Reol、原点回帰で表現した“自分勝手な音楽” 癖を突き詰めた先にあった「唯一無二」

歌手のReolが1月21日に2年3か月ぶりとなる新アルバム『美辞学』をリリースする。2026年を“リスタート”の1年と据えるReolにとって、重要な意味を持つ1枚に仕上がった。原点回帰で作り上げた今作に込めた思い、さらには、ストイックに音楽と向き合うReolの歌い続ける理由を聞いた。

インタビューに応じたReol【写真:Jumpei Yamada】
インタビューに応じたReol【写真:Jumpei Yamada】

2年3か月ぶりとなる新アルバム『美辞学』インタビュー

 歌手のReolが1月21日に2年3か月ぶりとなる新アルバム『美辞学』をリリースする。2026年を“リスタート”の1年と据えるReolにとって、重要な意味を持つ1枚に仕上がった。原点回帰で作り上げた今作に込めた思い、さらには、ストイックに音楽と向き合うReolの歌い続ける理由を聞いた。(取材・文=中村彰洋)

――『美辞学』は約2年ぶりのアルバムとなりますが、同作への思いをお聞かせください。

「そもそもの初期衝動をたどると自分が今のような活動をはじめた原点は『アルバムを作りたい』という思いからでした。ニコニコ動画で活動していて、いろいろな曲を歌ったり、ボカロ曲を作る中で、アルバムというものに憧れがありました。今一度『ちゃんとコンセプチュアルなアルバムが作りたい』というのが今回の出発点。2025年は単曲でのリリースを止めて、11月の横浜アリーナでのワンマンで情報解禁すると、かなり前から決めたうえで、チームで動きながら作りました」

――『美辞学』というタイトルにはどういった思いが込められているのでしょうか。

「武道館ライブ(24年)の準備をしていた頃に『美辞学』という言葉にたどり着きました。私は、作詞をする時に辞書やシソーラスをたくさん見るのですが、そこで知った言葉だったと思います。字面の美しさももちろんですが、言葉を巧みに用い弁論、説得をすること。その可能性を追求していく学問を指す言葉です。この言葉を知った時に、自分が音楽活動を通じてしてきたことに近しいと感じました。

 結局のところ、自分に何か足りない気がするから歌を歌っているだけ。だけど、歌っていく中で意味や理由が欲しくなっちゃうんです。この11年でいろんな経験をさせてもらって、結局分かったことは『自分が納得したい』ということでした。自分で自分を説得したくて、そしてそれを音楽でやっている気がしています。そういう意味でも『美辞学』や『レトリック』という言葉が自分っぽいなと思いました」

――今作は『美辞学』というアルバムタイトルを決めてから、楽曲を作られたのでしょうか。

「そうです。2024年に出した『秘色録』というEPのタイトルも『美辞学』と対になるようにしました」

――今作は全体的にアップテンポな楽曲が多い印象を受けました。

「自分の中では、今回はある種の1stアルバムを作るような感覚でした。メジャー初アルバムのタイトルが『極彩色』で、前作のアルバムが『BLACK BOX』。ずっと塗りつぶしてきて、黒くなってしまった。だから『BLACK BOX』を作った頃は、燃え尽きというわけではないですが、締めくくりに入っていたんです。『これが最後の章でもいい』という感じが自分の中でありました。

『美辞学』はその先に在るものだから、作ろうとするのではなく、作りたいと思えるまで待った感覚です。そうなってくると、おのずと私の本質が出てきました。そもそも元来私は、言い切る美学を大切にしていて、白黒はっきりつけたいタイプなんです。

 白黒つけることによって生じるあつれきをこの10数年で知ってしまったから、グレーや周りの曖昧に合わせることも大事だなと理解はしています。ですが、それすらも自由でいられるのが音楽というフィールドだと思うんです。自分勝手で許される唯一の場所だと思っているので、それが抽出された結果の“イケイケ感”が表れているんだと思います」

