『のど自慢』45分の密度は「緊急報道4時間分」 MCのNHK高瀬アナが明かす“意識が遠のく”壮絶な舞台裏
『NHKのど自慢』(日曜午後0時15分)は、1953年のテレビ放送開始前に1946年からラジオで『のど自慢素人音楽会』という番組名で放送され、今年放送80周年の節目を迎えた。4月から高瀬耕造アナウンサーと塚原愛アナウンサーが週替わりで司会を務めている。2人に番組の司会を担うことが決まった際の思いや放送では分からない舞台裏の様子を聞いた。すると思わず「すごい」と言いそうになる怒涛の状況を明かしてくれた。

放送80周年の節目を迎えた長寿番組の舞台裏
『NHKのど自慢』(日曜午後0時15分)は、1953年のテレビ放送開始前に1946年からラジオで『のど自慢素人音楽会』という番組名で放送され、今年放送80周年の節目を迎えた。4月から高瀬耕造アナウンサーと塚原愛アナウンサーが週替わりで司会を務めている。2人に番組の司会を担うことが決まった際の思いや放送では分からない舞台裏の様子を聞いた。すると思わず「すごい」と言いそうになる怒涛の状況を明かしてくれた。(取材・文=中野由喜)
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まずは司会になるという話を聞いた際の思いを尋ねた。高瀬アナには報道番組の印象が強いが……。
高瀬アナ「ひと言で表すと『そうきたか』と思いました。大阪放送局に3年間勤務し、戻るタイミング。当然、報道系の番組を希望しておりましたので『そっちか』と。意識の外にあった番組ですが、『そうきたか』という思いと同時に『これは大変なことになった』とも思いました」
起用にあたり学生時代の経験が大きな武器と思われたのでは?
高瀬アナ「学生時代にグリークラブに所属し、素人ながら舞台で歌う経験をしていました。でも舞台に立つ人の気持ちは分かるということぐらいです。司会とは全然違います(笑)」
驚いた様子を正直に明かしてくれたが表情は笑顔。決して拒絶反応はなかったという。一方、塚原アナは一人の視聴者として子どもと一緒に番組を楽しんでいたようだが、担当と聞いた時はどんな反応だったのか。
塚原アナ「職員でありながら自分が担当するとは考えたことも想像したこともありませんでしたので『えー私? いいの?』というのが正直な感想です。先輩たちを見てきて、いろんなスキルが必要だと分かっていましたし、それが私にあるとは思えず『大丈夫かな』と。でも好きな番組でしたので光栄でしたし、人とかかかわりながら進める番組を希望していましたのでピッタリ過ぎるくらいです」
大勢の一般人と直接、密に長時間触れ合うNHKでも稀有な番組。司会者に求められるスキルとエネルギーは想像を超えていた。
高瀬アナ「金曜に現地に入り、地域の取材などを行い、放送前日の土曜は予選会に参加する200組の皆さん一人一人全員と直接お話しします。その後20組の本選出場者が決まりますが、夕方から一気に準備を加速化させます。そのスケジュール感は怒涛の展開。20組の方の歌う前の紹介コメントや歌唱後のインタビュー内容を、取材をもとに考えます。放送当日の日曜は朝7時には会場に入り、早く来られた皆さんから順次お話ししてコミュニケーションを取り、リハーサルを重ねて本番を迎えます。初仕事の時は『これを毎回やるの?』と正直げっそりして、意識が遠くなる感じでした(笑)。本番前日の大変さ、熱量に衝撃を受けました。アナウンサーにとって緊急報道も大変な仕事ですが、後輩に『緊急報道を4時間くらいやったようなエネルギー消費量』と言ったこともあります。『のど自慢』の45分はとんでもない密度です」
塚原アナは大量のエネルギー消費に“対策”を講じているようだ。
塚原アナ「土曜の作業を少しでも速く進め、濃厚にしたいと思い、金曜にコンビニで食料を大量に買い込み2日間かけて消費しています(笑)。前任者の廣瀬智美さんから『タンパク質をたくさん取って体力をつけてください』と言われ、ゆで卵を片手に紹介コメントを考えています。食でパワーをつけながらの準備。カロリー消費量がすごいので帰りの新幹線や飛行機の中でも思いっきり食べています(笑)」
高瀬アナ「アスリートみたい(笑)」
塚原アナ「初回はあまり覚えていないと言いますか……2週間ほど前から夢に『のど自慢』しか出てこず、うなされそうなくらい冒頭のコメントをシミュレーションしていたのに、本番でいきなりそれを間違えてしまいました。これが『のど自慢』か、と思いました。土曜の200組の方へのインタビューは、うまく時間配分ができず、行列ができてしまい、トイレに行けませんでした(笑)。でも、参加してくださる方々にこんなに喜んでいただけるんだと肌で感じることができ、ありがたいと思っています」
驚きの舞台裏での努力
具体的な舞台裏を尋ねると影の努力はすごかった。
