コロナ禍の「くまもと復興映画祭」、なぜ成功した? 映画人が“一度は行きたい”と語るワケ
日本全国でどれだけの映画祭が開催されているか、ご存じだろうか。今年は映画祭が延期されたり、オンライン開催になってしまったが、例年100以上ある。その中でも、映画人が“一度は行きたい映画祭”として名前を挙げるのが「くまもと復興映画祭」だ。
熊本・熊本城ホールで「えがおPRESENTS くまもと復興映画祭2020」を開催
日本全国でどれだけの映画祭が開催されているか、ご存じだろうか。今年は映画祭が延期されたり、オンライン開催になってしまったが、例年100以上ある。その中でも、映画人が“一度は行きたい映画祭”として名前を挙げるのが「くまもと復興映画祭」だ。
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10月2日~4日までの3日間、熊本・熊本城ホールで開催された「えがおPRESENTS くまもと復興映画祭2020」。その最大の特徴は、映画監督の行定勲氏がディレクターを務めていることにある。映画祭の“顔”、行定氏は若き才能を発掘し、熊本から全国へ紹介してきた。
映画祭の成功の3大要素と言われるのが、「作品」「土地」「食」。一番肝心なものはもちろん、魅力的な作品だ。そして、目を奪う美しい土地、胃袋をわしづかみするようなグルメがあれば、さらにいい。熊本の場合は、黒澤明監督の「乱」でも描かれた熊本城があり、小一時間も車を走らせれば、雄大な阿蘇山の風景が広がり、温泉地も多い。グルメでは、その自然に育まれた馬刺しなど畜産物をはじめ、酒もうまい。映画祭ゲストも、県外からの参加者も、映画だけではなく、その土地の魅力を丸ごと楽しむ。こうした体験はオンライン上では味わうことはできない。
映画祭の本質という意味では「発見」がある。映画祭は通常の映画興行とは違って、新作のショーケースで、新たな才能や作品に出会うことができる。その工夫が、くまもと復興映画祭にはある。ラインナップは人気作を柱にしながらも、注目すべき作品を組み込んでいる。チケットは作品ごとの発売ではなく、1日ごとの通し券(通常チケット3500円)で、観客は1日に最大4作品を見ることができる。
「映画祭は出会いの場。監督と出演者の出会いもありますが、お客さんと作品の出会いもある。お客さんは目当ての作品があって来場されるんだと思いますが、お目当ての作品以外にも見てほしいと思っています」と行定氏。実際、その目論見通りで、映画の上映後に行われるQ&Aでは、「見る気はなかったが、見たら、思わぬ拾いものだった」と率直な感想を話す観客が少なくない。
映画「アルプススタンドのはしの方」(城定秀夫監督)は観客にとっては、そんな “拾いもの”の一つだった。高校野球の甲子園大会を舞台にしながらも、主人公はスポットライトを浴びる選手ではなく、その選手たちを観客席の端っこで見つめる、さえない4人組のドラマ。夢破れた演劇部の女子2人、元野球部員、帰宅部の成績優秀女子の4人の思いが、試合の展開と交錯していく……。
高校演劇を原作にした本作はコロナ禍で甲子園大会が中止になったこともあって、注目を集め、全国のイオンシネマを中心に約80スクリーンで公開。熊本でもシネコンで上映されたが、成績はあまり芳しくなかった。ところが、この映画祭では約800人の観客が熱狂。ヒロイン役の小野莉奈、元野球部の落ちこぼれ部員役の平井亜門、普段はピンク映画を数多く手掛ける城定監督が登壇。「劇中で印象的な素振りシーンを再現してほしい」とのリクエストが飛び、平井は張り切って盛り上げた。上映後のサイン会でも、人の流れが途切れることがなく、大盛況だった。