『美辞学』に込めた思いを明かした【写真:Jumpei Yamada】
『美辞学』に込めた思いを明かした【写真:Jumpei Yamada】

「Reolを締めくくるとしたら」と考えて誕生した『うつくしじごく』

――『BLACK BOX』リリースのタイミングでは、休止も頭によぎったということでしょうか。

「もちろんありましたね。休むというよりも、音楽をやっていない状態を想像することによって、またやりたくなるのかを自分に問いたくなりました。そうでないと、他人に聴かせるに値しないと思うんです。

 もちろん長く続けていくことは、清濁併せ呑むことにもつながるとは思いますが、私の理想の“続ける”は、その都度今と全力で向き合って、『もう何も出ない』みたいな状態になって、だけどその道はなんだかんだとつながっていって『そんな時代もあったね』と笑いながらも続けていることなんです。

 辞めたいわけではないけど、出てこないなら一回筆を置いたほうがいい。じゃあ、『もしもReolを締めくくるとしたらどんな曲なんだろう?』と考えた時に『うつくしじごく』を作りました」

――なるほど。では、『うつくしじごく』は早い段階で作られていたんですね。

「そうです。アルバムの母って感じですね。この曲を作るのにすごい時間が掛かったし、1番だけ作ってしばらく置いておきました。作り終えて『できた!』と思ったら、辞めちゃうかもしれないじゃないですか。そう考えたら、筆が乗らなくなっちゃって……。

 最後だと思うなら、すごいいい曲にしたい、全部やりたい、全部詰め込みたい、とかいろんなことを考えながら完成させました。『うつくしじごく』ができたら、やっぱアルバムを作りたくなっちゃうんですよね(笑)」

――『うつくしじごく』を世に放つためのアルバムですね。

「『うつくしじごく』を母として、それを構成する世界を作りたくなりました。『じごく』を作ってからは一気にせきを切ったように湧き出てきました」

――アルバムの最後は『美辞目録』となっていますが、コンセプチュアルなアルバムとしてはラストらしくない印象を受けました。

「確かにそうかも。最後が落ち着いていくようなアルバムも好きですが、今回に関しては『まだ終わりじゃないぞ!』と未来の自分に発破をかける感じにしたかったからかもしれません。『美辞目録』は最後に書いたので、あとがき的な感じがありつつ、最後の最後に言いたいことを全部詰め込めるようなリズムにしたらどうなるかなと、実験的に作った部分もあります」

――「Reolを締めくくるとしたら」と考えて作った『うつくしじごく』。そんな楽曲を母とするアルバムを作り終えての思いはいかがですか。

「すごく不思議で『アルバム作ろう』って時は、『過去のアルバムを超えなければ』とハードルが上がって腰が重くなるんです。だけど、作り始めるといろんなトラックメーカーさんと組んだりして、外の風も受けるので、『こういう曲調もやりたい』とかが生まれてくるんです。それが未来の創作の欠片となっていくんです。

 アルバムの輪郭が見えてくると、『この曲はちょっと合わないかも』みたいな曲が溜まっていくんです。気に入っている曲もあったりすると、『これを核にしてアルバム作るか?』みたいな感じになったり(笑)。作ることによって作りたくなるんですよね」

春のツアーではあえて小キャパのライブハウスを選択【写真:Jumpei Yamada】
春のツアーではあえて小キャパのライブハウスを選択【写真:Jumpei Yamada】

横アリで“断髪”の驚きの演出「全部切り捨てて次に進みたかった」

――横アリでのワンマンライブのタイトルは事前アナウンスでは『無題』となっていましたが、ライブ内で『美辞学』と発表されていましたね。

「そうなんです。そこですべてが分かるという日にしたかったんです」

――突然のサプライズ発表にお客さんの反応はいかがでしたか。

「『無題』だと思って来たら、いきなり『美辞学』と言われて、『え、どんな字?』とか、いろんなことを思ったと思います。新曲も3曲披露したので、大混乱だったんじゃないかな(笑)。2024年の日本武道館公演は、10年間を総括するような内容かつ、一番最初にリリースしたアルバムに焦点を当てたライブになっていました。自分の音楽を“懐古主義”にしたくはなかったので、武道館は10周年を祝福する日、横アリがその次のステップに進む日と位置づけていました」

