クマ問題渦中の上映は不謹慎? 「お蔵入りの不安もあった」映画『ヒグマ!!』監督が明かす公開延期の葛藤

俳優の鈴木福が主演を務める映画『ヒグマ!!』が、公開延期を経て1月23日に待望の劇場公開を迎える。闇バイトの世界に足を踏み入れた主人公が、反社会的勢力や“規格外のヒグマ”から命がけの逃走を図るモンスターパニック映画の話題作。全国でクマ被害が深刻化する中、公開延期の受け止めや、作品に込めたメッセージについて、内藤瑛亮監督を直撃した。

1月23日に待望の劇場公開を迎える映画『ヒグマ!!』【写真:(C)2025映画「ヒグマ!!」製作委員会】
1月23日に待望の劇場公開を迎える映画『ヒグマ!!』【写真:(C)2025映画「ヒグマ!!」製作委員会】

当初は昨年11月21日に公開予定も、相次ぐクマ被害を受け公開時期を延期

 俳優の鈴木福が主演を務める映画『ヒグマ!!』が、公開延期を経て1月23日に待望の劇場公開を迎える。闇バイトの世界に足を踏み入れた主人公が、反社会的勢力や“規格外のヒグマ”から命がけの逃走を図るモンスターパニック映画の話題作。全国でクマ被害が深刻化する中、公開延期の受け止めや、作品に込めたメッセージについて、内藤瑛亮監督を直撃した。(取材・文=佐藤佑輔)

――「闇バイト×ヒグマ」という異色のテーマに取り組んだきっかけは。

「企画立ち上げは2年前。プロデューサーとは当初、全然別の企画をやっていて、その打ち合わせの中で『闇バイトがヒグマに襲われる』ってアイデアをプロデューサーが語ったら、出資会社が乗り気になって、もともと持ち込んでいた企画は二の次にして本作を撮ることになったんです。闇バイトとクマ被害という日本が抱える2つの大きな問題をフィクションでぶつける。それはジャンル映画を撮る上でのひとつの正しい考え方だと思ったんです。

 主人公が犯罪者でやましいところがあるがゆえに、ヒグマに襲われても警察にも頼れない、世間からは自業自得と言われても仕方のない状況に置かれる。でも闇バイトってすごく身近な存在で、現実にはふとしたことでそこに転がり落ちてしまう若い人もいると思う。そんな主人公を通して、今平和に生きている人の足元を揺らがせるような物語を作ろうと思いました」

――主演・鈴木福のキャスティングに関しては即決だった。

「そうですね。プロットの段階から僕は福くんをイメージしていて、完全にあてがきをしていました。プロデューサーも出資者側もみんなそのイメージで合致して、オファーを出してみたらすんなりと決まった。ここまでスムーズに決まることは珍しいんですよ。お金を出している人もいっぱいいるし、いろんな人のいろんな希望があるから、むしろ監督の思い通りにならないことの方が多いんですけど、今回は恵まれていました。

 福くんのことはみんなが子役時代から知っていて、その成長をメディアを通じて見守ってきた。だからこそ『あの福くんが闇バイトに加担しちゃうの?』みたいな、親戚目線のようなショックがあるかなと。一緒に仕事をするのは初めてだったんですけど、彼の持つ陽性のポジティブな雰囲気が作品のトーンには合っていると思ったし、俳優によってはシリアスな雰囲気になっちゃう内容でも、福くんが演じるとちょっとコミカルに笑って見られる。テーマとしては深刻でも、ちょっとポップで明るいイメージの作品にしたくて、それには彼の力が必要だなと。あとは何より、『福くんが闇バイトやってヒグマに襲われる』っていう日本語の妙な面白さ。どんな映画ですか? って聞かれたときにも、その一言でみんながイメージできるというか、『それは面白そうですね』と共感できるかなと」

――深刻なテーマの作品でも、あえてポップな明るいイメージを目指した意図とは。

「日本映画って、どうしても湿っぽいトーンのものが多くて、それも良さではあると思うんですけど、個人的にはアメリカ映画のようなカラッとした描き方もいいなと思っていて。向こうの映画だと、主人公がやむを得ず罪を犯すような重い話でも、それをあえて明るく描くことによって、エンタメとして間口を広く伝えつつ、罪の重さもズシンと残るようなバランスが取れている。明るく描くことと、それが問題を軽く捉えているわけではないということは、僕は両立すると思っています。分かる人にだけ分かればいいという映画ではなくて、これはエンタメですよ、誰でも見ていい表現ですよと入口を広くすることの大切さもある。それで、語り口はポップで明るかったりするけど、見終わった後にその問題の根深さが残るような、そんな映画を目指しました」

