームを巻き起こしていた。
90年10月期の「すてきな片想い」以降は切ない恋を描く純愛路線にシフトするが、音楽を効果的に使用する手法は継続。「東ラブ」ではオープニングカットのみならず、クライマックスでも必ず「ラブ・ストーリーは突然に」が流れたため、視聴者にはサブリミナル的に主題歌が刷り込まれていった。
もちろん大ヒットしたドラマ関連曲はそれ以前にも存在した。昭和期には名演出家・久世光彦が手がけた「水曜劇場」(TBS系)や大映テレビ制作のドラマなどから数々のヒット曲が生まれている。しかしアナログ盤時代はミリオンセラー自体が年に2~3曲。ドラマ発のミリオンは、中村雅俊「ふれあい」(日本テレビ系「われら青春!」劇中歌)、さくらと一郎「昭和枯れすゝき」(TBS系「時間ですよ昭和元年」挿入歌)、長渕剛「とんぼ」(TBS系「とんぼ」主題歌)の3曲しかなかった。
だが平成に入って(89年)状況が一変する。背景にはカラオケボックスとCDシングルの普及があった。80年代後半に登場したカラオケボックスは、それまで夜の繁華街が中心だったカラオケ文化を若年層にも定着させることに貢献。88年に登場した8cmのCDシングルは、再生機の普及とカラオケ練習用という需要に支えられて市場規模を急速に拡大していく。
そんな環境が整いつつある時に登場したのが「ラブ・ストーリーは突然に」であった。「話題のドラマを観る」→「主題歌のCDを買う」→「いち早く覚えてカラオケで歌う」という、新しい“ヒットの方程式”を確立した同作は、ドラマとのタイアップがそれまで以上に有効な手段であることを知らしめ、多くのフォロワーを生みだした。
実際、ドラマ発のメガヒットは91年以降、急増し、97年までに63曲ものミリオンセラーが誕生する。放送枠別に見ると、1位はフジテレビの「月9」で14曲、2位はやはりフジテレビの「木10」で9曲、3位が日本テレビの「土9」で7曲。98年以降はどの枠も勢いを失っていくので、この7年間が「ドラマタイアップ」が最も熱かった時期といえるだろう。その黄金時代の扉を開き、“月9ブランド”を揺るぎないものとしたのが「東ラブ」と「ラブ・ストーリーは突然に」だったのである。