「許せない」生花店が怒り…アイドル界で横行する“スタンド花詐欺”の手口 未払い多発で被害拡大

アイドルのコンサートなどで、ファンが資金を出し合って贈るスタンド花(フラワースタンド)を巡り、生花店への詐欺行為が相次いで発生している。注文者情報は虚偽で、記載された住所を訪ねると空き地だったという悪質なケースもあり、業界に波紋が広がっている。被害を受けた生花店はENCOUNTの取材に怒りと困惑の声を上げた。

スタンド花を巡る詐欺被害が多発している
スタンド花を巡る詐欺被害が多発している

有志から資金を募り悪質な詐欺行為 複数の生花店が警察に被害届提出

 アイドルのコンサートなどで、ファンが資金を出し合って贈るスタンド花(フラワースタンド)を巡り、生花店への詐欺行為が相次いで発生している。注文者情報は虚偽で、記載された住所を訪ねると空き地だったという悪質なケースもあり、業界に波紋が広がっている。被害を受けた生花店はENCOUNTの取材に怒りと困惑の声を上げた。

「まさか、推し活でこんなことをする人がいるなんて……」

 都内のスタンド花販売会社の代表Aさんは、そう肩を落とした。今年4月から7月にかけて、同社は計11件、総額42万1500円分のスタンド花を配達したが、代金は1円も回収できていない。

 被害に遭ったのはこの会社だけではない。東京、神奈川、埼玉など少なくとも5社が、類似した手口で被害を受けており、その総額は数百万円規模に上るとみられる。関係者の証言から、すべて同一人物による注文の可能性が高い。

 アイドルイベントにファンが贈るスタンド花は、推しへの応援の証とされる。大規模会場では、100基ほどがずらりと並ぶことも珍しくない。1基の価格は平均2万円ほど。SNSなどを通じて参加者を募り、「1口いくら」という形で資金を集め、連名で贈るのが一般的だ。

 生花店は、参加者を取りまとめた代表者からの注文情報をもとにスタンド花を制作し、会場に設置する。設置後は写真を撮影して注文者に送信し、コンサート終了後に回収するという流れが定着している。

 今回トラブルとなっているのは、生花店への支払いだ。Aさんのオンラインストアでは、個人注文は事前振り込みかカード決済としているが、法人については請求書払いに対応していた。

「本来はカード決済なんですが、法人のみ請求書払いを認めていたんです。そこを突かれました」

 注文者はXで、アイドルグループごとに分けた3つのアカウントを使い分け、参加者を集めていた。しかし、注文時に使われた法人名は、実際には無関係な会社だった。

 ENCOUNTがこの会社に取材すると、少なくとも3社の生花店から請求書が届いていた。同社の担当者は、「身に覚えのないものだった。警察に相談しました」と困惑。生花店からは事情を聞いており、第三者によって社名を無断で使われたと受け止めている。

 法人名義の注文にもかかわらず、連絡先は携帯電話、メールアドレスはGmail。偽名を使い、さらに記載された住所を訪ねると、更地だった。

 それでも被害が長期間にわたって拡大したのには理由があった。

「支払いを催促すると『経理に回すのを忘れました。来月でいいですか』『ダメなら今すぐ払います』と言ってくるんです」

 締め日を過ぎるまでは、単なる支払い遅延かどうか判断がつかない。しかも返答は誠実に見え、疑う決定的な理由がなかったという。

 もう一つは、花への強いこだわりだった。

「花の指定がすごく細かいんですよ。『○○ちゃんの推しカラーはピンク一色で』とか。カタログ商品を選んで、さらにカスタマイズの指定までしてくる」

 立て札には参加者の名前が列記され、会場に設置した際の写真の撮り方にも注文が入った。

「3台まとめて写真を撮ったら『1台ずつじゃないとダメだ。画像が荒くなる』と怒られました。こだわりが強い、しっかりした人だと思っていました」

 推し活では、細部へのこだわりは珍しくない。だからこそ、その熱心さが信用につながってしまった。

「気づいたらこんな金額になっていました。大体2~3か月のサイクルで、おかしいと気づかれる頃には次の店に移る。そういうやり方だったようです」

 最後は「支払います」と電話までかけてきて、一気に大量注文。その直後から連絡が取れなくなった。

「これは推し活文化への冒とく」迷惑行為に憤り…“氷山の一角”の可能性

 一方、神奈川県の生花店代表Bさんも、同様の被害を受けた。

「2023年の12月から24年の4月にかけて、すべて乃木坂46さんのスタンド花で1回につき、大体10万から20万ぐらいの仕事を4回やりました」。被害総額は約50万円ほどだという。

 使用された法人名はAさんのケースとは別だった。Xのアカウントも異なっているが、「同じ人ですね。名前を変えたりしてるんですよ」との見方を示す。

 詐欺と気づくのに遅れた理由は、注文者がスタンド花の写真をXに投稿していたことだった。

「私どものスタンド花は必ず毎回SNSでアップしてたんですよ。それで疑わなかったというのと、法人様の請求書なので、後払いという形にしてほしいって言われたんです。電話でご連絡もいただいてたので、信用しきってた部分もあるんですよね」

 不可解な点もあった。

「結局、額がだんだんでかくなってきたんですよね。ちょっとおかしいなと思って、入金もされてないので、督促はさせていただいたんですけど、音信不通になってしまったという形ですね」

 注文書には架空の会社名が記されていた。弁護士と相談のうえ、警察に通報した。

 関係者の証言を総合すると、注文者はファンから集めた資金でスタンド花を発注しながら、生花店への支払いを行っていない。1軒の生花店につき3~4か月利用し、追及が強まると姿を消す手口を繰り返していた。

「『一口○○円』という形で参加費を集めて、自分の口座に振り込ませる。でも花屋には払わない。未払いの花の写真を使って、また次の募集をかけているんです。完全に確信犯です」

 先週、別の生花店がSNS上で被害を公表。問題となっているアカウントは炎上し、すべて非公開となった。被害に遭った生花店同士は情報を共有しており、SNSの開示請求も検討している。

 ファンがアイドルにスタンド花を贈る文化は、長年かけて育まれてきた。その文化が、今、悪用されている。乃木坂46の公式サイトは今年9月、「祝い花の取り扱いについてメンバーやスタッフへの様々な要求や、お客様間でのトラブル、業者様とのトラブルなどが増えてきている状況となっております」と注意喚起した。

 Bさんは言う。

「私の中では、結構これ大きい事件。業界ではちょっと悪質だなって私どもは思っているんですよね。仕事をしてお金をいただけないのが一番損害が大きい。その分は返していただきたい。許せない部分は大きいですよ」

 Aさんも続ける。

「推し活している人って気持ちがあるから、こういうことをする人なんてほとんどいない。だから疑わなかった。全国で公演がある。(この注文者は)地方公演にも花を出している。関東近辺だけでこれだけの被害ということは、まだまだあるはずです」

 多くの生花店が、泣き寝入りしている可能性がある。

「金額的には大したことないかもしれない。でも、これは推し活文化への冒とくです。真面目にファン活動をしている人たちへの裏切りです」

 騒動の一日も早い解決が望まれる。

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