高瀬アナ「私たち2人に共通していると思いますが、土曜は午前10時には現場に入り、さまざまな準備をして、夜はホテルに戻ってから深夜までイメージトレーニングをしています。本選出場20組の方々を紹介するコメントを言ったり、その人たちの予選会の映像と歌を見て聴いて、歌唱後のインタビューの練習をして『カメラに向かってメッセージを』とか、ぶつぶつ言っています。毎回、全20組分のイメージトレーニングを終えてから眠るようにしています。最初の頃は番組の開始から終わりまで一人リハーサルをしていました」
塚原アナ「私もお風呂に入りながら20組の方の予選の映像を見て本選のイメージトレーニングをしています。お風呂から出ても資料を見ながら準備しています」
深夜まで準備。本選の日曜は朝7時頃には会場に入ると言っていたが。
高瀬アナ「前日は仮眠みたいな感じです。でも一人リハからそのまま駆け抜けた方が頭に残っている感じがしますので、そのペースは悪くないと思います。本選の日も朝から出場者の方に紹介コメントの内容を確認するなど濃密なスケジュールです。出場者の方にとっては、もしかしたら人生最大の晴れ舞台かもしれません。そう思うと全力で応えないといけないと毎回思います」
出場者を大切に思う温かいハートを感じる。ここで心がけていることやこだわりも尋ねてみた。
塚原アナ「準備も大事ですが、本番のナマ感を大切にしたいと心がけています。鐘が鳴ると空気も変わりますし、見ている人が知りたいことや出場者のその瞬間の喜び、思いを表現するお手伝いができるようにしています」
高瀬アナ「文房具にこだわっておりまして、蛍光ペンなどペンもいろいろ研究しています。最近、ふたを開けていても乾かないペンを発見しました。ふたを取っている時間さえ惜しいことが結構あるんです」
合格者が出た場合、生放送中に出場者リストに合格の印をつけるのは、その後の進行を間違いなく行うには重要な作業。だが時間はほぼ無い。司会者しか分からない苦労だ。
塚原アナ「高瀬アナは時々『このペン知ってる?』とすごくうれしそうに言っています(笑)。その乾かないペンは私も頂いて合格された方をチェックする時に使っています。間違ったら大事件というか…」
高瀬アナ「そうなんです。私、不合格の方を合格ですと言ってしまった事件があるんです。しかも同じ日に2回も。鐘2つは聞こえていましたが、出場者の方がすごく喜んでいましたので……」
塚原アナ「うれしくて、つい先走ってしまうことがあるんですよね」
高瀬アナ「私たち2人とも全員に合格してほしいと心から思っていますので」
最後に2人にとって『NHKのど自慢』はアナウンサー人生においてどんな位置づけか聞いてみた。
高瀬アナ「長くアナウンサーをやってきましたが、報道番組が長かったこともあり、視聴者の皆さんと直接、接する仕事が年々少なくなっていった気がします。今、NHK全体を見ても視聴者の方と触れ合う番組は少ないと感じます。私たちが視聴者の皆さんが何を感じ、何を必要としているかをくみ取る機会が減っていることでもあります。このタイミングでこの番組に関われたことは、視聴者の皆さんに、それぞれの考え方、人生があることを頭で分かっていても肌で感じることができる貴重な機会だと思いました。勉強させてもらっています。200組には200組の人生、生活があります。そこで聞く明るい話も辛い話も私にとって教科書のような位置づけ。もしかしたら自分に足りなかった部分がこの番組で得られているのではないかと感じます。もし私がアナウンサーとして積み上げたものが自分なりにどこかに到達できるとしたら、『のど自慢』というピースは不可欠だと思います。もしかしたら“完全体”になれるかもしれない。すごく欲しかった、必要だった機会が『のど自慢』で頂けているかなと思います」
「足りない」という言葉が気になる。
「報道番組を長くやっていて、コロナ禍の時、一方的にキャスターが感染対策の徹底をお願いしますとか、密を避けてくださいと言うことが、どの立場で言っているのかと強く疑問に感じていたんです。その先の生活する人のことを本当に分かっているのかと。新型コロナはたまたま自分も当事者でしたので理解できましたが、日々のニュースの中で、多くの人がどういう生活をしているか、いつしか遠くなっていないかと感じました。『のど自慢』の現場で、それぞれの生き方、悩み、暮らしがあるということを実感として知ったのは何事にも代えがたい経験になりそうです」
塚原アナ「私はこういうアナウンサーですと自信を持って言えることがなく、それが悩みでもありました。そんな私でも『のど自慢』を担当し、こんなにも会場となる土地の自治体の皆様、出場者の方々に喜んでもらえる番組に携われているんだという喜びが大きいんです。『こんなに!』と思うくらい喜んでくださいます。テレビ離れの声を聞く中、皆さんがこんなにも待ってくださっているということを肌で感じ、もっと頑張ろうと思えるパワーになっています。幅広い世代の方と話し、皆さんから学び、鼓舞してもらい、元気をもらい、仕事なのに、こんな貴重な機会はないと感じています」
番組を見ていると日本人は本当に歌が好きな国民だと感じる。同時にふるさとへの強い愛も。80年続く要因ではないだろうか。
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