ルポ「東京大歓楽街」 緊急事態宣言初日の夜はいかに? 上野、新宿のにぎわい続く
飲食店経営者の本音「『来るな』って言えるわけがない」
午後8時。西武新宿駅ペペ前の広場。東京都と新宿区の係員30人ほどが「3連休もステイホーム」「不要不急の外出自粛」などと書かれたプラカードを掲げて通行人に協力を訴えている。歌舞伎町一番街のゲートをくぐると、大勢の酔客が歩いている。警察官3人がパトロールしているが、しばらくして雑踏の中へ消えていった。
ホテル街に向かう途中の路地で、店頭に黄色いランプが灯る隠れ家風の居酒屋の店内を見ていると、男女4人、さらに別の男女4人のグループが相次いで入店した。さらに男女のカップルが「お店、やってんの?」と言いながら門をくぐると中にいた店員がテキパキとテーブルに案内した。時刻は午後8時20分。政府が営業短縮を要請している午後8時をとっくに過ぎているが、営業を続ける飲食店は後を絶たない。
歌舞伎町の中心部に戻ると、客引きの集団が叫びながら何かに怒っている。近くの路地を曲がると、「キャバクラどうですか?お酒、飲めますよ」と客引きからさっそく声がかかった。この路地の先にも多数の客引きが待ち構えており、獲物を狙うかのようなギラついた視線が突き刺さる。
午後8時40分。地下のクラブから振り袖姿の20歳代前半と見られる女性2人が階段を昇ってきた。「寒いね」。気温は3度。マスクはしておらず顔面の蒼白さと赤い口紅のコントラストがひときわ目立つ。どこか痩せ気味だ。お店ではその姿で男性客を接待するのだろうか。10メートル先を左に曲がると、インバウンド客からコアな人気を集めていた新宿ゴールデン街が広がっている。
足を踏み入れて驚いた。予想に反してひっそりとしている。ざっと眺めて8割ほどが閉店状態。各店のドアには「8日から2月7日まで午後8時までの営業とさせていただきます」「緊急事態宣言により20時で閉店となりました」などと書かれた張り紙が表示されていた。
だが、この静けさにあっても、固く閉じられた扉の向こう側からは男女の艶っぽい笑い声が漏れ出てくる。午後8時を過ぎても密かに営業を続けているようだ。「営業してはだめじゃないか」と叱りながら店に入って行った中年男性。ガラス窓越しに狭い店内をうかがうと、男性はカウンターに座ってママと楽しそうに談笑していた。解放感と多幸感。世間がコロナにおびえ思うように行動できない今だからこそ味わえる格別な快楽なのかもしれない。ただ、その快楽がこの先も安全であり続ける根拠はどこにもないのだ。
上野と新宿の状況を聞いた地方都市の飲食店経営者は「昨年春の最初の緊急事態宣言の時、常連さんの中には毎日夕方5時に来て7時まで粘る人がいた。会社から手厚いケアが受けられる会社員ばかりがお客さんではないですし、家族がいないお客さんにとってはお店がセーフティーネットになっている。飲食店が悪いように言われてますが、そういうお客さんに対して『来るな』って言えるわけがない」と前置きした上で、「周囲の飲食店の売り上げは例年の5分の1から10分の1にまで落ちこんでいる。店もお客さんもこのままではもたない。従業員の生活もある。言われるままにしていたらみんなつぶれてしまう」と悲痛な声を上げた。