J・キャメロン監督、『アバター』新作は「父と私」の実話 厳格な父と反抗した過去を投影

神秘の星パンドラを舞台に、元海兵隊員のジェイク・サリーと先住民ナヴィの女性ネイティリの愛と闘争を描き、世界歴代興行収入1位の記録を保持する『アバター』シリーズ。その待望の最新作『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』(公開中)のジェームズ・キャメロン監督が、日本のメディアに向けた合同インタビューに応じた。

インタビューに応じたジェームズ・キャメロン監督【写真:ENCOUNT編集部】
インタビューに応じたジェームズ・キャメロン監督【写真:ENCOUNT編集部】

記者の問いかけに「それはいい質問だ」

 神秘の星パンドラを舞台に、元海兵隊員のジェイク・サリーと先住民ナヴィの女性ネイティリの愛と闘争を描き、世界歴代興行収入1位の記録を保持する『アバター』シリーズ。その待望の最新作『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』(公開中)のジェームズ・キャメロン監督が、日本のメディアに向けた合同インタビューに応じた。(取材・文=平辻哲也)

 来日に先立って公開されたSpotifyのロングインタビューでは、Netflixによるワーナー・ブラザース映画の買収問題や、台頭する生成AIの問題点など、映画産業の未来について鋭い持論を展開していたキャメロン監督。その中で彼は、AI時代のクリエーターに必要なものは「生きた経験だ」と語っている。

 では、自身の最新作である『アバター』において、その「生きた経験」はどこに生かされているのか――。記者が単刀直入に質問をぶつけると、キャメロン監督は「それはいい質問だ」と2度繰り返し、身を乗り出すようにして語り始めた。

「私はただ監督するだけでなく、脚本も書いています。だからキャラクターたちは、私自身の人生の側面を色濃く反映しているのです」

 最先端の映像美や技術論が話題をさらいがちな本作だが、監督が熱く語った核心は、自身の少年時代と父親としての経験を投影した、極めてパーソナルな「家族の物語」だった。

 前作『ウェイ・オブ・ウォーター』で森を追われ、海の部族のもとへ身を寄せたジェイク一家。最新作では、火山地帯に住む攻撃的な部族「アッシュ・ピープル(灰の民)」という新たな脅威に加え、家族内部の亀裂という危機に直面する。物語の核となるのは、部族を守る責任感に燃える父ジェイクと、反抗期を迎えた次男ロアクの緊張関係だ。

「ジェイクは、私が14~15歳の頃の『私の父』を反映しています。父はエンジニアで、非常に厳格な規律を重んじる人でした。当時の私にとって父は理解しがたい存在であり、私は反抗的でした」。一方で、父に反発し、自分の居場所を探してもがく次男ロアクは、「当時の私そのもの」だという。

 シリーズ1作目と2作目では、サム・ワーシントン演じる父・ジェイクが物語の語り手を務めてきた。しかし本作では、その役割が次男のロアクに変更されている。「ジェイクにはロアクの物語は語れません。なぜなら、ジェイクには息子のことが見えていないし、理解できていないから。息子は『自分を見てほしい』『父に誇りに思ってほしい』と叫んでいるのです」。3時間17分という長尺を使って描かれるのは、単なるアクションではない。すれ違う父と子の魂が、長い旅路の果てにどう交錯するのかという、重厚な人間ドラマだ。

 実生活でも3人の幼い男の子の父親であるサム・ワーシントンに対し、監督はある「予言」めいたアドバイスを送ったという。

「サムにはこう言いました。『君の息子たちが10代になった時、子育てがいかに難しいことか思い知ることになるぞ』と」

 さらに監督は、観客から愛されているヒーローとしてのジェイク像を壊すことを恐れず、「あえて彼を追い込もう」と提案。息子に対し厳しく当たりすぎ、関係が壊れてしまったかもしれないと悟った瞬間の、父親としての「恐怖」を演じさせた。

「世界中の若者たちがこの映画を見て、『ああ、うちのお父さんも何かを感じているけど、ただ不器用で表現できないだけなのかもしれない』と気づいてくれたら」。巨匠が込めたメッセージは、SFの枠を超え、普遍的な家族愛へと昇華されている。

□ジェームズ・キャメロン(James Cameron)1954年8月16日、カナダ生まれ。映画監督、脚本家、探検家。『ターミネーター』(84)で脚光を浴び、『エイリアン2』などでSF映画の巨匠としての地位を確立。1997年の『タイタニック』はアカデミー賞史上最多タイの11部門を受賞し、当時の世界興行収入1位を記録。さらに2009年の『アバター』で自身の記録を塗り替え、3D映画革命を巻き起こした。世界歴代興収の上位を自作が独占する、映画界きってのヒットメーカー。妥協なき完璧主義者であり、深海探査艇の設計やマリアナ海溝最深部への単独潜行を成功させるなど、海洋探検家としても知られる。

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