西野亮廣、興収100億円への覚悟 『プペル』最新作の“先”に見据える壮大なビジネス戦略

アニメーション映画界に新風を巻き起こし、最新作『映画 えんとつ町のプペル ~約束の時計台~』(廣田裕介監督)の公開を3月27日に控える、お笑いコンビ・キングコングの西野亮廣。希代のクリエイターであると同時に、緻密な戦略を持つビジネスマン・経営者としての顔も併せ持つ。興収100億円を目指すという「商業的成功」への執念の裏には、日本のエンタメ界を変えようとする壮大な挑戦と、恩人たちに対する泥臭い美学があった。

インタビューに応じたキングコングの西野亮廣【写真:増田美咲】
インタビューに応じたキングコングの西野亮廣【写真:増田美咲】

最新作『映画 えんとつ町のプペル ~約束の時計台~』が公開へ

 アニメーション映画界に新風を巻き起こし、最新作『映画 えんとつ町のプペル ~約束の時計台~』(廣田裕介監督)の公開を3月27日に控える、お笑いコンビ・キングコングの西野亮廣。希代のクリエイターであると同時に、緻密な戦略を持つビジネスマン・経営者としての顔も併せ持つ。興収100億円を目指すという「商業的成功」への執念の裏には、日本のエンタメ界を変えようとする壮大な挑戦と、恩人たちに対する泥臭い美学があった。(取材・文=平辻哲也)

 前作『映画 えんとつ町のプペル』はコロナ禍の2020年12月に公開され、興行収入27億円という大ヒットを記録した。最新作への期待が高まる中、西野の視線はどこを見据えているのか。

「今、何を恐れてるかって言うと、商業的に成功するかどうか。『大ヒットしなかったけどあの作品良かったよね』っていうところには絶対着地したくないんです。打ち上げでは、酒の勢いもあって、目標は100億とでたらめな数字を口走ってしまった」と笑う。

 だが、100億円は夢や冗談といったものではないだろう。その瞳の奥には「商業的成功」に対する強い執着がある。その原体験は、彼が生まれ育った環境にある。

「僕は兵庫県川西市っていう田舎町で生まれ育ったんですけど、そういう片田舎になると、商業的に成功してるものしか届いてないんですよね。『(東京のサブカルチャーの聖地)下北沢でめっちゃ人気です』とかいうのは届いてなかった。川西市に届いたのは、とんねるず、加トちゃんケンちゃん、ダウンタウン、小室哲哉。そういうものに胸躍らされて僕もエンタメに入ったので、逃げたくない。商業的な成功っていうのは、ちゃんと狙いたいなと思っています」

 表現者とビジネスマン、一見相反する2つの顔を持つ西野だが、彼は「クリエイターの脳と経営の脳、両方がないとだめ」と断言する。

「世のエンタメ屋さんと呼ばれてる、あるいはアーティストとして名をはせているウォルト・ディズニー、ピカソ、宮﨑駿さんも、クリエイターの脳と経営の脳がないと、ああいうものになり得ない。よく『宮﨑駿さんは鈴木敏夫というプロデューサーが経営面を全部やってくれたからクリエイティブに専念できた』と言われますが、宮﨑さん自身が高畑勲監督のプロデューサーをやっていた時期もある。偉大なアニメーション監督であり、超優秀なプロデューサーだからこそ、あれが作れるんです」

 西野はさらに、『エヴァンゲリオン』シリーズの庵野秀明監督の名前を挙げる。

「『エヴァンゲリオン』はパチンコもやってるわけです。つまり、パチンコにGOを出している庵野監督がいるわけで、生き残る人は絶対そこから目をそらしちゃだめ。両方やらなきゃいけないんです」

大切にしている「触る前に否定しない」の精神【写真:増田美咲】
大切にしている「触る前に否定しない」の精神【写真:増田美咲】

恩人・タモリらへの直接営業は「絶対しない」

 絵本製作でも、前代未聞の分業制を取り入れた西野だが、決して効率至上主義だけではない。彼の手法は極端なまでに泥臭いアナログと、最先端のデジタルが混在している。

「全てが効率かっていうとそうでもない。僕はめちゃくちゃ『どぶ板営業』で、チケットの手売りとやるわけですけど、会社のすべてが『どぶ板』かって言うとそうではない。こっちで手書きでやってるくせに、こっちではデジタルでアニメーション制作を進めていたりする。一つ確かなことは、どぶ板も触ってみる、AIも触ってみる、NFTも触ってみる、事業投資型クラウドファンディング(※支援者に記念グッズを渡すだけでなく、事業の利益を分配する仕組み)にも触ってみる。触る前に絶対否定しない。そこですよね」

 作品を届けるための努力は惜しまず、チケットの手売りも泥臭く続ける西野。しかし、そんな彼でも、絶対にお中元を送ったり、映画の営業をかけたりしない相手がいる。それは、絵本を書くきっかけを作ってくれたタモリや立川志の輔といった、お世話になった大先輩たちだ。そこには西野なりの深い敬意と美学が隠されている。

「何かのたびに『来てください』みたいなことは絶対言わないです。気を使わせてしまいますから。だから、そういうお世話になった先輩方には、遠くにいても届くぐらいのものを作って『あ、あいつ頑張ってんな』ってなってもらう。それでいいかなと思うんです」

 西野は、自身が愛してやまないという名作映画『シザーハンズ』(1990年公開、ティム・バートン監督)のラストシーンを例に挙げる。手がハサミの主人公が、遠く離れた恋人のために氷の彫刻を削り、町に雪を降らせる美しくも切ない場面だ。

「あの映画の最後で、恋人のところになんかシザーハンズが雪を降らすみたいなシーンがあるじゃないですか。あれがなんか、作品そのものだなと思っていて。遠くの人に届けるっていう。それは父ちゃん母ちゃんに対してもそうですし、そこに届くぐらい『元気にやってます』って伝えられればいい」

 直接顔を見せてこびを売るのではなく、魂を込めた作品という“雪”を降らせることで、遠くで見守る恩人たちに感謝と健在を伝える。それが、西野亮廣というクリエイターの生きざまだ。

「プペルワールドも、これが当たったらすぐに次を作りに行きますよ。大枠の流れはもうできているんで。ある程度当たらないと次に行けないですから、見えた瞬間にGOですね」

 泥臭いどぶ板営業と、壮大なビジネス戦略。そのすべては、極めて個人的で純粋な「物語」を、遠くのあの人に届けるため。動き出した時計はもう止まらない。

□西野亮廣(にしの・あきひろ) 兵庫県川西市出身。19歳で梶原雄太とお笑いコンビ・キングコングを結成し、デビュー直後から人気を博す。その後、童話作家や実業家としても才能を発揮し、現在は株式会社CHIMNEY TOWNをけん引。2020年公開のアニメーション『映画 えんとつ町のプペル』では製作総指揮・原作・脚本を務め、興行収入27億円のヒットを記録した。近年はニューヨーク・ブロードウェイなど海外にも活動の拠点を広げている。

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