「あの痛みは地獄です」30~40代も要注意…医師が警鐘 3人に1人が発症する「帯状疱疹」の根本的原因

体に発疹ができて強い痛みが続く「帯状疱疹」は、後遺症のリスクもあるだけに気を付けたい疾病の一つだ。従来は「高齢者の病気」というイメージがあったが、専門医によると、働き盛りの30~40代も注意が必要になってきているという。昨年末に39歳で帯状疱疹を発症し、年末年始を棒に振った男性会社員は「夜眠れずに泣きました。あの痛みは地獄です」と振り返る。冬場の注意点や予防のポイントについて、「四谷内科・内視鏡クリニック」院長を務める高木謙太郎医師に解説してもらった。

強い痛みが続く「帯状疱疹」に気を付けたい(写真はイメージ)【写真:写真AC】
強い痛みが続く「帯状疱疹」に気を付けたい(写真はイメージ)【写真:写真AC】

「熱せられた鋭利なフォーク数本で突きさされる」痛みが延々と…

 体に発疹ができて強い痛みが続く「帯状疱疹」は、後遺症のリスクもあるだけに気を付けたい疾病の一つだ。従来は「高齢者の病気」というイメージがあったが、専門医によると、働き盛りの30~40代も注意が必要になってきているという。昨年末に39歳で帯状疱疹を発症し、年末年始を棒に振った男性会社員は「夜眠れずに泣きました。あの痛みは地獄です」と振り返る。冬場の注意点や予防のポイントについて、「四谷内科・内視鏡クリニック」院長を務める高木謙太郎医師に解説してもらった。

「まさか自分が、と驚きました。熱せられた鋭利なフォーク数本で突きさされる。物理的なチクチクと火傷のヒリヒリのような痛みが、延々と続くんですよ。本当につらかったです」

 40歳の男性会社員は、帯状疱疹の痛みをこう振り返る。昨年のクリスマス前の時期、背中に違和感を覚えながらも仕事をこなした。夜に赤い腫れを確認したが、「もう少し様子見よう」と自己判断した。翌朝になって痛みは増し、家族から「一応診てもらったら」と促されて、午後に近所の医院を受診した。「まあ大丈夫だろうと思っていましたが、検査結果は陽性。そこから仕事やプライベートどころじゃなくなりました」。右胸から脇腹、背中の発疹は、じゅくじゅく膨れていき、激しい痛みに変わっていった。

 飲み薬と皮膚の炎症を抑える軟膏を処方してもらい、治療を開始。趣味の釣りや飲み会など年末の予定は大半をキャンセル。もともと予定されていた仕事納めまで働き、1月5日の仕事から勤務を始めたが、「ピーク時は何をやっても痛みが意識を支配してきつかったです。家で過ごして、大みそかもカウントダウン前に早めに寝て。『これがずっと続いたら……』とベッドの中で涙が出てきました。動くと擦れて痛いですが、結局、集中していると痛みを忘れられるので、仕事をしているほうが気持ち的には楽でした」。

 1月中旬に帯状疱疹は治ったとの診断を受けたが、春先は背中がチリチリする妙な痛みに悩まされ、軟膏を塗り続けたが、梅雨ぐらいまで違和感が続いた。「後遺症の心配で精神的に落ち着かなったです。薬剤師の知人からは『えっ、その年でなっちゃったの?』と絶句され、へこみました。まだ跡が残っていて、今年の年末年始はちょっと心配で、再発の不安にも駆られます。よく『発症から72時間(3日)以内に治療を開始すること』と言われますが、30~40代は仕事が忙しくて受診が遅れたり、『寝れば治るだろう』とやり過ごしてしまうことも多いと思います。本当に気を付けた方がいいと思います」と実感を込める。

「四谷内科・内視鏡クリニック」院長を務める高木謙太郎医師【写真:本人提供】
「四谷内科・内視鏡クリニック」院長を務める高木謙太郎医師【写真:本人提供】

30~40代の発症は「『高齢者の病気』とされてきたイメージとは異なり、近年増加傾向」

 総合内科・消化器内視鏡専門医である高木医師。2022年に自身のクリニックを開業した。消化器内科医として約15年のキャリアを持ち、がん患者の治療も多く手がけてきた。

 そもそも帯状疱疹とは。高木医師は「水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)が原因で起こる病気です。子どもの頃に水ぼうそうにかかった人の体内に潜伏していたウイルスが、加齢や免疫力の低下をきっかけに再び活動を始めることで発症します。免疫力の低下とストレスが大きな要因になります。日本では80歳までに約3人に1人が発症するとされており、特に50歳以降で患者数が急増します。発症率は年齢とともに高まり、患者の約70%は50歳以上です。ある研究では1997年から2017年の20年間で発症率が約1.5倍に増加しており、若年層でもストレスや免疫低下を背景に発症例が報告されています」と説明する。

