外国人が銀座の地下で熱狂 相撲ショー急増で年収2.5倍 元力士争奪戦、朝稽古見学ツアーは悲鳴

今、都内ではインバウンド客向けの相撲ショー施設が相次いで開業している。銀座にはこの半年間で一等地に2店舗がオープン。浅草や両国、新宿などにも常設会場が広がる。出演するのは元力士で、人材確保の争奪戦も起きている。力士のセカンドキャリアに新たな道が開かれている。伝統を重んじる大相撲とは対極にあるショーアップされた相撲は、なぜ外国人観光客の心をつかんでいるのか。乱立の背景と勝因を追った。

銀座の超一等地で行われている相撲ショー【写真:ENCOUNT編集部】
銀座の超一等地で行われている相撲ショー【写真:ENCOUNT編集部】

銀座の一等地に相撲ショーが相次いで出店、元力士争奪戦も勃発

 今、都内ではインバウンド客向けの相撲ショー施設が相次いで開業している。銀座にはこの半年間で一等地に2店舗がオープン。浅草や両国、新宿などにも常設会場が広がる。出演するのは元力士で、人材確保の争奪戦も起きている。力士のセカンドキャリアに新たな道が開かれている。伝統を重んじる大相撲とは対極にあるショーアップされた相撲は、なぜ外国人観光客の心をつかんでいるのか。乱立の背景と勝因を追った。(取材・文=水沼一夫)

「WAKAー!」「MATSUー!」。雪が舞い始めた2月7日の夜、銀座中央通りから脇に入った地下の会場は、土俵を囲む外国人客の熱気に包まれていた。声援を浴びるのは、まわし姿の元力士たち。大型ビジョンには迫力ある映像が映し出され、まるでライブ会場のような雰囲気だ。

 客席の前には豪華な会席料理が並ぶ。ビーガンやハラールにも対応。給仕スタッフの言語はすべて英語だ。専門の人材派遣会社と契約しているという。ショーの締めくくりは、抽選で選ばれた一般客によるチャレンジマッチ。アメリカ人男性、オーストラリア人女性、スウェーデン人の少年が土俵に上がった。白熱の攻防の末、元力士が転がると、会場は大歓声に揺れた。

「THE SUMO LIVE RESTAURANT 日楽座 GINZA TOKYO」は今年1月7日に開業。運営する株式会社阪神コンテンツリンク・インバウンド事業部の杉本豊事業部長は出店理由についてこう語る。

「銀座というブランドが海外の訪日客に刺さると考えました。銀座は世界中から人が集まる場所で、日本の伝統文化を体験したいというニーズが非常に高いエリアです」

 改装費用は億単位。主演する元力士の一人、MATSU(元十両・彩)が「これだけの施設を用意してもらったら命をかけてやらないとお客さんに失礼」と語るほどだ。中央通りを挟み約500メートル先の銀座インズには、昨年9月に開設された別会社の常設会場もある。競合がひしめく中でも勝算はあるという。

「我々が出店する前から浅草や両国には相撲施設がありましたし、出店後も新たな店舗ができています。差別化を図ることで十分楽しんでいただけると考えています」

 同社は2024年5月に大阪・なんばで1号店を開業。当初は元力士が街頭でチラシを配っていたが、いまは不要なほどの盛況ぶりだ。銀座店にはそのノウハウを投入。ショーは「心・技・体」の3部構成で進む。「心」で所作や稽古を披露し、「技」でルールや決まり手を紹介、「体」でミニトーナメントを展開する。席数150席、料金は食事付きで大人1万7000円からと安くはないが、演出、料理ともに最高水準を目指した。

「2万円を超えるシートもあり、銀座では富裕層の利用が多いと見ています」と、顧客満足度に自信をのぞかせた。

 なぜ、これほどまでに相撲ショーが受け入れられたのか。同社が語る勝因は3つある。

元力士の新たな雇用を創出している【写真:ENCOUNT編集部】
元力士の新たな雇用を創出している【写真:ENCOUNT編集部】

調査結果をもとにした緻密な戦略 アジア系より欧米系

 まずは相撲そのものの魅力だ。インバウンドの伸長を受け、新規事業を検討し始めたのは2016~17年ごろ。リサーチや訪日客へのヒアリングで高い関心を集めたのが日本の国技・相撲だった。2023年にはNetflixで大相撲を題材にしたドラマ『サンクチュアリ -聖域-』が世界配信され話題に。一方で、「SUMO」の名は知られているものの、実際に大相撲を観戦するとなると、本場所は年6回、開催地も限られ、チケットは争奪戦だ。旅行日程に合わせて“必ず見られる”とは限らない。そこに隙間があった。

