元RIZIN王者・斎藤裕、ラーメン店経営「甘くない」 “利益率高い”は過去「人に勧められない」

格闘技イベント「Yogibo presents RIZIN師走の超強者祭り」(12月31日、埼玉・さいたまスーパーアリーナ/ABEMA PPV ONLINE LIVEで全試合生中継)でYA-MANと対戦する元RIZINフェザー級王者・斎藤裕(38)。約1年半ぶりにリングの上に帰ってくるが、いまの斎藤にはもう一つ、真剣勝負を繰り広げる“戦場”がある。それは東京・秋葉原のラーメン店だ。現役ファイターでありながら、一人の経営者として「二刀流」を実践する男が直面したのは、飲食業界の厳しい現実だった。

約1年半ぶりにRIZINに復帰する元フェザー級王者・斎藤裕【写真:ENCOUNT編集部】
約1年半ぶりにRIZINに復帰する元フェザー級王者・斎藤裕【写真:ENCOUNT編集部】

多い時で来客数は1日200人超えも…

 格闘技イベント「Yogibo presents RIZIN師走の超強者祭り」(12月31日、埼玉・さいたまスーパーアリーナ/ABEMA PPV ONLINE LIVEで全試合生中継)でYA-MANと対戦する元RIZINフェザー級王者・斎藤裕(38)。約1年半ぶりにリングの上に帰ってくるが、いまの斎藤にはもう一つ、真剣勝負を繰り広げる“戦場”がある。それは東京・秋葉原のラーメン店だ。現役ファイターでありながら、一人の経営者として「二刀流」を実践する男が直面したのは、飲食業界の厳しい現実だった。(取材・文=島田将斗)

 飲食は「名前貸しでできるほど甘くない」。今年1月に夢だったラーメン店「麺ZINさいとう」を東京・秋葉原にオープンした。ラーメン屋を語るその表情は格闘家というよりも経営者だ。

 多くの著名人が飲食に挑戦している。成功を収める者もいる一方で、多くは店を畳んでしまう。知名度があれば、客足は途絶えず、うまくいくように思えるが、現実はそう簡単ではない。「本当に見るのとやるのでは全然違う」といきなり苦笑いを浮かべた。

「飲食はすごく難しいと思います。人に勧めるかと言われれば、ちょっと勧められないぐらい大変です」

 そう語る理由は昨今の経済状況だ。一時は「ラーメンは利益率が高い」と言われていたが、物価高騰のいま、都内で店を構えるとなれば話は別だ。

「どの店もそうだと思うんですけど、材料費がまず上がっている。人件費も最低賃金も上がってきてる。10年前、15年前からお店をやってるラーメン屋さんの社長の話を聞くと、『昔は結構利益的には取れたけど、今は全然もうかんない』みたいなことをよく言われるんですけど、まさにそうで……」

「麺ZINさいとう」の立地は秋葉原駅から徒歩2分。集客は申し分ないが「ラーメンの価格設定とか細かいところからちゃんと計算しないと、なかなか利益が出づらいなっていうのはすごく感じます」と簡単ではない現状を明かした。

「麺ZINさいとう」をオープンした【写真:インスタグラム(@yutakasaito1008)より】
「麺ZINさいとう」をオープンした【写真:インスタグラム(@yutakasaito1008)より】

開店の理由の1つにキャリアを終えた格闘家や若手の居場所作り

 開業準備から最近まで、1年以上格闘技に触れていない。それほど忙しかった。ではなぜ、苦労してまでなぜ開業したのか。そこには格闘家としてのセカンドキャリアや若手ファイターへの働く場所の提供などさまざまな構想がある。

「若い選手がプロファイターとしてある程度軌道に乗ってくるまでって結構大変なんですよね。働きながらある程度のラインまで持っていって、一人前になったら自立してもらうという支援みたいな意味もあります」

 実際のお店では4人の若手ファイターが働いている。そのうちの一人とは運命的な出会いを果たしていた。

「いま18歳の子がいるんですが、その子が小学生のときにキッズクラスで見ていたんです。お客さんとしてきた時に『先生!』って言われて誰か分からなかった。自分よりも身長が高くなっちゃって。彼は本当によく働いていますよね」

 他にも新潟や北海道から上京してきたファイターがいる。「麺ZINさいとう」はプロとして成功することを夢見る若手たちのベースキャンプとしての役割も果たしている。

 提供するラーメンにも力を入れている。看板メニューは「和牛白湯」1000円。「ああじゃない、こうじゃない」と知りあいの工場で1年半以上、試作を重ねてたどり着いた“新ジャンル”だ。

「あまり都内でも見ないですよね。新しいジャンルを確立させるという意味では、いいものができたなと。味にも自信があります。汁なしの和牛まぜそばをやってるんですけど、女性がよく食べられます。ボリューミーではなく、スルッと食べられるので人気です」

 味も認められ客数は多い時で1日に200人を超える。季節関係なく、関東圏でRIZIN、DEEP、修斗といった格闘技イベントが行われると“聖地巡礼”的な意味でも客足が伸びるという。

 さらに本人も予想していなかった意外な反響もある。「Google評価が異常に高いんです(笑)。それは、海外の人たちが書いてくれているからだと思います。うちのお店の看板は牛のデザインのマークがあるんですけど、あれを見て入ってくる海外客は多いです」と米国、韓国、中国などインバウンドも取り込みつつあると明かした。

グランドオープンから11か月…ラーメン屋は「チーム戦」

 グランドオープンから11か月。分かってきたのがラーメン屋は「チーム戦」だということ。「社員もいるし、アルバイトもいますけど、俺一人だけやってもあまり意味がない。『お店全体で何点』ということだと思いますが、みんなの足並みをそろえるのはとにかく難しい」と腕を組んだ。

 スタッフに何度も同じことを注意しなければならない場面もある。斎藤はそんなときでも決して怒鳴るように叱ったりはしない。「どうすればできるか?」と対話型のマネジメントを実践しているそう。それでも「お店を進めていくっていうのは大変ですね。本当に『誰か代わりにやってくんないかな』って毎日思ってます(笑)」と冗談めかし笑った。

 SNS全盛の現代では店舗について心無いことを書かれることもある。しかし、実際に店舗に立って感じるのはリアルの温かさだ。

「特に僕がいるのでSNSに書かれやすい。でも、お店に来てくれる人たちは一人もそういう人(悪口を書くような人)はいなくて、前向きで明るくて。生の声を聞けるのは店舗業務やっててよかったことのひとつですね」

 キャリア終盤に始めた第二章。経営者として、日々厳しい現実に向き合っているが、それ以上に「やりがい」も感じている。「一人だけでお店を盛り上げていくのではなくて、みんなで上がっていく。関わった人たちみんなが得できるような企画にしたい」とうなずく姿は、まさに人に優しく強い“斎藤裕”を体現していた。

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