“怪物”シェイドゥラエフの恐怖、ボロボロにされた久保優太の証言「脳が1か月揺れ続けた」

朝倉未来(JAPAN TOP TEAM)のキャリア最大の一戦が目前に迫った。今年5月に現役復帰した“伝説”は「RIZIN 師走の超強者祭り」(31日・さいたまスーパーアリーナ/ABEMA PPV ONLINE LIVEで全試合生中継)で自身3度目のタイトル戦に挑戦する。立ちはだかるのはプロ戦績15戦15勝の絶対王者、ラジャブアリ・シェイドゥラエフ(キルギス)。来日1年半で日本MMAを席巻した25歳は何者なのか。昨年の大みそかに対戦した元K-1世界王者の久保優太(BRAVE)がインタビューに応じ、対峙した実感を証言した。

ラジャブアリ・シェイドゥラエフとの一戦について語った久保優太【写真:増田美咲】
ラジャブアリ・シェイドゥラエフとの一戦について語った久保優太【写真:増田美咲】

語った死闘の舞台裏「朝5時まで精密検査」

 朝倉未来(JAPAN TOP TEAM)のキャリア最大の一戦が目前に迫った。今年5月に現役復帰した“伝説”は「RIZIN 師走の超強者祭り」(31日・さいたまスーパーアリーナ/ABEMA PPV ONLINE LIVEで全試合生中継)で自身3度目のタイトル戦に挑戦する。立ちはだかるのはプロ戦績15戦15勝の絶対王者、ラジャブアリ・シェイドゥラエフ(キルギス)。来日1年半で日本MMAを席巻した25歳は何者なのか。昨年の大みそかに対戦した元K-1世界王者の久保優太(BRAVE)がインタビューに応じ、対峙した実感を証言した。(取材・文=浜村祐仁)

「精密検査が終わったの(元日の)朝5時ぐらいだったかな。まあ、最悪の年越しでしたよね」

“怪物”と向かい合った者だけが語れる言葉の一つ一つには重みがあった。

 昨年の大みそかに開催された「RIZIN DECADE」の第9試合、格闘技の聖地・さいたまスーパーアリーナに響いたのは歓声というより悲鳴だった。久保はシェイドゥラエフと、文字通り、命をかけた死闘を繰り広げた。

 RIZINからは選択肢として強豪外国人が提示されていた。「一番強いのはシェイドゥラエフだなと」。自ら指名する形でオファーを受諾した。久保は21年8月にキックボクシングからMMAへ転向。24年7月には元王者の斎藤裕からTKO勝ちするなど、破竹の5連勝でフェザー級の上位戦線に食い込んでいた。「腕が折れても失神しても試合は最後まで投げない」。セコンドにはタオルの投入をギリギリまで待つように伝えていた。ここを突破して25年にはタイトル挑戦……。描いていた青写真は打ち破られた。

 24年5月にRIZINと契約したシェイドゥラエフの触れ込みはフィジカルの強いグラップラー。初戦で武田光司をベースのレスリング技術で圧倒すると、2戦目では前日計量を2.9キロオーバーした元バンタム級王者のフアン・アーチュレッタを腕十字で極め、一本勝ちした。

 快進撃を続ける敵だったが、久保は「試合を見て結構荒いなというのは感じていました」と冷静に分析していた。22年、シェイドゥラエフのキャリア7戦目。当時参戦していたロシアの団体「ACA Young Eagles」のアスヴァド・アフマトフ戦では、強引に距離を詰めたところ、カウンターの右フックを被弾してフラッシュダウン。打撃や試合運びにムラがあるという指摘もあった。

「強いやつはみんな風格だったり殺気だったりを持ってるんで、オーラも予想以上のものではなかったですね」と特別な雰囲気もなかったと明かす。しかし、試合内容について話が進むと表情が一気に引き締まった。