 次に、顧客のターゲットを欧米市場に集中させたことが挙げられる。訪日客数は韓国、中国、台湾が上位だが、同社の調査では相撲に強い興味を示すのは欧米層だった。広告戦略を絞り、英語圏中心に力を入れたことで、想定通りの集客に成功している。

「大阪で1年やって最終的に6割がアメリカとオーストラリアのお客様でした。残りの4割もイギリスやフランスの方々が多い。中国、台湾、韓国は数パーセントですね」

 欧米客は滞在日数に余裕があり、夜の体験型コンテンツを積極的に探していた。一方、アジア圏は短期滞在で「爆買い」に代表されるようにショッピング中心だった。

 そして最後は大相撲との差別化だ。伝統を尊重しながらも、ショーではエンターテインメントに徹した。軽快なMCを入れ、女性も土俵に上がれる。かといって、相撲の品位を乱すようなことはしない。大相撲は多くを語らない美学があるが、ショーでは丁寧に解説し、オーバーアクションで笑いを交えて盛り上げる。外国人客の嗜好と絶妙に融合させた。

 ショーの拡大は力士のセカンドキャリアにも光を当てる。WAKA(元十両・霧の若)は「生活は安定しますよね。インバウンドでも今まで日本人があんまり相手にしてこなかった世界。改めて思うとすごいこと」と語る。ショー出演前は、プロレスラーとして年間100試合に出場し、一時期トラック運転手もこなしていた。昨年はプロレスと平行し、相撲ショーに240回ほど出演したため、年収は2・5倍に増えた。

 MATSUは両ひざのけがで30歳の時に引退した。配達員や解体現場の作業員を経て、焼き肉店を開こうと修行中に声をかけられ相撲ショーに合流した。

「本当は相撲の仕事もアルバイト感覚で、こんなにしっかりやるとは思っていなかった。でも、お客さんに喜んでもらえることが楽しくなって、気づいたらもっと試行錯誤していました。自分が今までやってきた相撲がこんなに喜んでもらえるとは」

 大相撲とは全く別の世界観だという。

「すごく騒いでくれて向こうの人たちならではの感じがあって、自分たちも楽しいです。『相撲ってクレイジーだよね。でもかっこよかったよ』って言われるとめっちゃうれしいですね」

 勤務は週6日。ただ、ショー出演は原則1日1回とあって、時間も有効に使えている。相撲ショーの普及については、「バブルというか戦国時代に入っている」と指摘。現役を引退した力士の争奪戦も起こっており、「どこも人手不足。うちも欲しい。(引退する力士から)『あ、決まっちゃったんですよね』って声もちょいちょい聞きます」と話した。

大型ビジョンを使い、ショーアップしている【写真:ENCOUNT編集部】
大型ビジョンを使い、ショーアップしている【写真:ENCOUNT編集部】

相撲部屋の朝稽古見学ツアーに“異変” 「家族連れが…」

 相撲ショーの人気の高まりは、各相撲部屋で行われている朝稽古見学ツアーにも影響を与えている。

「すごい脅威ですよ。本当にびっくりするぐらいお客さんが減っている」

 こう話すのは、外国人客を派遣しているある日本人コーディネーターだ。早朝に行われる稽古中は私語や飲食厳禁で、部屋によっては未就学児が参加することができない。力士に敬意を払い、足の裏を土俵に向けてはならないなど、細かい制約もある。この敷居の高さが、“本物”に触れることを望む外国人客を引きつけてきたが、相撲ショー急増のあおりで風向きが変わってきたという。

 とりわけ、深刻なのがファミリー層の減少だ。

「去年の秋ごろからもうピタッと、本当に家族連れが来なくなりました。子どもは絶対レストランのほうが楽しいじゃないですか。エンタメとして楽しいから、笑うこともできるし、その静かにしてなきゃいけないとかそういうルールもない。一番は子どもが肉襦袢(にくじゅばん)を着てお相撲さんに体当たりとかできる。家族はその写真を撮るほうが面白いですよね。相撲部屋は当然土俵にはお客は上がれないから、ぶつかりやりたくてもできないので。家族連れってウチらにとってでかいですよ。だって一組で4人とか5人になるので。すごくありがたかったんすけど、今は1人とか2人組ばかりです。もう本当、家族連れ持ってかないでよって感じですけど(笑)」

 本物かショーかにかかわらず、相撲熱は高まりを見せている。前出の杉本さんは、相撲ショーの入り口としての役割を強調する。

「我々の施設でルールや技、所作を学んでいただき、大相撲を見ていただければより理解が深まる。あくまで日本の文化を学び体験していただく場です」

 訪日客が過去最高を記録する中、続々と生まれるインバウンドビジネス。本場所とは別の土俵で、相撲は静かにその裾野を広げている。

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