トム・ブラウン、漫才は「aikoの曲がヒントに」 みちおの喋るテンポが“裏拍”…隠された緻密な計算

唯一無二の狂気的な漫才でお茶の間に強烈なインパクトを残すお笑いコンビ・トム・ブラウン(布川ひろき、みちお)の単独ツアーが5月からスタートする。予測不能なネタは一体どのようにして生まれているのか。2人の「漫才師としての顔」やち密なネタ作りとそのルーツに迫った。

ENCOUNTのインタビューに応じたトム・ブラウンの布川ひろき(左)とみちお【写真:高田啓矢】
ENCOUNTのインタビューに応じたトム・ブラウンの布川ひろき(左)とみちお【写真:高田啓矢】

狂気的なネタはホラー作品の世界観がベース

 唯一無二の狂気的な漫才でお茶の間に強烈なインパクトを残すお笑いコンビ・トム・ブラウン(布川ひろき、みちお)の単独ツアーが5月からスタートする。予測不能なネタは一体どのようにして生まれているのか。2人の「漫才師としての顔」やち密なネタ作りとそのルーツに迫った。(取材・文=島田将斗)

 トム・ブラウンの代名詞といえば、到底交わらなそうなものを無理やり合体させたり、みちおの常人離れした怪力やタフな体でねじ伏せたりするすさまじいネタの数々だ。ネタ自体は2人で練り上げているが、設定の種はみちおが持ち込むことが多いという。

「ゲームや映画、アニメなど、ホラーっぽい作品が好きなんです。たぶんそこから着想を得ているのかなと。映画『ザ・フライ』の人間とハエが合体する設定や、『バイオハザード』の世界観なんかがベースになっていますね」(みちお)

 SFやホラーの世界観を取り入れる一方で、猛スピードで回転する自転車の車輪を素手で「ジュッ」と止める痛々しいものもある。これは無理に体を張っているわけではなく、自身のリアルな実体験だ。

「高校時代、友達が全力で漕いでいる自転車を素手で止めたらすごく盛り上がったんですよ。だからあれ、実話です」(みちお)

 みちおはそう言って、不敵な笑みを浮かべた。

 だが、単なる狂気だけで終わらせないのがトム・ブラウンだ。ネタの最終判断を下す布川は「聞いててワクワクするかどうか」を合否のラインとして引いている。「意味が分かんなすぎて引くところと、成立してるけど何も思わないところの、ちょうどいいバランスのやつを一回作ってみる」と、ネタ選びの独自の基準を明かした。

 2人のネタを語る上で欠かせないのが、独特のテンポとリズムだ。実は布川のツッコミには、音に関するきめ細かな計算がされている。

「みちおがしゃべるテンポが、絶対“裏拍”になっているんです。昔は普通の漫才師みたいに表と表のタイミングでやろうとしてたんですけど、うまくいかなくて」(布川)

 布川は思いがけない場所でこの“法則”に気が付いた。

「家の近くの喫茶店のトイレの中で、aikoさんのジャズ系の曲が流れてて。『あれ、これめっちゃそう(2人の最適解)かも』と思って。他にも『三国駅』って曲に引っかかる音があったので調べてみたらやっぱりそうで」

 時同じくしてハマカーン・浜谷健司にも音程に関するアドバイスをもらい、aikoの半音違う独特の音程を漫才のテンポに応用していったという。

「僕がみちおのテンポに合わせてしゃべる。表でしゃべっていたらみちおのテンポじゃないから、彼の人柄が出づらいんです。ウンパッ、ウンパッ、じゃなくて、ウン、パッ、ウン、パッ、みたいな。そうしたらお客さんの反応がよくなりましたね」(布川)

オードリー若林とのエピソードを振り返った布川ひろき【写真:高田啓矢】
オードリー若林とのエピソードを振り返った布川ひろき【写真:高田啓矢】

オードリー若林の助言で原点回帰

 ほんの微調整の世界だった。この音程が合っているのか――。さまざまな客層のライブに出演し、何度も試した。

 この話を横で聞いていた当のみちおは「全っ然分かんないです(笑)。気づいたら肛門がなかった、みたいな……。自分では全く意識してないところで人とズレてしまってるのに気付いた感じ」と目を細くして笑う。一方で、DOMOTOの『愛されるより愛したい』を歌うネタではテンポがなかなか合わず150回練習。「なんか2人でイライラして」と振り返った。