――横アリライブでは、ステージ上でご自身の髪を切るという演出で観客を驚かせましたね。

「『BLACK BOX』のアルバムツアー(23~24年)の時にショートボブにして、それから2年半ずっと伸ばしていました。横アリの半年前ぐらいに、衣装さんから『すごい伸びたね』って言われて、『いっそ切るならMVとかライブで切りたいよね』という話になりました。MVで切るのは見たことがあったので、『だったら絶対ライブですよね』と盛り上がって決めました。

 人生で一番の長さまで伸ばしていて、その間はとても新鮮に思いました。と同時にその姿がどこか自分っぽくないとも思っていて、いつかは切りたいと思っていました。そもそも私はルーティンワークが本当に苦手で、だからこそ音楽をやっているのに、『音楽もルーティンなのかよ』みたいな絶望感があったりもしました。

“未だやったことのないこと”が減っていく中で、いろんな好奇心に手を伸ばして鮮度を保つことがとても重要です。1枚目のアルバムを作った時のような感覚を、もっと言えば作らずにはいられなかったあの衝動を、自分の中で思い起こす必要があります。そういったフラストレーションみたいなものとか、自分の中に溜まっていく言語化できないネガティブな感情も、全部切り捨てて次に進みたかった。『美辞学』からは章が変わるので、だとしたら横アリで切るべきだなって」

――武道館、横アリと大きいステージでのライブが続きましたが、一転して今年のツアーは小規模なライブハウスでの開催も目立ちますね。

「大きい会場では、すてきな景色を見させてもらえます。私は、自分の音楽が世の中に求められていることを、視覚情報として得られる唯一の体験がライブだと思っています。『楽曲が何億再生されました』『MVが何千万再生されました』とか言われても、あまりピンとこない。でもライブは『自分の音楽がこの世に存在していていいんだ』と思えて、救いになるし、それが活動を続ける理由の一つだったりもします。

 だからこそ、大きい舞台でみんなで音楽を2時間享受する時間は必要だと思います。でも、あれってとても非日常なんです。小さい箱のほうが、距離が近いし、視線が分かるので緊張します。だからこそ、そのヒリヒリ感を味わいたくて、今回のツアーの形になりました」

――あえて小キャパの会場を選んだりもされたということでしょうか。

「高校生の頃に地元・長野のNAGANO CLUB JUNK BOXでライブをしていて、そこに行きたいとお願いしたりもしました。行ったことのない場所にもたくさん行きます。行ったことない場所は集客的に難しいのは理解していますが、自分にあえて何かを課すことが私は好きで、それを突破して今までの歴史を作ってきたので、未踏の地でたくさん“自己弁論”をしてきます」

自身の音楽性について語った【写真:Jumpei Yamada】
自身の音楽性について語った【写真:Jumpei Yamada】

突き詰める自分の音楽「このままどこまでやれるかな」

――Reolさんは音楽に対してストイックに向き合っているからこそ、リスナーが求めている音楽についても深く理解されている印象です。どのような思いで楽曲を作られているのでしょうか。

「自分は昔からカウンターが得意な人間だと思っています。王道に対して、『こういうのも良くないですか?』と逆提案が得意なタイプで、学生時代からそうでした。いわゆるカーストやヒエラルキーにいかに属さずにいられるか、みたいな感じで生きてきた人間なんです。

 ポップス然としてない人間が、必死にやるポップスも必要かなと思っています。音楽に救われる可能性のある人が、必ずしも音楽好きとは限らない。だからこそ、私がそういうジャンルの壁を壊そうとしないと、そういう人たちに出会うことができないと思っています」

