「全部やめるつもりだった」 記念受験から人生一変…唯月ふうか、夢を手放す寸前でつかんだ“第2の人生”
俳優の唯月ふうかが、2026年1月8日から神奈川・SUPERNOVA KAWASAKIで上演される『白爪草』で難役に挑む。初の2人舞台かつ客席に囲まれた360度ステージという初挑戦だらけの今作。20代ラストの1年を駆け抜ける唯月に作品への思いやこれまでの歩みを振り返ってもらった。

『白爪草』で念願の2人ミュージカルに挑戦「お客さまに伝わるエネルギーもとても濃いものに」
俳優の唯月ふうかが、2026年1月8日から神奈川・SUPERNOVA KAWASAKIで上演される『白爪草』で難役に挑む。初の2人舞台かつ客席に囲まれた360度ステージという初挑戦だらけの今作。20代ラストの1年を駆け抜ける唯月に作品への思いやこれまでの歩みを振り返ってもらった。(取材・文=中村彰洋)
今作は、20年に世界初の全キャストVTuberというスタイルで話題となったサスペンス映画『白爪草』をミュージカル化。音楽をシンガー・ソングライターのヒグチアイが手掛け、唯月と屋比久知奈のみで演じる2人ミュージカルとなる。
「ずっと2人芝居をやってみたいと思っていた」という唯月にとって、願ってもない出演オファーだった。「まさかこんなに早く女性2人でのミュージカルに出演できるとは思っていませんでした。2人しかいない分、お客さまに伝わるエネルギーもとても濃いものになると思っています」。
ペアを組むのは、過去にも共演経験のある屋比久。「女優さんとしても一人の人間としても、信頼できる大好きな人です」。21年上演のミュージカル『屋根の上のヴァイオリン弾き』に引き続き、2歳年下ながらも唯月がまたも姉役を務める。「プライベートでは、ともちゃんの方がお姉ちゃんっぽいんですけどね」と笑う。
今作は2人芝居だからこそ、息の合った演技が必要不可欠となるが、不安はまったくない。
「間近でともちゃんの魅力を感じることできるので、すごく楽しみです。ともちゃんとだったらいい作品になると思えます。お互いの役を客観的に見ることができるからこそ、アドバイスしあうこともできているので、本当に助けられています」
今作で唯月は母親を殺した罪で服役していた双子の姉を演じるが、「現実世界で人を殺めたことはないので、どういう気持ちなのかを想像することが難しかったです」と口にする。「こんなに舞台上で感情をさらけ出す役は今までになかった」と新境地への挑戦となった。
「喜怒哀楽の振り幅が大きくて、感情に爆発力がある役です。人前で大きい声を出することって単純に恥ずかしいじゃないですか。なので、誰もいない自宅で『わー!』って大きい声で叫んで、殻を破る練習をしました(笑)」
今作は全方位が客席に囲まれた360度ステージで上演されるが、唯月にとっては初の挑戦。「全部見られてしまうので、いつも以上に気が抜けないです。未知の世界すぎて怖いくらい。今からそわそわしています」と笑う。
シンガー・ソングライターのヒグチアイが楽曲を手掛けるが、「ヒグチさんの世界観が作品に本当にマッチしていて、聴いた瞬間にゾクゾクしちゃいました」と迫力を語る。「そういった世界を崩さずに、しっかり届けたいです」。

