高杉真宙が語る“選択と責任” 独立から5年で見えた現在地「人生の中でプラスの選択」

闘病生活と家族への愛をありのままにつづった実話を映画化した『ママがもうこの世界にいなくても 私の命の日記』(10月2日公開)。本作で、川口春奈演じる和(のどか)さんに寄り添った夫・将一さんという実在の人物を演じた高杉真宙が、本作に臨む上での覚悟、そして事務所独立から5年を経た今の「選択と決断」について、胸の内を語った。

インタビューに応じた高杉真宙【写真:くさかべまき】
インタビューに応じた高杉真宙【写真:くさかべまき】

実在する夫役で見つめた“支える”の意味「彼女に救われていた部分が多かった」

 闘病生活と家族への愛をありのままにつづった実話を映画化した『ママがもうこの世界にいなくても 私の命の日記』(10月2日公開)。本作で、川口春奈演じる和(のどか)さんに寄り添った夫・将一さんという実在の人物を演じた高杉真宙が、本作に臨む上での覚悟、そして事務所独立から5年を経た今の「選択と決断」について、胸の内を語った。(取材・文=磯部正和)

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 本作で高杉が演じたのは、愛する妻との時間が限られた中でも、前を向いて歩み続ける男性。現在も実在する人物に扮(ふん)することは、単なる役作りという言葉では片付けられない重みを持っていた。高杉は「オファーをいただいて、受ける上で迷いのようなものはあった気がします。自分にとってこの作品とは何か、この作品において自分はどういう役目を果たすべきなのか」とカメラの前に立つまでは、ある種の葛藤が渦巻いていたという。

 しかし、いざ撮影が始まると、高杉は自らが用意してきたプランを静かに横へ置く。そこにあったのは、ただ目の前で起きる事象に心と体を預け、自然体に呼吸する一人の人間の姿だった。

「いつも撮影に入る際、準備して現場に入るのですが、今回の作品は、それに執着せずにやっていくことが重要だなと思いながら過ごしていました。監督の演出や、共演者の方と会話をしていく中で起こる変化を一番大切にする。キャラクターとして特別意識するのではなく、ありのままのものを映していく。起きている出来事に対して、純粋に反応していくことが必要なのかなと思っていました」

 本作は、物語の時系列に沿って撮影が進む“順撮り”という手法が取られた。赤の他人だった男女が出会い、惹かれ合い、過酷な運命をともに背負っていくプロセスを実際に追体験できたことは、高杉の背中を大きく押した。

「順撮りだったのはすごく助けになったと思います。感情に沿って動くことで生まれるものも多かったですし、まっさらな状態で関係性に入っていけましたから。本当に多くのことに助けられたんじゃないかなと思います」

“選択と責任”について語った【写真:くさかべまき】
“選択と責任”について語った【写真:くさかべまき】

川口春奈に感服「すべてが演技に表れていた」

 劇中では、デートの前にご飯を食べてきてしまうといった、将一さんの少し不思議ながらも人間味あふれる行動も描かれる。「とても個性的な部分を持っている方。でも、そういった状況を作っていくものも含めて彼の性格。ある意味、ポジティブに行動できる人なのかなと思うんです」と、やや突飛な部分すらも愛おしいと思わせるそのチャーミングな魅力に温かい気持ちになったという。

 妻である和さんを演じた川口とのやり取りは、計算された芝居を越え、魂の交歓と呼ぶべき時間だった。現場で向かい合った彼女の瞳には、愛する夫への深い情愛が宿っていた。

「川口さんは本当に和さんそのままのように感じられました。将一さんにとって助けになっていた存在なんだろうなと思います。川口さんの『和さん』だからこそ見える繊細さや優しさ、愛の深さ、そして不安のすべてが演技に表れていました。そういった細かい表情や動作の一つ一つが将一さんという人間を作っていて、お互いのキャッチボールがあるからこそ物語が進んでいったのだと思います」

 病に倒れた妻に寄り添い、共に歩む夫。傍から見れば、それは尊い献身に映るかもしれない。だが、高杉が肌で感じ取った夫婦の真実は、世間的なイメージとはまったく違う形をしていた。

「将一さんは和さんを『支えた』という言葉が適切なのだとは思うんです。でも、それ以上に彼女からもらったものの大きさを実感していたんじゃないでしょうか。僕個人の感想ですが、彼自身には『支えているつもり』はなかったと思うんです。むしろ、彼女の存在の大きさに救われていた部分がとても多かったんだと思います」

「生きること」の重みをかみ締めた【写真:くさかべまき】
「生きること」の重みをかみ締めた【写真:くさかべまき】

自身で選択する際に譲れないもの「選んだからには後悔しない」

 劇中で夫婦は幾度も切実な選択を迫られる。高杉自身もまた、2021年に長年在籍した事務所から独立し、自らの足で歩む道を選んだ。あの日から約5年――。高杉はあの時の決断、そしてこれまでの時間をどのように捉えているのだろうか。

「ある種の選択の重さは、独立してより強く感じるようになりました。自分の行動すべてに責任を持つという意味では大変なことも多いですが、それを分かった上で独立を選んだので。自分の人生の中ではプラスの選択だったと思いますし、僕自身、『責任を持つこと』を求めていたんです」

 自身の裁量で物事をジャッジする機会が格段に増えた今、自らの舵を取る日々をどんな哲学を持って進んでいるのだろうか。高杉が決断の際に譲れないものがあるという。

「選んだからには後悔しないぐらいの気持ちですかね。多くの選択肢がある中で、何かを選んだからには全力で楽しんだり、向かっていったりする気概のようなものは必要かなと思っています」

 一人の女性が全身全霊で残した愛の記録は、スクリーンを越えて人々の胸に深い問いを投げかける。完成した映像に山戸結希監督のすさまじい執念と深い愛情を見たという高杉は、「生きること」の重みをかみ締めるように言葉を紡いだ。

「今、自分がここにいることの責任というか……。多くの方の人生の歩みがあって、その結果として今、ここに自分が存在しているんですよね。その事実を受け止め、命をつなげていくことの重要性をすごく感じています。僕自身ができることは少ないかもしれませんが、作品に携わることができたのであれば、そこを皆さんと一緒に支え合えるような形になればいいなと願っています」

 劇中で高杉が演じた将一が見せた優しさと強さは、高杉自身が培ってきた自らの道を行く覚悟とどこか重なって見えた。飾らない言葉でつづられた愛の記録は、川口や高杉の真摯な芝居を通して、何気ない日々を過ごすことが、いかにかけがえのないものかということを強く感じさせる。過去から渡されたバトンをしっかりと握り、前へ進もうとする高杉の背中は、静かに、そして力強く輝いている。

□高杉真宙(たかすぎ・まひろ)1996年7月4日、福岡県生まれ。2009年に舞台で俳優デビュー。12年には映画『カルテット!~Quartet!~』で初主演を務めた。14年の映画『ぼんとリンちゃん』では、第36回ヨコハマ映画祭 最優秀新人賞を受賞。26年10月2日公開の『ママがもうこの世界にいなくても 私の命の日記』への出演のほか、27年1月公開予定の『カイジ 人生リベンジゲーム』への出演も控える。

ヘアメイク:堤紗也香/Sayaka Tsutsumi
スタイリスト:菊池陽之介/Yonosuke Kikuchi

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磯部正和

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