「え?本当に格闘技やってたの?」医師が絶句した青木真也のレントゲン写真、20年戦って無傷の裏にある哲学【青木が斬る】
2003年のプロデビュー以来、日本総合格闘技界のトップを走り続けてきた青木真也(42)。格闘家としてだけでなく、書籍の出版やnoteでの発信など、文筆家としてもファンを抱えている。ENCOUNTで2024年5月に始まった連載「青木が斬る」では、格闘技だけにとどまらない持論を展開してきた。今回はキャリア20年・青木の健康への哲学を聞いた。

連載「青木が斬る」vol.16
2003年のプロデビュー以来、日本総合格闘技界のトップを走り続けてきた青木真也(42)。格闘家としてだけでなく、書籍の出版やnoteでの発信など、文筆家としてもファンを抱えている。ENCOUNTで2024年5月に始まった連載「青木が斬る」では、格闘技だけにとどまらない持論を展開してきた。今回はキャリア20年・青木の健康への哲学を聞いた。(取材・文=島田将斗)
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「え? 本当に格闘技やってたの?」
青木の首のレントゲンを見た医師が思わず口にした。それはキャリア20年と思えないほどクリーンな状態だったからだ。
格闘技のようなコンタクトスポーツでは首のケガはよく聞かれる。タックルや首で体を支える動作、また頭部に打撃を受けるなどで首にダメージは蓄積していく。変形性頸椎症や頸椎椎間板ヘルニアを引き起こすケースは後を絶たない。
「首のケガに関しては怖いなと思って。いろいろ事故が増えてきて個人的に検査をしましたね。レントゲンを撮ってもらって、『信じられない』って医者に言われて」
その理由は生まれつきタフな体だったというだけではない。練習から体には気を遣ってきた。昨年11月の試合前には目の上をカットし気にしていた。
「極力ケガはしたくない。歳を食ってから首から突っ込むような動きは練習ではしない。打ち込みはやるけど、試合のドンズバで入ればいいやって思っているので」
首だけではなく、脳のMRIは20年間、毎年撮影している。異常が認められたことは一度もないが、2022年11月のザイード・イザガクマエフ戦(1R・TKO負け)後には脳にダメージを負った形跡があった。
「陳旧化していてね。出血があったんだけど、もう抜けてはいます。まぁ大したことに至らなくて良かったっていうのが本音です」
データを積み上げることの大切さも強調「どこでどうケガを負ったか分かる」
この形跡をはっきりと判断できたのは継続して撮影してきたからでもある。「みんなが分かってない」とため息を吐きつつ、明かしたのはデータ蓄積の大切さだ。
「今、『ケガした、出血しているね』ってことじゃなくて20年前から、毎年1年ごと定期的に撮っていたとしたら、どこでどうケガを負っていったのか分かるわけじゃないですか」
分かりやすい例として挙げたのはテストステロン値だ。現在42歳で「年なりに落ちてて、まあ下限ギリギリ」と自虐気味に明かす。
「自覚症状があれば、テストステロン補充の療法ができるって言われたけどドーピングになっちゃうから遠慮しました。これも20代の時の数値があれば、どうやって落ちてきたかが分かる。最初から低い人もいれば、いきなりドーンと下がってる人もいる。データが蓄積されれば推移が分かるんです」
その合理的な考えは練習にも表れている。自身にとって体は「商品」であり、若い頃から「消耗品」として向き合ってきた。
「お金をもらわずにケガをする意味が分からねぇなって。バチバチの練習をする意味が分からない。試合で練習したほうが良くない?って思うんです。試合をいっぱいしていた時期があるんですけど、そういう理由です」
30代半ばからはスパーリングでタックルに入ることはしていない。イメージトレーニングだけは欠かしていないが、「首怖えから……。だから運動だよ」と笑った。
青木が徹底した健康管理をしている一方で、両者フラフラになるまで打ち合う、そんなタフファイトが今も昔もファンの感動を呼んでいる。それらを否定することはしないが、一緒になって称賛することもない。
「ケガをしたら意味ないじゃんってね。全然否定はしない。タフファイトをして盛り上げるのもアリだとは思います。でも、危ないことをしなくて盛り上げられるんだったら、それの方が良くない?」
派手、豪快、鮮やかと表現される技は盛り上がる。青木の目には、それは当たり前で「腕がない」ように映ることもある。
「腕がないだけでしょ?と思っちゃう。俺の試合がすごい面白いかって言ったら、微妙だなって思うのもある。すごい淡白な試合だと思いますし、一回もタフファイトしたことないですから。でも、話題になって生き残ってるわけじゃないですか」
試合前後の行動や発言、そして試合のパッケージでトップニュースになってきたのが青木。「面白い、人を魅了するってことは大事。ただタフファイトしか盛り上がらないっていうのが一番良くないと思っちゃう」と首を傾げた。

「綺麗ごとで格闘技をやってない」
その境地に至るまでには葛藤もあった。青木が健康に気を遣いながら練習をしている一方で周囲は強度の高いトレーニングを積んでいる。
「ドーピングと一緒ですよね。周りがやってるから『自分だけ大丈夫なのかな?』って。恐怖感はありますよ。でも、俺はさ、仕事としてやってるから」
“職業・格闘家”で20年のキャリアを持つ。つまるところ、この職業でお金をどれだけ稼げるかどうかにも頭を巡らせてきた。
「例えばめっちゃハードなスパーして、めちゃくちゃ寿命を削って2~3年で稼ぎ切って辞めるっていうのいいと思う。一生分……二生分、三生分、四生分、五生分稼げるならいいですよ。でも、俺にはそんなの無理だと思った。綺麗ごとで格闘技をやってないので」
その現実志向は業界やマスコミにも向けられた。業界全体で安全を確保することは無理だと断言し、その理由を「ドーピングだって検査してない。全てが雑」と説明した。
そのうえで「組合もない。労働者の権利も守られていない。あっても逆に成り立たない。だからすべては自己防衛、自衛でしかないんです」と切り捨てた。
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「無理だと思う」と言われたときにすぐに言葉は出なかった。安全確保には莫大なコストがかかり、団体ごとに事情も違う。「死んでもいい」という気概でリングに上がる選手の思いは誰にもコントロールできないうえ、他者が踏み込むべき領域ではない。傷つけ合うことを前提とした戦いで安全を説くことは、熱狂に水を差すような行為ですらあるように感じる。
しかし、格闘技は事故ひとつで廃止論も出てしまう危うさを他のスポーツよりも背負っている。綺麗ごとだけでは、どうにもならないことは分かっている。それでも、選手が身を守るための知識を、ファンが危険性を正しく理解するためのリテラシーを広めることこそがメディアの役割だ。この文化を守っていくためにも、筆者は「格闘技と安全」について一石を投じ続ける。
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