――そういう意味では楽曲に対して、反応がもらえる瞬間が一番うれしかったりするのでしょうか。

「そうですね。広く聴かれたりするとうれしいです。だけど、そればかりに気を取られるのもあまり意味ないかなと思っています。普遍的な良さって勝手に伝わるものだと思っています。はやりを作るのは難しいことで、めぐり合わせみたいなものでもあるので、そこはあまり意識しすぎずに、自分の創作意欲のままに熱量をもって作品を残していく。そうすれば、また数年後とかに気付いたらはやってるんじゃないかなって(笑)。実際にYouTubeやTikTokなどで時差で過去の楽曲が気付いたらバズってるという経験を何度かしたので、それでいいと思っています。

 今年、中国・上海で空山基さんという美術家の方の個展を観に行きました。セクシーロボットを何十年も描いている人なのですが、その個展が本当に良かったんです。どの作品を見てもそればかりなので、いつ描いたかが分からないんです。おこがましいながら、その時に私もこうなるのかなとちょっと思ったんです。

 高い声で歌いたいから高い曲を作っているわけじゃないし、早口で歌いたくて歌っているわけじゃない。私の音楽の癖なんです。でも、それを突き詰めていけば、唯一無二になれるんじゃないかなって。そもそもはやりに乗れる人間だったら、こういう仕上がりになってないです(笑)。このままどこまでやれるかなと楽しみでもあります」

――さまざまな形を経て、今の“Reol”があるかと思いますが、音楽との向き合い方に変化はありましたか。

「基本的に最初の頃からずっと変わっていません。ボカロ時代から、自分よりも少し上の人をライバル視するようにしています。ニコ動でいえばカテゴリーランキング1位の人を意識して、自分には何が足りないのかを熟考していました。ちょっと上の人を“仮想敵”とすることで、上がっていける気がしますし、それが多分好きなんです。

 ニコ動からフィールドを移したのも、カテラン1位が続くようになったからです。『ボカロを捨てた』『ニコ動を捨てた』とかいろいろ言われましたが、1番になったところにずっといるのって私は嫌なんですよ。無理かもしれないけど、届きそうな次の夢に行きたいと思ったからなんです。これからもずっとそうしていきたいです」

――現在もそういった“仮想敵”となる方がいらっしゃるわけですね。

「そうですね。そういう人に対してリスペクトもあります。嫉妬ってリスペクトと近いじゃないですか。絶対に届かないような人には嫉妬しないと思うんです。だから『悔しい』と思えるって、もしかしたら近いのかもしれないですよね。そういう人を見て学びながら、成長できればいいなと思っています」

――2026年はリスタートの年とのことですが、どういった1年にしたいですか。

「アルバムツアー自体が久々。ツアーって回っていくうちに、変化していくと思うので、その先にどういうことを感じるのかに興味があります。3か月ぐらいのツアー期間で、何か生まれそうな気もしています。それが次の自分の道しるべになっていくと思うので、一体どんな曲調で、どんなものになのか楽しみです。

 アルバムツアーでは、コアなリスナーと向き合う時間をじっくり取れると思います。このアルバム期間は『Reolとは』というものにたくさん向き合ったので、その先はまた大通りに出て、自分だけでは見ることのできない広い世界を見てみたいです」

――アルバムツアーを走り抜けて、感情がどのように変わるのかも楽しみですね。

「そうですね。話は変わりますが、『しいたけ占い』の2026年上半期のが出ていて、それで『感謝のフェーズは終わりです』ってなっていて、『だからか!』って思ったりもしました(笑)」

――占いとかを信じたりもされるんですね(笑)。

「どうなんですかね。見る分には好きですが、占いって1日寝たら忘れちゃうんで、このインタビュー原稿を見て、また思い出してるかもしれません(笑)。でも願掛けや験担ぎとかは好きですね」

□Reol(れをる)2012年からニコニコ動画で歌唱動画などの投稿を始める。15年7月にれをる名義でアルバム『極彩色』をリリース。16年3月にはサウンドクリエイターのギガ、映像クリエイターのお菊とともにユニット・REOLとしての活動をスタート。17年8月にユニット・REOLの解散を発表。18年1月にはReol名義でソロとして再始動した。26年1月21日に2年ぶりとなる『美辞学』をリリース。3月からは全国21都市を巡るツアー「Reol Oneman Live 2026 “美辞学”」を開催する。

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