 2018年に『M-1グランプリ』決勝に初進出し、ブレイクを果たした。日本テレビ系『有吉の壁』への出演は特に大きかった。

「ちょうどコロナ禍に入った時で、他の仕事もない時期でした。だからもう一日中『有吉の壁』のネタを直したりしていましたね。CMに出させてもらったりしましたけど、自分らなりには努力したつもりだったので、今も出させてもらえてるのかなとは思いますね」(布川)

 それまでは街中を歩くと逃げられたりもしていたというが、『有吉の壁』への出演でファミリー層から話しかけられるようにもなった。「M-1以外で考えたら大きかったなぁ」と視線を上にあげた。

 一方のみちおは、22年の『M-1』で準決勝敗退を喫したことが転機だった。

「切り替えてネタを作っていこうって時に、布川から『お前は設定作ってるから“考えないで”作った方がいい』と言われて」(みちお)

 布川もうなずきつつ、当時を振り返った。『M-1』敗退後、オードリーの若林正恭に落ちたネタを見てもらい、ハッとさせられる言葉をかけられた。

「若林さんに『すごく不思議で矛盾してることを言うね。笑いの取り方とか全てのレベルが上がってるんだけど、なんかちょっとだけ嫌なんだよね』って言われて。これはしまった、と思いました。テクニックとかで笑いを取れる人になりたくないと思っていたのに、気が付かないうちにやってしまってるんだなって」

 佐藤満春、にゃんこスターのスーパー3助からも同じような指摘を受け、自分たちの個性が「型」にハマり、薄まってきていることに気付いた。そこで下した決断は「全部の脳みそを捨てる」ことだった。

「不思議ですよね。よくなろうと思ってやってるけど、ある視点から見たらなんかちょっと残念なことになっているって。壊さなきゃいけない。違う筋肉使って、あるものをとにかく捨てるためには2年かかるなと思ったんです」(布川)

 みちおも「今までの経験で作ってるから、それでは全く新しいものは出せない。落ちたのがきっかけで『考えないで作ったほうがいい』と言われて、そこからネタを作るときの心がけが一気に変わりました」と振り返った。

お笑いを「作るのが楽しい」と話すみちお【写真:高田啓矢】
お笑いを「作るのが楽しい」と話すみちお【写真:高田啓矢】

「絶対ウケるパターンも正直分かるけど、それをやっても意味がない」

“脳みそを捨てる”から2年、トム・ブラウンは再び『M-1』決勝の舞台に戻った。ラストイヤーのこの年は「THEトム・ブラウン」なネタを披露し、6位に。ネット上でも話題になった。

 そんなラストイヤーを終えて2年がたった。2人はいま『M-1』をどう捉えているのか。その問いに対し、それぞれがこう答えた。

「楽しかったーみたいな感じで、なんの後悔もないです。去年のM-1とかピザとって酒を飲んで、もう楽しくてしょうがなかったっす。『また出たい』っていうよりも、これで終わってていいじゃないかっていうストーリー。でも、ネタを作ることに関してだけは『M-1』というものがあったほうがいい。人は目標があったほうがいいじゃないですか。ただ、ずっと賞レースに出ないと作れない人であるのもよくないと思うんで、次のステップってことですね」(布川)

「僕はもともと『M-1』見てお笑いに憧れた人間。ラストイヤーの時は、優勝できるぐらいのネタができたと自分で思い込んでました。ダメだった分、感情がそのまま亡霊みたいになりかけてて。『なんかヤバいな』と思ってたら、『M-1』のこと考えてる人を一人見つけて……スーパーマラドーナ武智さん。ああいう風になるんだ! と。そこで一回引き戻されましたね(笑)。今はとにかく面白いネタ作って、デカいことをちょっとずつやっていけたら」(みちお)

 原点回帰した現在の2人は、純粋に「お笑いを作る喜び」に満ちあふれている。

「体力的にはしんどいですけど、作るのが楽しい。今、作ってる時が一番好きぐらいまであります。10年たった時に誰かが参考にして見られる、誰かを後押しするようなネタ。『あの時のあの人のネタ、この道の実は一番最初だった』みたいな漫才を今後もたくさん作っていけたらうれしいです」(みちお)

「単独ツアー始まる前は捨てるネタもいっぱいあるのでしんどいですけどね。絶対ウケるパターンも正直分かるけど、それをやっても意味がない。今後は『キングオブコント』にも出るので、それに向けてもコントもいっぱい作っていきたいです」(布川)

 狂気の裏に隠されたち密な計算、そしてあえて積み上げてきた経験値を壊す度胸。トム・ブラウンのネタには、今後も驚かされること間違いない。

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