「死んだほうがマシ」実刑判決に激高→ガラス破壊 元技能実習生の“反省なき暴力”が突きつける制度の闇
17日夕方、さいたま地裁の202号法廷で、判決を言い渡された直後の外国籍の被告が窓ガラスを割るという異例の事態が起きた。傍聴席との距離はわずか数メートル。割れたガラス片は窓の外に降り注ぎ、現場は一時、騒然となった。被害者とともに傍聴席にいた記者は、現実とは思えない光景を目の当たりにした。

証言台で連呼「帰国させてください。僕は刑務所には行きません」
17日夕方、さいたま地裁の202号法廷で、判決を言い渡された直後の外国籍の被告が窓ガラスを割るという異例の事態が起きた。傍聴席との距離はわずか数メートル。割れたガラス片は窓の外に降り注ぎ、現場は一時、騒然となった。被害者とともに傍聴席にいた記者は、現実とは思えない光景を目の当たりにした。
まさか法廷でこんなことが起きるとは。それが率直な感想だ。ペンのような物を手に、窓の前に立ったのは、ベトナム国籍のチャン・ドゥック・ルオン被告。刑務官らに囲まれてもにらみつけるような視線を向け、今にも飛びかからんばかり。時間にして2、3秒だが、それ以上に長く感じられた。その後、窓に向かいガラスをたたき割った。これから何をするつもりなのか。窓から飛び降りて逃走するのか。それとも破片を持って誰かを人質に取るのか。現実の出来事とはとても思えなかった。
法廷内には体格のいい男女の刑務官が5~6人いた。一方で、裁判官や検察官、弁護士、通訳は、いずれも女性だった。突発的な暴力に備える体制は限られていた。被告を除き、けが人はいなかったのは不幸中の幸いだ。
被告は取り押さえられる時も、手にした物を離そうとせず、周囲を寄せ付けない空気を全身から醸し出した。数人がかりとはいえ、必死に抵抗する大人を制圧するのは容易ではないように見えた。
被告と傍聴席までの距離は3メートルほど。ひざ上くらいの高さの敷居を飛び越えれば、一般人も巻き添えを食うところだった。2列目に座っていた記者も身の危険を感じた。隣にはこの日初めて裁判を傍聴しに来ていた女子高生の二人組の姿もあった。うち一人は恐怖のあまり途中で傍聴席を飛び出した。それほど衝撃的な瞬間だった。
傍聴席には被告の「弟」を名乗る男もおり、暴れる兄を取り押さえようとしたのか、素早く法廷内に入り込んだ。裁判官は「110番してください」と関係者に要請。興奮状態の被告は身動きが取れなくなっても諦めた様子はなく、母国語で何ごとかを叫んでいた。
割れたガラスは屋外の地面に降り注いでいた。大量の破片は鋭く尖り、落下は広範囲に及んで、とても素手では触れられない。もし運悪く通行人がいたら当たりどころによっては大惨事になっていた可能性もある。
裁判が始まったのは予定より10分遅れた午後4時25分ごろ。前の裁判が長引いたためだった。すでに退廷していた日本人男性は裁判所を出ようとしていたところだった。2階の窓を見上げ、「帰ろうと思ったらこんなことになって驚きました」とつぶやき、信じられないといった表情を浮かべていた。
暴走の伏線はあった。この日、出入国管理及び難民認定法違反、建造物侵入、窃盗の罪に問われた被告は、主文が読み上げられる直前、証言台で発言する機会を得ていた。「言いたいことありますか。端的に教えてください」。裁判官の問いかけに、手錠、腰縄を外された被告は、ふてぶてしい態度を取った。
「僕はすでに1年3か月勾留されました。すでに刑を受けたと思っています。執行猶予をもらって帰国させてください。僕は刑務所には行きません。行くなら死んだほうがマシだ」
反省の色などみじんもない言葉。最後に再び「僕は刑務所には行きません」と語気を強めた。
その後、裁判官は、懲役6年の実刑判決を言い渡した。検察による求刑は8年だった。あらかじめ用意していた文面を読み上げ、被告が反省していることにも言及したが、その言葉はむなしく響いた。そして退廷間際に被告の不満は爆発した。
法廷窓ガラス破壊事件が問う 技能実習制度の闇と日本の安全
少子化による人口減少で、日本は外国からの労働力を積極的に受け入れている。介護や建設、農業、製造業など幅広い現場で不可欠な存在となっている。被告は元技能実習生だった。公判では、勤務先で暴力を受けた末に逃げ出したと証言し、「逃げてからも最初は普通の仕事を一生懸命してきました」と語っている。
一方、出入国在留管理庁によると、技能実習生の失踪者数は2023年に9753人と過去最多を記録した。そのうちベトナム人は5481人と突出している。制度の課題が指摘される中、今回の事件は、その現実の一端を突きつける形となった。
今回の事件で被告は山梨や新潟など8か所で高級車を含む合計52台の自動車盗を行った。犯行は組織的で、実行役を担った。指示役から受け取った報酬は2500万円に上り、母国への送金や借金返済、生活費などに当てたと主張した。
外国人政策を巡っては、高市政権の下、与党内でも管理強化を求める声が強まっている。インバウンドが過去最高を記録し、観光や宿泊業界を中心に恩恵を受ける一方、オーバーツーリズムも深刻な問題だ。何より、世界的にも安全とされる日本の治安への不安が広がれば、日常生活にも影響が及びかねない。
傍聴席には被害者の姿もあった。ルオン被告らに店舗に侵入され、11台の車を盗難されたホンダカーズ野崎の松本正美店長だ。被告の暴走ぶりを目の当たりにし、早くも“出所後”に懸念を募らせていた。
外国人労働者は日本社会を支える重要な存在だ。しかし、法廷での暴力は暗い影を落とした。技能実習制度は2027年から育成就労制度に移行するが、その在り方や事件発生時の対策も含め、受け入れの仕組みそのものが改めて問われている。
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