『カンブリア宮殿』意外な舞台裏 金原ひとみ氏の独自メモ、控室は女子会…名物コーナーをCP絶賛「原稿を受け取るたびに」

放送開始20周年を機に4月にリニューアルしたテレビ東京系経済トーク番組『カンブリア宮殿』(木曜午後11時6分)。新インタビュアーとして作家・金原ひとみ氏と音楽クリエイター・ヒャダインが就任したが、これまで番組の顔としてけん引してきた作家・村上龍氏と俳優・小池栄子からバトンを受け継いだ2人の現場の様子が気になる。チーフプロデューサー(CP)の小林史憲氏に、毎回、企業のトップと向き合う2人の舞台裏を聞いた。

『カンブリア宮殿』のタイトルロゴ【写真:(C)テレビ東京】
『カンブリア宮殿』のタイトルロゴ【写真:(C)テレビ東京】

小林史憲CPが称賛する新インタビュアー2人の姿

 放送開始20周年を機に4月にリニューアルしたテレビ東京系経済トーク番組『カンブリア宮殿』(木曜午後11時6分)。新インタビュアーとして作家・金原ひとみ氏と音楽クリエイター・ヒャダインが就任したが、これまで番組の顔としてけん引してきた作家・村上龍氏と俳優・小池栄子からバトンを受け継いだ2人の現場の様子が気になる。チーフプロデューサー(CP)の小林史憲氏に、毎回、企業のトップと向き合う2人の舞台裏を聞いた。(取材・文=中野由喜)

 小林CPによると、村上龍氏が築いた世界観を壊さないよう、“正当な後継者”として同じ芥川賞作家の金原氏を起用したという。金原氏はデビュー作『蛇にピアス』で強烈なインパクトを残しただけでなく、その後も社会を鋭くえぐる作品を発表し、数々の文学賞を受賞してきた。文壇の最前線を走り続けてきた彼女の、“独自の視点”を番組に生かしたかったという。

 一方、ヒャダインは、音楽業界にとどまらず、自らもタレントや司会を務めるなど、マルチに活躍する姿が時代に合っているというのが起用の理由だ。あるインタビュー記事でヒャダインが「境界を越えたい」と語っていたのが印象的だったという。MCとしてスタジオを“回す力”も長けているとして、金原氏をサポートする役割も期待したそうだ。

 ともに40代のトップクリエイター同士。しかし、番組で向き合うのは、畑違いである企業のトップたちだ。中には経済界の重鎮や人生の大ベテランもいる。初回からいきなり、伊藤忠商事・岡藤正広会長という“大物ゲスト”だった。

「初回の収録前、さすがに金原さんは緊張している様子でした。ところが、収録が始まるといきなりヒャダインさんが立ち上がり、ゲストの岡藤氏のスーツの袖を触って『いい生地ですね』と言ったんです。台本にはないアドリブでした。その瞬間、岡藤氏がうれしそうに笑い、それを見た金原さんも笑顔になったんです。リニューアル初回で緊張感に包まれていたスタジオ内の空気も緩み、スタッフ全員がヒャダインさんに救われました。なにより、岡藤氏は商社マンとして繊維一筋でやってきた“生地のスペシャリスト”。番組内容的にも重要なテーマで、一気にトークが盛り上がりました。緊張がほぐれた金原さんも岡藤氏を相手に堂々と渡り合って、本当に素晴らしいスタートを切ることができました」

 ともに経済の専門家ではない。準備も大変なはず。

「金原さんは記者会見で『プロデューサーから千本ノックを受けている』とぼやいていましたね(笑)。実は収録の10日ほど前に、私たちスタッフが膨大な資料を送っているからなんです。ゲスト本人や企業に関する記事や取材メモなど、1ゲストあたりA4サイズの紙で大体20~30枚にもなります。初回は岡藤氏の著書も送りました」

 基本は1日に2本撮り。資料も2本分となるため、倍の40~60枚も送っていることになる。読むだけでも大変な量だが、それだけでは終わらない。前任者の村上龍氏は与えられた資料を読むだけでなく、自身でも調べ、勉強し、独自の『龍さんメモ』を作って番組に臨んでいたようだが……。

「金原さんも龍さんのやり方を踏襲しています。私たちが送った資料だけでなく、ご自身でもネットの情報を拾ったり、ゲスト企業のホームページを開いたりしているようです。その上で独自の『金原メモ』を作って臨んでいます。メモは1本につき5枚くらいでしょうか。ゲストやその企業について気になる点や質問したいこと、冒頭で話したいことなどが記されています。金原メモをもとに、制作チームが質問を追加して台本のたたき台を作ります。収録の前日には金原さんと対面で打ち合わせをして、より金原さんの視点を生かす形に調整して決定稿に仕上げていきます」

