名脚本家が明かす名優たちとの“本気”の創作 「脚本は忘れよう」といった松田優作の衝撃
毎熊克哉、大西礼芳がW主演する映画『安楽死特区』(2026年1月23日公開)で、高橋伴明監督と初タッグを組んだのは、脚本家・丸山昇一氏だ。近未来の日本で「安楽死」が合法化された世界を描く衝撃作で、重厚なテーマになぜ「ラップ」を導入したのか。その真意、松田優作ら俳優たちとの秘話を聞いた。

安楽死にラップを重ねたワケ
毎熊克哉、大西礼芳がW主演する映画『安楽死特区』(2026年1月23日公開)で、高橋伴明監督と初タッグを組んだのは、脚本家・丸山昇一氏だ。近未来の日本で「安楽死」が合法化された世界を描く衝撃作で、重厚なテーマになぜ「ラップ」を導入したのか。その真意、松田優作ら俳優たちとの秘話を聞いた。(取材・文=平辻哲也)
本作は医師・長尾和宏氏の同名小説が原作。メガホンを取ったのは社会派映画の巨匠・高橋伴明監督だ。丸山氏といえば、『処刑遊戯』『野獣死すべし』など、1980年代から日本映画界の第一線を走り続けてきたレジェンド。高橋監督とのタッグは、意外な形でのオファーから始まった。
「3年ほど前、突然ショートメールが来たんです。『本を送るから読んでみてくれ』と」。それが原作小説『安楽死特区』だった。すぐに会いに行くと、「書いていいですか?」と言い、プロジェクトは動き出した。
丸山氏と高橋監督の出会いは、1980年頃の情報誌『シティロード』での対談企画にさかのぼる。「当時はお互いに『こいつ、生意気なんじゃないの?』なんて思ってた(笑)」と懐かしむが、その後ゴールデン街で意気投合したという。
初対面から45年経っての初タッグで、丸山氏が導入した最大の仕掛けが「ラップ」だ。難病の主人公が、ラップで死への思いを吐露する大胆な脚色が施されている。
「『安楽死』というテーマに向き合う時、普通の話し言葉ではどうしても伝わらないもどかしさがある。愛し合う者同士でも、死を前にすると言葉が詰まったり、きれい事になったりして、本当に伝えたい思いが届かない。『言葉が通じない』という絶望があるんです」
かつて映画『凶気の桜』(2002年)でラップの言葉の強さに衝撃を受けた経験から、「リズムに乗せたリリック(詩)なら、その壁を超えられるんじゃないか」と考えた。「普段の会話では言えない切実な叫びも、ビートに乗せることで相手の心に突き刺さる」。高橋監督もこのアイデアに即座に賛同し、映画のトーンが決まったという。
丸山氏と言えば、松田優作さんとの交友が有名。デビュー直後にドラマ『探偵物語』(1979年)で出会い、セッションを重ねながら物語を紡いできた。
「彼は脚本家と話をしたがる稀有(けう)な俳優でした。『この脚本、折角書いてもらったけど、忘れよう。一からやり直そう』と言い出して」。膝を突き合わせて議論を重ね、大藪春彦の小説を換骨奪胎させて生まれたのが『野獣死すべし』(1980年)だった。アクションスターから演技派への脱皮を図っていた優作さんの魂が込められた作品となった。
脚本家と俳優の対話は、その後も続いた。
「(『勝手にしやがれヘイ!ブラザー』1990~91年の)柴田恭兵さんも『ゆっくりじっくり話したい』と言ってくれましたし、「凶気の桜」の窪塚洋介さん、香取慎吾さんもそうでした」
香取とはドラマ『蘇える金狼』(1999年)でタッグを組んだ。「こっちから打診したら彼の方からも『話しましょう』と言ってくれて。当時まだ若かったけれど、会ってみたら驚くほどドラマを愛している人で、いろんな深い話をしました」。
直接話すことで「当て書き」の精度は上がるが、単にイメージ通りに書くだけでは名優たちは納得しない。「『俺が思っていた通りだ』ではダメなんです。彼らの想像を超えていかなきゃいけない。『ここまで書いてくるのか』と驚かせ、刺激するような最高の“設計図”を渡さないと、彼らは本気になってくれません」。
『安楽死特区』で大西礼芳とともにW主演を務める毎熊克哉は、今回の脚本から「ハードボイルド」を感じたと語る。そのことを丸山氏にぶつけると、「ハードボイルドとはトレンチコートを着て気取ることじゃない。『人と人が対峙した時の緊張感』のこと」と定義する。「死という逃れられない現実と対峙した時、逃げ出したくても逃げない。自分の弱さを認めつつも、踏みとどまる。その姿勢がハードボイルドなのかもしれません」
完成した映画について、丸山氏は「伴明さんの映画には迷いがない」と称賛する。「今の映画はカットを細かく割るものが多いですが、伴明さんは長回しで役者の芝居をじっくり撮る。そこには監督の強い『力感(りきかん)』が溢れていました」。特に特区を告発する毎熊さんと医師側とのミーティングのシーンには圧倒されたという。「脚本ではト書きだけですが、毎熊さんが本当に素晴らしい映画演技をしていて。あんなに長い尺を使って、役者の演ずる叫びを抑えに抑えて捉えきった監督の手腕には脱帽しました。『すげえことやっちゃうな』と(笑)」。
言葉の限界を超え、生と死の境界線を描き出した映画『安楽死特区』。レジェンド脚本家が引いた“設計図”の上で、俳優が魂をぶつけ合う本作は、2026年1月23日に公開される。
□丸山昇一(まるやま・しょういち)1948年生まれ、宮崎県出身。日本大学芸術学部映画学科卒業。フリーのCMライターを経て、1979年、テレビドラマ『探偵物語』でデビュー。その後は、映画『野獣死すべし』(村川透監督)、『翔んだカップル』(相米慎司監督)、『ヨコハマBJブルース』(工藤栄一監督)、『マ―クスの山』(崔洋一監督)、『いつかギラギラする日』(深作欣二監督)、『蒼き狼』(澤井信一郎監督)、『一度も撃ってません』(阪本順治監督)など。近著に松田優作さんとの回顧録『生きている松田優作』(集英社インターナショナル)がある。
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