50発以上の猛烈なパウンドの嵐を浴びた【写真:山口比佐夫】
50発以上の猛烈なパウンドの嵐を浴びた【写真:山口比佐夫】

50発以上のパウンド、控え室で嘔吐し救急搬送

 1Rの立ち上がり、左右のハイキックを的確に繰り出してスタンドの展開に持ち込もうとした。しかし、「自分が持っていた勝利の方程式のルートには持っていけなかったです」と振り返る。

「実際対峙してみると、すごい技術を彼は持っていた。それは立ち技においても寝技においてもそうなんですけど、細かな技術があるなというのを肌で感じましたね。自分にとっては計算外でした」

 開始40秒でシェイドゥラエフの特徴の一つである、上体ごと繰り出す右のオーバーハンドを被弾。前王者のクレベル・コイケが意識を喪失して倒れ込み、ビクター・コレスニックが33秒でKO負けする要因となったパンチを顔面に受け、鼻はすぐに真っ赤に腫れ上がった。

「右のパンチは本当に見えづらいですね。やっぱり目が良いとされてる僕もかなりストレスを感じて被弾させられたんで。あのパンチには細かいプロセスがあって、ポジショニングだったり、打ち方の角度だったり、タックルのフェイントだったり、すごい細かな技術っていうのが凝縮されているんです。彼は本当にテクニシャンですよ。映像で見るより対峙してるほうが、はるかにテクニシャンでした」

 その後、右のパンチに偽装したタックルで腰を掴まれテイクダウン。「寝かされたら死」と明かしていた久保は、マットに押さえつけられ50発以上の猛烈なパウンドの嵐を浴びた。

「パウンドはもう……相当強かったですよ。脳震盪を起こしてかなりダメージが溜まっていたんで、2Rで勝負をかけるというのはできなかったです」

 最後はグラウンドパンチで2R・TKO敗戦。試合後の控え室では何度も嘔吐し、救急で病院に搬送された。

「ボロボロでしたよ。会見はプロ意識で出ましたけど、本当は速攻で救急でした。1月1日の未明、忘れもしないですね。セコンドの弟の賢司に車椅子を押されて精密検査をして。鼻の骨が折れただけじゃなくて、ずっと船に揺られているような感覚で。もう脳が1か月くらい揺れてましたね。とにかく脳震盪がすごかったです」

朝倉未来とトレーニング「作戦は練られている」と明かす【写真:増田美咲】
朝倉未来とトレーニング「作戦は練られている」と明かす【写真:増田美咲】

11月中旬に朝倉未来と練習「作戦は練られていますよ」

 久保は今夏に参議院選挙に出馬するなど紆余曲折をへて、大みそかにリングへのカムバックが決まった。対戦相手はカルシャガ・ダウトベック。ボクシング強豪国である母国カザフスタンで、国内王者に輝いた実績を持つフェザー級屈指のストライカーだ。

「相手10連勝中ですからね。こんな挑戦ができるのは格闘家冥利に尽きる。日本人の強さを見せつけたいです」

 シェイドゥラエフとの再戦にも意欲をみせた。

「距離的な部分で、細かくは伏せておこう思うんですが唯一のミスがあった。あのミスがなければ、次もっと違う展開になりますよ」

 11月中旬にはJTTに赴き、朝倉未来と情報交換を目的としたトレーニングを行った。

「平本蓮選手と再戦するという話があった頃から定期的に練習を一緒にさせてもらっています。自分が(シェイドゥラエフ戦で)感じたことを伝えさせてもらったりとか。あとは未来選手がダウトベックと過去に試合したじゃないですか。だからそこのアドバイスをもらったりとかしました。

 ここで(未来選手に)不利になるような具体的な話はできません。でも一つ言えるのは、未来選手は凄く頭の良い選手だということ。しっかりとした作戦は練られていますよ」

 先月5日の記者会見後、榊原信行CEOは取材に対し「未来から戦術は聞いている」と明かした。下馬評はシェイドゥラエフの圧倒的有利。しかし、MMAの歴史は決まってアップセットによって動いてきた。聖地でのRIZIN10周年、メモリアル大会のメインカード。安住を嫌うフェザー級のベルトが何かを起こしそうな条件が出揃ってきた。

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