 カンブリア宮殿のMC就任で、金原氏の日常もかなり変わったのでは。

「友人から『カンブリアの人だ』といじられるようになったと笑っていましたね。ただ、金原さんの負担はかなり大きく、忙しくなって予定を組みにくくなったそうなので、そこは申し訳ない気持ちです。一方で、資料を読んで質問案を考えることがルーティンになり、人と話しているときにも疑問が湧きやすくなったそうです。『がんがん質問する人になってきている』とも言っていましたね」

ヒャダインを称賛「想定を超えるアドリブ力」

 ヒャダインはどうだろう。

「逆に大量の資料は送っていません。ゲストの情報と番組概要をまとめた1枚の紙を事前に送り、収録当日に台本の流れをざっと説明するだけです。理由は役割分担。番組としては金原さんの視点をメインに立て、どんな切り口でゲストに迫るかを重視しているからです。一方でヒャダインさんには、私たちの想定を超えるアドリブ力、瞬発力に期待しています。台本にはMC2人の質問だけが書いてあり、当然ながらゲストの答えは書いてありません。ゲストには台本も見せないので、本番でどんな回答が飛び出すかわかりません。なので、ヒャダインさんには、『ゲストに合わせて台本から自由に脱線して、アドリブでトークしてください』と伝えています。予定調和になると番組がつまらなくなりますから」

 では、金原氏に期待することは何なのか。

「ジャーナリストでも専門家でもタレントでもない、企業に勤めた経験もない。そこが面白さだと思います。経済に関しては門外漢で、格好つけずに視聴者と同じ目線で素直に質問する。それでいて、独特の感性や視点で本質を突く。記者が取材するインタビューではなく、ゲストとの“トークショー”を期待しています。そして何より、龍さんから引き継いだ『カンブリア宮殿』の名物コーナー『編集後記』ですね。収録後に金原さんが書いて送ってくれますが、本当に素晴らしくて、原稿を受け取るたびに大袈裟ではなく震えています。番組では『ベルベット・ワルツ』の旋律に乗せて、ナレーターの高川裕也さんが朗読します。心に響くと思いますので、ぜひ最後までご覧いただきたいです」

 ここで2人に対するゲストの反応も聞いてみた。

「2人とも小説や音楽の世界ではトップクリエイターだし、それぞれの作品はすごく尖っていますが、本人たちはとても柔らかい。お高くとまる感じや、偉そうなところが全くない。優しくて、笑顔がチャーミングで、場の空気を温かく包み込むタイプなんですよね。スタジオも明るく楽しい雰囲気にしてくれるので、ゲストの皆さんも安心して話せているようで、みなさん収録後は笑顔で帰っていきますね」

 2人の舞台裏の面白エピソードも紹介してもらった。

「金原さんの控室はいつも女子会みたいに盛り上がっていて、廊下までにぎやかな声が聞こえてきます。一緒にいるのは『カンブリア宮殿』が初顔合わせという女性スタイリストさんとメークさんですが、すぐに意気投合したみたいで。金原さんはいろんな人からよく悩み事の相談をされるらしいので、愛されキャラというか、慈愛に満ちた人なんだと思います」

 続いてヒャダインの舞台裏も。

「とてもオシャレですね。他の番組では自前の衣装で出演することも多いようです。『カンブリア宮殿』ではスタイリストさんをつけていますが、ヒャダインさんは用意された衣装やアクセサリーの中から楽しそうに吟味して選んでいますね。金原さんの衣装を見て合わせたりもしています。金原さんもどんな服を着てもサマになる人なので、2人のファッションにもぜひ注目していただきたいですね」

 最後に今後、番組が目指す姿を聞いてみた。

「『カンブリア宮殿』という番組タイトルは、多種多様な生物が誕生した5億5000年前のカンブリア紀に由来していて、実際に番組が始まってからの20年でも多種多様な人物=経営者が生まれたと思います。一方で、番組に出演した企業のその後を見てみると、さらに成長している企業もあれば、低迷したり、倒産したりしている企業もあります。つまり、カンブリア紀と同様に、過酷な生存競争による激しい淘汰も起きるわけです。特に今は世界が激動し、社会は激変しています。メインビジュアルを作ったときに、金原さんが寄せてくれたキャッチコピーが『明日何が起こるかわからない。そんな時代の経済トーク番組』でした。まさにそうだなと。明日何が起こるかわからない時代に、企業や経営者はどう生き残っていけばいいのか。そのヒントを探っていける番組にしたいと思います」

トップページに戻る

あなたの“気になる”を教えてください