――ヒグマの造形へのこだわりは。

「全編VFX(視覚効果技術)でやれたらいいんですけど、予算的に造形でいくしかないとなったとき、逆にワクワクしました。ほぼすべてのシーンを造形で撮るので、ある程度キャラクター化、アイコン化したほうがいいだろうと、片目が白目になっていたり、傷跡が残っていたりとデザインを固めていきました。着ぐるみだとどうしても生地のつなぎ目やシワが残ってしまうんですけど、泥汚れや血によって固まった毛なんかがあると、あまり気にならずになじみやすい。毛並みがきれいすぎると作り物っぽくなっちゃうけど、ちょっとムラがあると生物感や野性味が出る。そういうテクスチャーの味わいをつけて造型部が仕上げてくれました。

 着ぐるみには前脚、後ろ脚とアクション部が2人入っていて、中からは外の様子がほとんど見えない。動きを細かく指示したり、中で電子タバコを吸って吐息を再現したり、毛に煙をからませたり、いかにして造形物に命を吹き込むかという作業でした。僕が育ってきた90年代の映画は、まだVFXが大幅に導入されていなくて、その時代の作品を見直してカット割りなどを工夫した。トライアンドエラーの繰り返しでしたけど、それはすごく楽しい作業でしたね」

――監督自身の闇バイトに対する考えは。

「自分が住んでいる街でも、近くで闇バイトによる強盗未遂が起きたっていうニュースがあって、これはもういつ自分が巻き込まれてもおかしくない、すごく身近な問題なんだなというのをヒリヒリと感じました。実際の事例を調べて、高校生の4割がSNSで怪しい求人を目にしたことがあるとか、求人の手口もすごく巧妙化していて、大手の求人サイトにも掲載されていたりとか、オンラインゲームのやり取りの中で誘われたりだとか……。

 軽い気持ちで入ったけれど、結果的に殺人や死体遺棄に加担してしまったというものもあって、捕まった犯人の供述もすごくすっとんきょうなんですよ。『(事件を起こした)岡山がこんなに遠いと思わなかった』みたいな、そこじゃないだろというか、いかにも世間知らずな感じが、教育格差だったり、情報弱者みたいな側面もあって。もちろんいけないことだけど、若さゆえに判断力の甘さからつい手を出してしまうこともあると思う。そこから個人情報を抑えられて、家族を殺すぞとか脅されたりしたら、それはもう従わざるを得ないだろうなとも思うんです」

『ヒグマ!!』のメガホンを取った内藤瑛亮監督【写真:ENCOUNT編集部】
『ヒグマ!!』のメガホンを取った内藤瑛亮監督【写真:ENCOUNT編集部】

公開延期の判断に「なぜ延期するんだ」「今こそ公開すべき」の声も

――ネット上では犯罪者に対して厳罰化を望む声も根強いが、受け止めは。

「そういう人たちをむげに厳罰に処すれば良いのかっていうと、僕はそんなことはないと思っていて。例えば再犯して刑務所に入った『再入者』のうち、過去に少年院送致や保護処分などの処分を受けたことがある30歳未満の方が、他の年齢層より多いんですよ。最初に処分を受けたときにきちんと更正の道を歩めていれば、新たな被害者も生まれないし、再入者にならずに済んだはずです。未成年でも特殊詐欺に関与すると、銀行口座の開設が難しくなったり、職につきづらかったり、まっとうな道に戻れないからまた罪を犯してしまう。映画は愚かな選択した人にこそ寄り添うべきだと思うので、この作品でも闇バイトという罪の重さはしっかり直視しつつ、生きてればやり直せるというメッセージはストレートに伝えたかった。