 発症の背景には免疫力の低下が大きく関わることが指摘されており、「加齢や免疫抑制薬(ステロイド、抗がん剤等)の使用、がんや感染症などが主な要因です。さらに、仕事や生活のストレス、過労、睡眠不足といった生活習慣も免疫機能を弱め、発症の引き金になることが知られています。近年では自己免疫疾患や悪性腫瘍、免疫抑制治療等の関連が指摘されています」。顔面に出ると視力障害や顔面神経麻痺などの合併症を引き起こす場合があり、「発疹が治った後も痛みが長く残る『帯状疱疹後神経痛(PHN)』は特に高齢者で問題となります」という。

 治療において重要なのは、“72時間以内”の時間的なポイントだ。「治療は抗ウイルス薬を発疹出現から72時間以内に開始することが理想で、早期治療によって重症化や後遺症を防ぐことができます。痛みが強い場合には鎮痛薬を併用し、広範囲や重症例では入院して点滴治療を行うこともあります。眼や耳に症状が出た場合には専門科での治療が必要です。生活面では安静を保ち、ストレスを軽減し、十分な睡眠をとることが回復を助けます。違和感や痛みを感じたら早期に受診し、抗ウイルス薬を迅速に投与することが後遺症予防の鍵となります。また、ワクチン接種による予防も有効であり、特に高齢者や免疫力が低下している人には強く推奨されます」。

 若い世代にとって、“対岸の火事”ではない。「30~40代の帯状疱疹は、『高齢者の病気』とされてきたイメージとは異なり、近年増加傾向にあります。背景には、働き盛り世代特有の強いストレスや過労、睡眠不足などが大きく関与しています。若年層では加齢による免疫低下はまだ軽度ですが、仕事や生活のストレスが免疫機能を弱めることで発症につながるケースが多いのです」。仕事のストレスを注意点に挙げる。

 症状は高齢者と同様で、皮膚のピリピリ感や痛みから始まり、体の片側に帯状の赤い発疹や水ぶくれが出現。顔面に出ると角膜炎や顔面神経麻痺などの合併症を伴うことがあり、「若い世代でも生活の質を大きく損なう可能性があります。発疹が治った後も痛みが長く残る帯状疱疹後神経痛については、若年層でも強い痛みが長期化する例が報告されています」。

 再発もやっかいなこの病気。「再発率は高齢者ほど高いものの、30~40代でも強いストレスや基礎疾患、免疫抑制状態がある場合には注意が必要です。免疫力を維持するためには、十分な睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動、ストレスマネジメントが重要であり、再発予防にもつながります」と強調する。

冬場や年末年始は「帯状疱疹の発症リスクが高まる時期と言われています」

 ようやくの仕事納めで、羽を伸ばしたい年末年始。だからこその注意が必要だ。

「冬場や年末年始は帯状疱疹の発症リスクが高まる時期と言われています。これは単に季節的な要因だけでなく、生活リズムや環境の変化が免疫力に影響するためです。冬は気温が低く乾燥しやすいため、皮膚や粘膜のバリア機能が弱まり、免疫力も低下しやすくなります。さらに年末年始は仕事の繁忙期や家庭行事が重なり、睡眠不足や生活リズムの乱れ、精神的ストレスが増える時期です。こうした要因が重なることで、潜伏していた水痘・帯状疱疹ウイルスが再活性化しやすくなります」

 また、冬場特有のリスクもある。「インフルエンザや風邪などの感染症が流行するため、免疫系が消耗しやすく、帯状疱疹の発症につながることがあります。特に年末年始は飲酒や食生活の乱れも加わり、体調管理が難しくなるため注意が必要です」と指摘する。

 最後に予防のポイントとして、高木医師は「まず十分な睡眠を確保し、過度な疲労を避けることが重要です。忘年会や新年会などで飲酒が続く場合は、適度に抑え、栄養バランスの取れた食事を心がけることが免疫維持につながります。乾燥対策として加湿器の利用や保湿ケアも有効です。さらに、冬場は寒さによる血流低下が神経痛を悪化させることがあるため、体を温める工夫も役立ちます。総じて、冬や年末年始は『免疫力低下+生活リズムの乱れ』が重なりやすい時期です。帯状疱疹の予防には、規則正しい生活とストレス管理が何より大切であり、違和感や痛みを感じたら早めに医療機関を受診することが重症化防止につながります」と話している。

トップページに戻る

あなたの“気になる”を教えてください