「不便だが、生きづらくはない」性別移行の40代トランスジェンダー、女性専用スペース論争と社会との折り合い
40代後半で性別移行を決意したトランスジェンダー女性のまやさん(@maya_seekers)。25年以上、ITエンジニアとして働き、社会の荒波を生き抜いてきた彼女が直面したのは、SNS上での誹謗中傷と、昨今議論を呼んでいる「女性専用スペース」をめぐる社会の厳しい視線だった。インタビューの第3回では、当事者として一歩引いた立場から語る、社会との「折り合い」の付け方に迫る。

「ネット」と「現実」の間にある乖離
40代後半で性別移行を決意したトランスジェンダー女性のまやさん(@maya_seekers)。25年以上、ITエンジニアとして働き、社会の荒波を生き抜いてきた彼女が直面したのは、SNS上での誹謗中傷と、昨今議論を呼んでいる「女性専用スペース」をめぐる社会の厳しい視線だった。インタビューの第3回では、当事者として一歩引いた立場から語る、社会との「折り合い」の付け方に迫る。(取材・文=幸田彩華)
性別移行を開始して以来、まやさんは「ネット」と「現実」の間にある乖離(かいり)を肌で感じている。
「SNSではトランスジェンダーに対して攻撃的な言葉が飛び交っていますが、私の周りの現実は全く違います。男性は背中を押してくれるように送り出し、女性は手を引っ張ってくれる。現実の人間関係は本当に温かいんです」
SNSで執拗(しつよう)に攻撃を繰り返す「トランスヘイター」と呼ばれる人々についても、分析は極めて冷静だ。
「本当にトランスジェンダーが憎くて攻撃している人は、わずかだと思います。多くの人は、社会への不満のはけ口として、攻撃しやすい対象をたたいて快楽を得ているだけではないでしょうか。私自身、就職氷河期世代として社会の厳しさを経験してきましたが、今の世の中がそうした『心の余裕がない人々』を生み出してしまっている。そこに原因がある気がしています」
「女性スペース」利用、当事者としての現実的な答え
今、最も議論が紛糾しているのが「トランスジェンダーの女性トイレや女湯の利用」だ。このテーマについて、まやさんの考えは現実的で、抑制的でもある。
「手術を受けた人は女性トイレに入ってもいい、手術してない人は使っちゃダメとか、当事者の中でも意見は分かれています。『見た目が女性なら女性トイレを使うべきだ』という人もいれば、『それでも入ってきちゃダメ』という人もいる」
こうした意見の相違が当事者同士の争いも生んでしまう。
「本当に悩んでる人にとってはすごく迷惑な話。困りますよね。そういうことをされると非常に風評被害を受けるので」
さらに、SNSなどで話題になる「女装して女性トイレに入って盗撮する人」についても、疑問を感じている。
「そもそも女装して女性トイレに入って盗撮してる人は、本当にトランスジェンダーなの? 一般の男性が、女性トイレに入る目的で女装してやってるだけなんじゃないの? トランスジェンダー全体を批判するのはちょっと違うじゃないの? と感じます」
既存の女性たちの「安心感」を優先する
施設利用のルールについては、「管理者が決めたルールに従うべき」というスタンスを貫く。
「手術の有無や戸籍にかかわらず、管理者が『ダメ』と言うなら、それに従うのが社会のルール。不便さはあるかもしれませんが、多目的トイレを利用すれば済む話です」
大切なのは、既存の女性たちの安心感を脅かさないことだと話す。
「トランスジェンダーで女性風呂に入りたいって思う人、ほとんどいないんですね。それがまず大前提になりますね」
そのうえで、仮に利用する場合でも「今の法律に従う」ことが現実的な答えだという。
「法的には女性に変わりますけど、法律で本当に決められているのは、その施設の管理者が決めること。施設の管理者が『ダメですよ』って言ったらダメ。今、そういう法律の仕組みになっているので、それでいいんじゃないかなと」
戸籍変更や手術を経たとしても、施設側が認めなければ利用しない。結果的にそれが「女性スペースを守る形」になっているのではないか、と捉えている。
「ちょっと不便かなっていうのはあるけれど、生きづらいっていうところまではいかないです。女性トイレがダメって言われたら多目的トイレ使えばいいし、お風呂なんかも、ダメですって言われたら行かなければいい。それだけのことなので」
一方で、こうした議論や摩擦の中で、心を病んでしまう当事者も多いという。
「病んでいる人も多い世界。うつ病とか、先天的な精神障害、ADHD、いろいろありますけど、そういうのを併発している人も結構多い世界なんですよね。だから、ちょっと難しい世界なんです」
「40代からだって、諦めなくていい」
性別移行という大きな変化を経て、心境にも変化が訪れた。かつては違和感しかなかった「男性時代の自分」を、今は否定せずに受け入れられるようになったという。
「あの頃があったから、今の自分がある。そう思えるようになったことが、自分にとっての『生活の質の向上』だと感じています」
現在SNSで自身の経験を発信しているのは、同じように年齢で悩んでいる人たちに「諦めないで」と伝えたいからだ。
「諦めないことですね。それが一番重要かな。20代だから、30代、40代だからといって諦めないこと。それが一番大切かなと思います。40代からだって美しくなれるんだよとか、体力はもちろん落ちてくるけど、どんどん活躍できるんだよっていうのを言いたいです。年齢を理由に諦めないでって」
おしゃれをして前向きになることで、周囲の反応も変わっていく。そう実感している。
「おしゃれになっていけば、どんどん輝いて、周りの人の自分に対する接し方も変わってくるので、それもいいことだと思います。やっぱり前向きになるってことですよね」
ネット上の攻撃的な言葉とは対照的に、現実の人間関係には温度がある。まやさんの言葉は、当事者が抱える葛藤と、社会の中で生きていくための現実的な選択を映し出していた。インタビューの第4回では、まやさんが意外な趣味を語る。
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