 報道の在り方や、それに対してのSNSでのコメントが、社会のストレス発散のはけ口になっているところもある。日本社会や経済がどん詰まりになっていくなかで、『自分はつらくても道を踏み外さずやってるのに』というストレスが、道を踏み外したものへの過剰なバッシングにつながっているように感じます。でも、厳罰化で被害者が減るのか、犯罪者が減るのかというと、むしろ、そうやって排除することによって、新たな被害者が生まれてしまうんじゃないかなと。もちろん、最初に罪を犯さないのがベストだし、そう導くべきだと思うんですけど、過ちを犯した人をただただ厳罰に処すればいいっていうのは、短絡的というか、自分の中の鬱屈(うっくつ)を発散したいだけで、問題解決にはつながらないと思いますね」

――クマ問題についての考えは。

「企画段階の2年前から日々クマのニュースがあって、最近ではまた大きな事件もありました。そこには人間が生活しているがゆえの弊害もあるだろうし、クマだって悪意を持って出てきているわけじゃない。クマを一方的に悪者にするような描き方はしたくなかった。映画の中では、闇バイトの人たちが山に死体を埋めてて、それでヒグマが人間の味を覚えて人を襲うようになったという展開ですが、結果的に人間がモンスターを生み出してしまったという構図にしたいなと。僕自身がゴジラが好きというのもあるんですけど。

 制作にあたって猟師の方にも取材したんですけど、クマ駆除は命がけの危険な作業にもかかわらず、報奨金は少額です。でもコミュニティーのために対応してくれています。社会の側が彼らの使命感に依存しすぎている。危険度に見合った報酬が与えられるべきだと思います。また自治体や猟師へ大量の苦情が寄せられて、業務に支障が出るケースが出ています。クマ保護ももちろん大切なことですが、生活圏が危険にさらされたりして、駆除がやむを得ない状況があることも理解すべきだと感じます」

――公開延期が決まった際の受け止めは。

「今年のクマ被害の状況を受け、僕も不穏な気配は感じていましたし、『本当に公開できるのか?』という不安は抱えていました。昨今の状況では、観客が作品を純粋なエンタメとして楽しむには現実との距離が近すぎると。

 延期については、『残念だけど、公開を待っています』という声もありましたし、『なぜ延期するんだ』『今こそ公開すべき』という意見もありました。熱のある時期だからこそ伝わるものや、見ることで納得してもらえる部分もある。当初、秋公開を目指したのも興行として理解できます。僕自身、もどかしい思いもありましたし、結局どっちが正解だったのかは今でも分かりません」

――再公開決定の際には、監督自ら長文コメントを発表した。あらためて本作を通じて伝えたいメッセージは。

「延期になって以降、あらためてフィクションと現実の関係性についてぐるぐると考えていたので、書いているうちに自然と思いがあふれてきたというのが正直なところ。この先クマ被害がゼロになるってことはないと思うし、我々の仕事でも山間部での撮影は難しくなってきています。作品が無事完成したことへの安堵(あんど)や、お蔵入りかもしれないという不安、いろんな巡り合わせがあって、奇跡的に公開できた作品なんだなと。仮に酷評されたとしても、やっぱ世に出ることが大切。『私は好き』『僕は好き』という人と巡り合えることもあるし、映画はやっぱり人の目に触れて、人に見られて初めて完成するものでもあると思うんです。

 映画って暴力だったり、病気だったり、災害だったり、現実では起きてほしくないことを描いて、観客がハラハラドキドキしながら体験するもので、僕はそれはすごく大切なことだと思っています。現実では絶対に起きてほしくないけど、映画の中で遭遇して、疑似的に感情を揺さぶられて、その問題の背景を感じ取ったり、どうしたらいいのかって考えたりするきっかけを与えてくれる。それはフィクションだからこそできること。

 クマの恐怖が現実にある時代、それをエンターテインメントに昇華した作品を同じ時代を生きる人たちと見る経験というのは、10年後、20年後にはない、今ここにしかない感動があるはずです。1954年公開の初代『ゴジラ』が、水爆実験という当時の生々しい社会不安を背景にしながら、劇場でリアリティーを持って受け入れられたように、今この時代にしか感じられない空気を、ぜひスクリーンから受け取っていただければ幸いです」

※このインタビューは、当初の公開予定前に内藤瑛亮監督にうかがった話をもとに、その後の公開延期や再公開決定を受け、再取材を行い、内容を加筆・修正したものです。

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