ルポ「東京大歓楽街」 緊急事態宣言初日の夜はいかに? 上野、新宿のにぎわい続く
東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県の1都3県に緊急事態宣言が発令された。期間は8日から2月7日までで、政府は飲食店の営業を午後8時までに短縮することや、午後8時以降の不要不急の外出の自粛を市民に要請しているが、今回の措置に実効性はあるのか? 発令初日の8日夜、大歓楽街が広がる東京の上野と新宿を歩いてみた。そこで見たものとは、酔いしれる人々の“根拠なき解放感”だった――。
テレビの報道番組だけでは分からない東京のリアル
東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県の1都3県に緊急事態宣言が発令された。期間は8日から2月7日までで、政府は飲食店の営業を午後8時までに短縮することや、午後8時以降の不要不急の外出の自粛を市民に要請しているが、今回の措置に実効性はあるのか? 発令初日の8日夜、大歓楽街が広がる東京の上野と新宿を歩いてみた。そこで見たものとは、酔いしれる人々の“根拠なき解放感”だった――。
午後7時5分。JR上野駅から徒歩5分の路地に入り込むと、JR京浜東北線と山手線の電車が騒々しく行き交うガード下にたどり着いた。ここは大中小の居酒屋が密集する都内屈指の大歓楽街で普段から大勢の人々が昼夜問わず群がってくる。都が確認した新型コロナウイルス新規感染者が過去2番目となる2392人にのぼったこの日も、この界隈のにぎわいに大きな変化は見られない。
チューハイやハイボールが300円台で飲めることで人気の巨大居酒屋。透明なビニールのカーテン越しに店内を眺めると、50人以上の客がハイテンションで酒を酌み交わしている。店員は全員マスクを着用しているが、マスクを着用している客は見たところ1人もいない。あまりの混雑のため、2人で入店した客が4人テーブルに案内され見知らぬ客と相席となるケースも見られるが、テーブルを仕切るアクリル板の類は一切なく、面識のない客同士が50センチ以内の距離でそれぞれ大声を張り上げて会話するという密状態となっていた。
「営業時間は午後8時まで、酒類の提供は午後7時まで」とするのが政府の要請だ。午後7時15分、60歳前後のサラリーマン風のスーツの男性が立ち飲み居酒屋ののれんをくぐると、店員が「ごめんなさい。今日は7時でお酒は終わりです」と入店を制止。このサラリーマンは「あ、そうなの」とあっさり引き上げた。
しかし、記者が別の居酒屋の前を歩いていると、客引きから「いらっしゃい! まだ飲めますよ」と声をかけられた。「午後8時で終わりでしょ?」と返すと、「いや、うちはまだ大丈夫です」とあっさり。また別の居酒屋の前では「いらっしゃいませー! どうぞ、どうぞ。午後11時まで開いてるよ」。店内をうかがうと30人ほどの酔客で満席状態。カウンターに座っていた客はマスクをしないで携帯電話で話し出し、唯一マスクをしていた男性客もしばし後に、マスクをあごにずらしてタバコを吸い、煙をうまそうに吐き出した。みんな笑顔で幸せそうに酔いしれている。コロナなどどこか遠くの存在のように。
午後7時30分。行き交う人の数は一向に減る気配がない。肩を寄せ合う男女2人が近付いてくると、マスクをあごにずらした客引きが「お2人様どうぞー! 飲み放題でお得ですよ!」と声をかける。居酒屋通り近くの乾物店では閉店作業が始まっていた。「あそこらへんの居酒屋、ものすごい混雑ぶりですが、どう思います?」。店員は「どうかしているよ」と思わず漏らした。
透明のビニール製カーテンすら設けていない吹きざらしの路上スナック店。男性4人、女性1人の計5人がカクテル類を飲んで大声で談笑している。女性が「神戸の〇〇から来たんです」と名乗ると、男性のうちの1人が「あー、あそこはアル中のおじさんばかりだよな」と笑った。マスクはだれ一人着けていない。政府からの自粛要請とは無縁のパラレルワールド。でも、「今、ここ」の出会いをとことん楽しもうとする各自の楽観主義は、後手後手に回る政策に対する無意識の抵抗なのかもしれない。
午後7時33分。都営大江戸線上野御徒町駅発の電車に乗って次の目的地、新宿に向かった。途中、東新宿駅を通過したところで調べてみると、車両内の乗客は22人。全員、マスク着用で疲れ切ったような表情でスマホを黙々と見つめている。優先席に座っていた30歳ほどの女性がマスクをずらして缶飲料を飲み始めた。その後、マスクを元に戻さず口を見せたままじっと目を閉じている。眠ってしまったのか。同51分に新宿西口駅に到着するやいなや、女性は目覚めて口元をマスクで塞ぎ急いで下車した。