ウエストランド井口の冷めた少年時代「身長測定も拒否」 卒業文集に「夢を見るのは浮かれる」

『M-1グランプリ2022』王者の漫才コンビ・ウエストランドの井口浩之にとって初の著書『悪口を悪く言うな!』(Gakken)が18日、発売される。本作は、これまで井口がさまざまな場で語ってきた“グチ”をまとめた一冊。「意味なんてない」と語るその本に込めた思いと、芸風の土台となった子ども時代に迫った。

インタビューに応じたウエストランドの井口浩之【写真:増田美咲】
インタビューに応じたウエストランドの井口浩之【写真:増田美咲】

これまでの“グチ”がわずか2週間で書籍化

『M-1グランプリ2022』王者の漫才コンビ・ウエストランドの井口浩之にとって初の著書『悪口を悪く言うな!』(Gakken)が18日、発売される。本作は、これまで井口がさまざまな場で語ってきた“グチ”をまとめた一冊。「意味なんてない」と語るその本に込めた思いと、芸風の土台となった子ども時代に迫った。(取材・文=島田将斗)

 書籍化するまではあまりに急展開だった。これまであらゆる媒体で話してきた“グチ”が企画会議を通ったことは耳にしていたが、その後は音沙汰なし。「もう出ないだろうな」と思っていた矢先のことだ。あれよあれよという間に話が進み、『2週間』という短い時間で出版された。

 タイトルの『悪口を悪く言うな!』には、何か特別な思いを込めたわけではない。あえて言葉にするなら、現代人への「もっと気楽でいい」というメッセージだ。

「意味も何もなくて、そのままです。最近はいろいろなことを溜め込む世の中じゃやないですか。だからもう気楽にというか、『もっと気楽でいい』って。別に仲間内で集まって上司の悪口を言ったっていいじゃないですか。それで仲良くなったり頑張れたりするんだから。変なことって世の中いっぱいあるじゃないですか」

 思ったことを言えない人間もいるが、井口にはこの感覚が「ピンとこない」という。現在のスタンスは子どものころから何も変わっていない。

「高校のときに身体測定ってあったじゃないですか。『なんでいま身長測らないといけないんだ』と思っていました。小学生ならまだしも、高校生なんてもう成長もないし、知りたいやつだけが保健室行って測ればいいのにって。むしろ『こんなにちっちゃいのに、もしそれでいじめられたらどうするんだ!』って僕は測らなかったですね。測る必要がない。測る必要なんてないですから! 昔からずっと変わってないんです」

 スポーツは大学までサッカーを体育会でやってきた。しかし、1度も“プロ選手”の夢を抱いたことはない。小学生の卒業文集には逆に「いまからそんなこと書いてもかなうはずない」と書いた。

「そういう夢を見るのは浮かれていると思っていたんですよ。だって隣のやつが自分よりうまかった段階で、もうなれない。『何をお前はサッカー選手とか書いているんだ』って恥ずかしさみたいなものがありましたね。ひねくれているというか、冷めていたかもしれないですね」

「女子大生に人気になりたい」と明かした【写真:増田美咲】
「女子大生に人気になりたい」と明かした【写真:増田美咲】

M-1ネタが現実に

 アンチ巨人で、相撲の若貴ブームのときは曙推し。強い時の東京ヴェルディは嫌い、などいわゆる王道や人気とは逆を行く。人はこれを“逆張り”と呼ぶこともあるが、本人の認識は全く違う。

「こっちが合ってますから。高校のころにインディーズバンドブームってあったけど、『いや絶対売れている人の方がいいんだから』と訴えました。無名バンドを応援しているやつに『10年後も応援しとけよ』って言ったけど、そいつは10年後にもう応援してなかった」

「人より気が付くのが早くて、怒るのが早いだけ」と、さらに“証明”を続ける。

「結局僕が言ってきたことが合ってましたからねぇ。春と秋がないって僕は何年も前から言っていた。だから『井口が合ってた』って謝ってほしい。いまは逆張りじゃなくて予言者って言われていますから。『M-1』でYouTuberが警察に捕まり始めているって言ったときは捕まっていなかったわけです」

 そうは言うが、芸人となったいまは人気者への憧れもある。

「人気あったらこんなことやってないでしょうからね(笑)。よく勘違いされるのは『分かるやつだけ分かればいい』『男だけでいい』って。そんなこと1ミリも思ってないです! もっとキャーキャー言われたいし、女子大生に人気になりたいです」

 結果「誰も来ない」と嘆く。とろサーモン・久保田かずのぶと一緒にMCを務めているバラエティー番組『耳の穴かっぽじって聞け!』(テレビ朝日系)での、悩みや怒りに迫る内容は人気コンテンツだが、女子大生が見るとは言えない内容だ。

「絶対見てないじゃないですか……。でも、ある時に気づいたんです。ライブで『変なコントのやつが人気だな』と思ったら、お客さんはみんな働いて、夜にライブを見に来て、現実を忘れたいのに、僕が出てきて現実を突きつけてくるわけじゃないですか。『そりゃ僕らを応援しねぇよな』って思いましたね」

初の著書『悪口を悪く言うな!』を発売する【写真:増田美咲】
初の著書『悪口を悪く言うな!』を発売する【写真:増田美咲】

「負けた後輩には土下座」井口流の優しさ

 自分を「客観」で見ているが、井口はこれを後輩にも伝えている。

「賞レースで負けた後輩に優しくするとかよく聞くじゃないですか。それって一番簡単で笑わせる方が難しい。それって誰でもできる。だから僕は、一緒にライブしている後輩には負けたら土下座させてます。そこで『面白かった』って言ってもしょうがない。そういうのを優しさと思わず『頑張ったね』が心地いい。本当に日本はもう終わりですよ!」

 励ますことイコール優しさという常識にメスを入れるだけでなく、行動に「意味」を求めてしまう風潮へも違和感があった。

「啓発本とかビジネス本とか意味のあること、タイパ、コスパなんて言いますけど、僕は意味のない時間こそ大事だと思っています。そんな意味のない時間を作るためにも、今回の本は読んでほしいですね」

 最近ではさまざまな芸人が本を出版している。井口自身の本はそれらとは別物だ。

「1番意味はないですからね(笑)。本当に何も意味がない時間が世の中には足りていない気がする。出版されるけど、僕は何もしてないですから。稼働はほとんどなくて、この写真(表紙)を撮ったくらい。それで2週間で出来たっていう意味ではコスパですね(笑)」

 小さいころから変わらず生きていたら、本ができた。「ただいろいろ言ってきただけですからねぇ」。“グチ”が仕事の武器になっていることを、本人が一番驚いていた。

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