松重豊「いだてん」は“ふん装ごっこ”ではなく「肩の力を抜いて取り組めた大河ドラマ」
俳優の松重豊(56)がNHKの大河ドラマ「いだてん」で東京都知事の東龍太郎役を演じている。もともとは大阪の人で医師だったが、主人公の田畑政治(阿部サダヲ)に押され覚悟を決め、東京都知事になった。1964年東京オリンピックが決まると、首都高速道路などのインフラ整備にまい進する。物語の終盤で中心となる人物の1人だ。どのような思いで演じたのか、聞いた。
松重豊インタビュー 東京都知事の東龍太郎役
俳優の松重豊(56)がNHKの大河ドラマ「いだてん」で東京都知事の東龍太郎役を演じている。もともとは大阪の人で医師だったが、主人公の田畑政治(阿部サダヲ)に押され覚悟を決め、東京都知事になった。1964年東京オリンピックが決まると、首都高速道路などのインフラ整備にまい進する。物語の終盤で中心となる人物の1人だ。どのような思いで演じたのか、聞いた。
――田畑さんの存在について、東さんはどう思っていたと思いますか。
「戦中戦前戦後に1度、夢破れて、その後、立ち上がって、もう1度、日本で五輪をやると思った人たちのヒューマンドラマととらえています。そういう意味では、田畑は希代のカリスマだが、インチキかもしれないし、ギリギリのことをする。今の時代に生きていたら、たぶん潰されているかもしれない。東さんは、そういう人と同士として結びついていて、都知事という役職自体も、田畑の熱意に打たれて覚悟を決めたという風に描かれていますが、たぶん、実際にそういうこともあったんだろうなと思います」
――以前、「宮藤官九郎さんの作品に出たい」と言っていましたが、今回実際に演じてみて、どのように感じましたか。
「一番言えることは、セリフが覚えやすいということ。日本語のリズムを意識している作家さんなので、言葉ではなくて、しゃべり言葉や音の情報として、台本になっている。大変なセリフでも覚ええやすくて、水のように体に吸収するんです。驚きました」
――演じられた東さんはどのような人だったと思いますか。
「本当に人柄がいいと思うが、今の時代なら、人の上に立つポジションに敢えていかなくてもいい人だったと思います。東大のボート部の出身で、医者で学者肌で、一人で何かやっていることが好きな方。とにかく孤独ですよね。都知事というポジションの重圧は大変に大きかったのだと思います」
――「いだてん」の現場は松重さんにとって、どのようなものですか。
「撮影の期間が空き長い待ち時間がある中で、放送がどんどん進んでいると、出演するまでに完全にどっぷり、視聴者になってしまうんです。視聴者になると、感情移入をしてしまって、役所広司ではなく嘉納治五郎にしか見えなくなる。どう言葉をかけていいかわからないから、(現場で)『ああ、嘉納さんだ』と緊張するんですよ。でも、現場でやっている時は、自分の出番でないところが放送されているので、放送の実感はない。こうした“時差”をどう考えればいいのか。リアルタイムで追いかけているはずなのに、ものすごくズレを感じながらやらなくてはいけない。最初からずっと出ている人は、モチベーションを保つのが大変だろうなと思います」
――視聴者として観ている時、どの人に感情移入していましたか。
「私は柔道部だったので、一応、講道館の初段を持っています。そういう人からすると、嘉納治五郎という、今まで歴史が取り上げてこなかった人物が、今は役所広司以外何者でもないという風になってきています。主人公は2人いますが、役所さんはこの物語の背骨のように、尾てい骨あたりまでは見守って頂けている、骨格の要のような感じで見ていました」
――過去に何度も大河ドラマが出ていると思うのですが、今回は1964年の東京オリンピックというかなり近い年代だと思うのですが、今までの大河と違うところはありますか。
「大河というと、入り時間が早くて、かつらをつけた後、衣装を着て、鎧をつけて、兜もあって、肉体的に負荷を負って、セリフ的にも“何かに”なる。ふん装して、歴史の人物になるという“ふん装ごっこ”みたいなところがある。今回はそれがないので。後半はこの白髪のままで、ひげだけをつけています。宮藤さんの本というのはホームドラマのようなところがあり、今の社会ものという要素もあり、会話のテンポもあるし、笑いもある。本をもらった段階で声を上げて笑うということは今までにはないこと。すごく肩の力を抜いて取り組めた大河ドラマだと思いました」
――星野源さんと大河ドラマについて話したことはありますか。
「最初は会っていたのに、急に会わなくなったので、なんで会わないんだろうなということだけは言い合っていましたね(笑)」
□松重豊(まつしげ・ゆたか)1963年1月19日、福岡県生まれ。近年の主な出演作として、映画「検察側の罪人」、「ヒキタさん!ご懐妊ですよ」、来年公開待機作として「サヨナラまでの30分」、「グッドバイ 嘘からはじまる人生喜劇」、「糸」などがある。