“監督の言いなり”だった田中圭 「おっさんずラブ」をきっかけに生まれた変化
撮影の舞台裏に言及「役を作ることが本当に苦手だと痛感させられた」
――“監督の言いなり”だった頃から変わったきっかけはどこにあったのでしょうか。
「現場で監督の演出を聞くのは当たり前だと思っていた頃から、ある程度経験を積んできて、徐々に監督と『ここ、どうしましょう』という相談をできるようになりました。そこからまたちょっと経って、自分の色を出せるようになったり、自分のやりたいことを芝居でできるようになったりもして、それを監督に判断してもらうようになって。やっぱり、若いときは『こうやりたい』と思ってもスキルや経験がなくてできない。僕は本当にいろんな演出家さんに育ててもらったという感覚が強いです。『おっさんずラブ』で、瑠東東一郎という監督と出会って(笑)。監督と役者、演出と芝居のバランスがいい意味で混同するようになりました。演出家を信じるに越したことはないですが、僕が“芝居の力”を信じているところもあるんです。今は監督に『右を向け』と言われても、左を向きたかったら左を向いてしまいます。でも、本当の新人が監督から『右を向け』と言われて左を向けないことは、僕も重々分かっています。難しいですが、経験が大きいです」
――今作で演じる義澤経男は常に笑顔を絶やさない姿が印象的です。撮影にはどんな準備をして臨んでいますか。
「よく、鏡の前で(笑顔の)練習をすると聞きます。練習しておけばよかったと(笑)。何が正解か分からないし、『ああすればよかった』『こういうのもあった』とか……。トイレの鏡の前で作って笑ってみて『これもアリだったかな』とか。でもそれは完全に作ったものだし、芝居でしかないというか……。今回は、改めて自分が役を作ることが本当に苦手だと痛感させられました。『目の前の人と向き合うということ以外できないんだな』と、若干へこんだりもして。『まあいいか』と思う反面、これが今後の課題になってくるとも感じています」
――その課題も、同じように経験を積み重ねることで解消されるのでしょうか。
「そればっかりは解消できないんです。僕はどうしても自分の整理に落とし込んだ芝居しかできないので、今回の役は挑戦です。どフィクションですが、世界観的にはそこまでフィクションではない。そこで自分がどういう義澤を作っていくのかが肝要だと思っています。リアリティから外れて作った方が簡単な役なのですが、それは僕自身なかなかできなくて。だから自分でもどういうアプローチをするのか興味深いです。それは見ている皆さんにも楽しみにしてもらいたいです」