ミュージカルの魅力にどっぷり→大学ではミュージカルコースを専攻
『ピーター・パン』に始まり、『レ・ミゼラブル』や『SPY×FAMILY』など話題の舞台作品に多数出演する唯月だが、中学校を卒業するまでの夢は歌手になることだった。「JUDY AND MARYのYUKIさんになりかったんです」と明かす。
幼少期からレッスンに通うなど、努力を積み重ねてきた。しかし、高校進学を機に「全部やめよう」と区切りをつけるつもりだった。「そんな時にオーディション雑誌でスカウトキャラバンの募集を見つけました。グランプリ特典が、私の好きなディズニープリンセスの楽曲が歌えるというものでした。本当に最後の記念のつもりで受けたんです」。
ところが、「37thホリプロタレントスカウトキャラバン2012」での姿が審査員の目に留まり、当初は予定されていなかった「審査員特別賞」が唯月のために新設された。そこから一気に道が拓かれていった。そこで出会ったのがミュージカル。「第2の人生が始まりました」と当時の驚きを口にする。
「『ピーター・パン』に出演できると聞いて、『とにかくやってみよう』という気持ちで何も分からないまま、舞台に立たせてもらいました。いざやってみたら、カーテンコールで拍手をいただいた時の感動が本当に忘れられなくなりました。自分の好きな歌やダンスもできますし、誰かを演じるということがすごく楽しくて、そこからミュージカルを本格的にやりたいと思うようになりました」
それまでは観たことすらもなかったミュージカル。ガラリと世界が変わっていった。基礎すらも学ばずに飛び込んだこともあり、「いただくお仕事に自分の実力が追いつかない」と考え、大学ではミュージカルコースを専攻するなど、どっぷりと浸かっていった。
「私きっかけで、ミュージカルを好きになったという声をいただくことが本当にうれしいです。誰かの何かを変えられるってすごく特別なことですし、誰もができることではないと思っています。そういった存在に自分がなれていることが、本当に幸せです」
唯月といえば、特徴的な声も魅力の一つだが、「とてもコンプレックスでした」とも明かす。しかし、番組で共演した声優・山寺宏一からの言葉が意識を変えた。
「『あなたの声は武器だよ』と言ってもらえたことがきっかけで、『これは武器で、自分の名刺なんだ』と、前向きに捉えられるようになりました。いつかは声優さんとしてのお仕事もしてみたいですし、両親にも『この声で生まれて良かったね』と思ってもらいたいです」

最近のリフレッシュ方法は格闘技観戦「関連したお仕事もしてみたい」
気付けば20代もラストの1年。「かなり意識しています」と笑顔を浮かべながら、「やりたいこと、やったことがないことをいろいろやりたいです」と口にする。「過去の自分がやりたかった役にたどり着けている時もあれば、届かなかったこともあります。でも本当に良い作品にたくさん出演させていただけて、恵まれているなと思います」。
1人の女性として、「30歳までに結婚して子どもがいたらどうなっていたんだろう」と想像することもあるという。「でも、母には『私は焦りません』と宣言もしています。まずはすてきな結婚相手を見つけなきゃですからね」と流れに身を任せる。
絶え間なく舞台への出演が続き、時には複数作品が同時進行することもある。「最初の頃は感情をどうやって整理したらいいかに悩みました」。30代を前に“自分を甘やかす方法”を理解したことも成長できた証だ。
「ロボットみたいに、起きて、稽古場に行って、となっているのがもったいないと思うようになって、『もっと人間味のある自分でいたい』と考えるようになりました。『このままだとキャパオーバーになってしまう』と気付くことができたので、休みたいときは『休みたい』『疲れました』と伝えられるようになりました」
最近のリフレッシュ方法は「格闘技観戦」。かわいいもの好きな一面とは異なるギャップも見せる。
「去年から格闘技にハマって、RIZINやUFC、ONEにDEEPと全部PPVを購入して見ています。スカッとしてリフレッシュできるんです。まだ生で見たことがないので、近々絶対に見に行きます。格闘技関連のお仕事もしてみたいです」
今後は映像作品での仕事や役者以外のジャンルなど幅広く挑戦していきたいと意気込む。
「舞台のお芝居とは違った演技なので難しいですが、映像作品のお仕事もやっていきたいです。話すことが好きなので、番組のアシスタントMCなどにも憧れます。まずは、今決まっているお仕事を一生懸命やって、皆さんに『こんなふうかちゃん見たことない』と思っていただけるようになりたいです」
30歳まであと1年。「欲張りになろうと思っています」と頬を緩ます。「いろんな欲があるので、それをできる限り多くかなえたいです。頑張れるところまで頑張り続けます」。駆け抜けたその先には、希望に満ちた30代が待っている。
□唯月ふうか(ゆづき・ふうか)1996年9月8日、北海道出身。2012年に「37thホリプロタレントスカウトキャラバン」で審査員特別賞を受賞。13年にミュージカル『ピーター・パン』で舞台初主演。その後は舞台を中心に活動し、17年『レ・ミゼラブル』、23年からは『SPY×FAMILY』シリーズなどに出演。26年3月からは『ジキル&ハイド』への出演も控えている。憧れの俳優は小池栄子。
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