美術→お笑いの道へ ハナコ秋山が高校で味わった劣等感…アートに再挑戦したワケ
お笑いトリオ・ハナコのブレーンとして数々の名コントを生み出す秋山寛貴。5月9日、10日の2日間、東京・表参道のGallery Feles Omotesandoで開催される初の単独個展「大きくは描けない」では、彼が長年書き溜めてきたイラストが10センチ四方の小さなキャンバスになって展示される。お笑い芸人として確固たる地位を築く彼のルーツには、美術の道での深い挫折と劣等感があった。

初の単独個展「大きくは描けない」を東京・表参道で開催
お笑いトリオ・ハナコのブレーンとして数々の名コントを生み出す秋山寛貴。5月9日、10日の2日間、東京・表参道のGallery Feles Omotesandoで開催される初の単独個展「大きくは描けない」では、彼が長年書き溜めてきたイラストが10センチ四方の小さなキャンバスになって展示される。お笑い芸人として確固たる地位を築く彼のルーツには、美術の道での深い挫折と劣等感があった。(取材・文=平辻哲也)
秋山のクリエイティビティの原点は、幼少期に遡る。
「図画工作の授業が一番好きでしたし、絵を描いて褒めてもらえるポジティブな思い出がありました。中学生の頃は漫画家になりたいと夢見た時期もありましたね」と振り返る。
その情熱のままに、地元・岡山にある総社南高の普通科美術工芸コースへと進学し、油絵を専攻した。しかし、選ばれし者たちが集う環境は、秋山にとって試練の連続だった。
「周りには絵がめちゃくちゃうまい子がゴロゴロいました。授業の課題に対しても、『アートとはこうあるべき』『こういう答えを出すべき』という型にはまってしまっていて。楽しく枠をはみ出るような発想ができず苦戦していました」と、当時の苦悩を明かす。同級生の多くが美大や専門学校を目指す中で、秋山の中には次第に強い劣等感が渦巻いていった。
「当時はふざけた絵を描くのは小っ恥ずかしくて、今の作風のような自由な絵は描けませんでした。もっとお笑いのようにふざければ良かったのに、『アートとは』みたいな高校生にありがちな頭でっかちな感じになってしまっていて、自分のやりたいこととは違うアプローチをしていましたね」
そんな秋山に転機が訪れたのは、高校3年生の卒業ギリギリの3月のことだった。デッサンの授業に最後まで残り、美大への進学も視野に入れていた寡黙で真面目な生徒が、突然「お笑いの養成所に行きます」と宣言したのだ。
「美大は第一志望は落ちてしまったのですが、決まっていた大学もあったんです。密かに天秤にはかけていたんですが、社会見学的に受けておいたワタナベコメディスクールの合格を持っていたんです。突然の決断に、顧問の先生は『お前、どうしちまったんだ』と一番止めてくれましたね」と、周囲を大いに驚かせた「急ハンドル」の瞬間を振り返る。

お笑いで得た自由な発想「のびのびと描けるように」
しかし、このお笑いへの転向こそが、秋山を劣等感から救い出し、真の表現の自由を与えてくれることになった。
「お笑いの世界で揉まれたおかげで、『あ、うまい下手に関わらず、本当に自由でいいんだ』ということに気づけたんです。高校を卒業して美術の世界から離れた後にようやく、美術における正解のなさや柔軟な価値観を得ることができました。何を描いてもいいし、下手な絵だって素晴らしいし楽しい。そう気づけてからは、のびのびと描けるようになりました」
この自由な発想は、秋山のイラスト制作に大きな影響を与えている。特に、路上にチョークで立体的な絵を描く画家ジュリアン・ビーバーの作品に出会ったことがアートへの新しい目を開かせた。
「通行人が『なんやこれ、すげえ!』と驚いて写真を撮るような、楽しいのが正解というエンタメ性にすごく惹かれました。僕も自分の小さな世界観の中に、驚きとちょっとした笑いのようなエンタメを必ず混ぜるように意識しています」と、今のアートへの向き合い方を語る。
2017年からマネジャーの勧めでインスタグラムにイラストを投稿し始め、今回ついに個展開催という夢を叶えた秋山。今回の展示作品が10センチ四方という極小サイズになった理由も、高校時代の劣等感が関係している。
「ドカンとした大きな絵を描く大胆さも自信もありません。でも、授業中に先生の目を盗みながら教科書の隅に描いていたような“落書き”のサイズ感なら、自分が自由に描けるんです」と、コンプレックスを逆手にとった独自のスタイルを確立した。
そんな秋山には、この小さなキャンバスたちとともに叶えたい夢がある。
「今回の作品は10センチ四方と小さくて、キャリーケースに詰めて手軽に移動できるんです。だから、ゆくゆくは美術を学んだ地元の岡山に行きたいですね。母校の高校の美術部の部室を半日だけ借りて、生徒たちに見てもらう“部室個展”ができたら」
かつて周囲の才能に圧倒され、逃げるように「急ハンドル」を切った高校の美術コース。しかし、お笑いという強力な武器と「自由」を手に入れた秋山は今、堂々と自分らしい「小さなアート」を携えて、母校への凱旋を夢見ている。コンプレックスを乗り越え、唯一無二のエンターテイナーへと成長した秋山の作品は、かつての恩師や後輩たちにも、きっと大きな驚きと笑顔を届けるはずだ。
□秋山寛貴(あきやま・ひろき)1991年9月20日生まれ、岡山県岡山市出身。総社南高普通科美術工芸コースで油絵を専攻。2014年、ワタナベコメディスクール同期の菊田竜大、岡部大とともに「ハナコ」を結成し、ネタ作りを担当する。「キングオブコント2018」で優勝し、ブレイク。現在は日本テレビ系『有吉の壁』、フジテレビ系『新しいカギ』など多数の番組にレギュラー出演。また、日本テレビ系連続ドラマ『でっけぇ風呂場で待ってます』などで共同脚本を担当したほか、2025年公開の映画『ブラック・ショーマン』やTBS系連続ドラマ『ザ・ロイヤルファミリー』に出演するなど、俳優やクリエイターとしても多才ぶりを発揮している。身長163センチ。血液型O型。
□ハナコ・秋山寛貴 初単独個展『大きくは描けない』
日程:5月9日(土)午後1時~午後7時、5月10日(日)午前11時30分~午後6時
会場:Gallery Feles Omotesando(東京都渋谷区神宮前3-18-26)
料金:1000円(※1時間ごとの日時指定制)
チケット:ローソンチケットにて販売
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