バイクのすり抜け、突然車のドアが開いて激突→運転手が死亡 「過失はバイク側」のケースも

渋滞の道路などで、車列の横をバイクがすり抜けていく光景は珍しくない。ネット上には苦情が絶えないが、道路交通法には明確な定義はなく、「すり抜け=即違反」とは限らない。このとき車側がドアを開けて接触事故が起きた場合、責任はどちらにあるのだろうか。道路交通トラブルに詳しい弁護士の藤吉修崇さんに、法的な考え方を聞いた。

危険を伴うバイクのすり抜け(写真はイメージ)【写真:写真AC】
危険を伴うバイクのすり抜け(写真はイメージ)【写真:写真AC】

「すり抜けマジやめろ」車とバイク、終わらない対立の背景

 渋滞の道路などで、車列の横をバイクがすり抜けていく光景は珍しくない。ネット上には苦情が絶えないが、道路交通法には明確な定義はなく、「すり抜け=即違反」とは限らない。このとき車側がドアを開けて接触事故が起きた場合、責任はどちらにあるのだろうか。道路交通トラブルに詳しい弁護士の藤吉修崇さんに、法的な考え方を聞いた。

 藤吉さんは、道路交通法を分かりやすく解説するYouTuberとしても活動。新著『交通トラブル六法 「知らなかった」では済まされない道路の新常識』(KADOKAWA)では、道路で押さえておきたい“最新ルール”を伝えている。

 渋滞時によく見られるバイクのすり抜け。ネット上には、「すり抜けマジやめろと思う」「堂々とすり抜けてくライダー見ると車傷つけられそうで嫌すぎるし邪魔だしうっとおしい」「十分危険運転」「横すり抜けでバイクがサイドミラーに当たってったんだけど?」など、ドライバーからの怒りや嘆きの声が絶えない。

 しかし、法律的にはすり抜け禁止とは明記されておらず、“グレーゾーン”の扱いとなっている。

 藤吉さんは、すり抜けの法的位置づけについて次のように説明する。

「道路交通法にはすり抜けを直接禁止する規定はありません。ただし、安全運転義務違反や進路変更禁止などの一般条項で判断されます」

 禁止ではないが、「危険運転」と評価されれば違反となるケースもある。罰則の具体例を挙げると、割り込み違反が違反点数1点、反則金6000円、安全運転義務違反は同2点、同9000円などとなっている。

 事故が起きた際には、ケースバイケースで責任の所在、過失の大きさが異なってくる。

 例えば、右折待ち車列を除く左側からのすり抜けは違反の可能性があるし、黄色実線や車線変更禁止のラインをまたいですり抜ける、追い越し中の車をさらに追い越す、渋滞中の車列の脇から先頭に出るといった行為は違反に当たる。また、危険なすり抜けは取り締まりの対象になる。

 一方で、追い越し禁止ではない場所での右側からの追い越しは認められている。

 藤吉さん自身も学生時代に手痛い経験をした。バイクで右折車の列の先頭に割り込んでしまったのだ。これはルール違反で、警察官に呼び止められ、切符を切られた。

 こうした前提の上で、渋滞中に、ドアを開けた車にすり抜けバイクが激突した事故。

 この場合、責任は車、バイクどちらが重いのか。

 藤吉さんはまず、一般的な結論としてこう話す。

「基本的には、ドアを開けた側に大きな注意義務があります。よほど特殊な事情がない限り、ドアを開けたほうが過失は大きいと判断されます」

 道路交通法第71条により、運転手や同乗者は、安全を確認せずにドアを開けたり、車から降りたりしてはいけない。車から降りる際や荷物の積み下ろしの際には、後方からバイクや自転車が来ていないか確認する義務がある。渋滞時にバイクが進行してくることは十分想定されるため、原則として車側の責任は重い。

 一方で、藤吉さんは「例外もある」と続ける。

進路変更した車にバイクが接触し、足を切断して死亡

「あまりにも予想できないすり抜けをした場合には、バイク側の過失が大きくなる可能性があります。特に進路変更違反を伴うようなすり抜けだと、バイク側が高く評価されるケースがあります」

 報道されたケースでは、渋滞の高速道路上で車列の間を高速ですり抜け、ドアを開けた車に衝突して運転手が死亡し、バイク側の過失が大きく問われた。

 すり抜けは「ただちに違法」とは言えないものの、無理な進路変更、スピードを上げての車線間走行など、車側が通常想定できない動きをしていた場合は、バイクの責任が重くなる。

 さらに、藤吉さんはバイク側の危険性について強く警鐘を鳴らす。

「バイクはすり抜けるとき、車と非常に近い距離を通ります。車がわずかに進路を変えただけで接触する危険があります。事故になれば、命を落とすのはバイクのほうです。実際に進路変更した車にバイクで接触し、足を切断して亡くなった方がいます」

 グレーゾーンだからといって、スピードを上げて車列の間をすり抜けるのは大きなリスクを伴うだろう。

 もちろん、車側も注意する必要がある。

「高速道路でドアを開けるケースは多くありませんが、渋滞中の進路変更には細心の注意が必要です。バイクは完全停止の車列でも縫うように進行してくることがあります。“来るかもしれない”という意識は常に持っておいたほうがいいと思います」

 藤吉さんの見解を整理すると、原則として「ドアを開けた車側の注意義務が大きい」。ただし、予見できないすり抜けや進路変更違反を伴う行為ではバイク側の過失が増える可能性がある。すり抜け自体に明確な違法規定はないものの、そもそも危険性は高く、事故時の過失割合は道路状況や速度、車の動きなどによって大きく変わる。

「命を落とすリスクが高いのはバイク側。すり抜ける以上、その危険性を強く認識してほしい」。藤吉さんはそう訴えている。

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