斎藤元彦知事が会見立ち去り 「質問と食い違う回答」続出…“強制終了”がもたらす民主主義の危機
兵庫県の斎藤元彦知事(48)が、今月3日に行った定例会見は大荒れだった。斎藤氏が最後の質問への答弁を終えることないまま退場したとして、場内に怒号が飛び交う事態になった。以前から「説明責任を果たしていない」と指摘されていた斎藤氏の新たな展開について、元テレビ朝日法務部長・西脇亨輔弁護士は「民主主義の危機」と警鐘を鳴らした。

元テレビ朝日法務部長が指摘「これはまずい」
兵庫県の斎藤元彦知事(48)が、今月3日に行った定例会見は大荒れだった。斎藤氏が最後の質問への答弁を終えることないまま退場したとして、場内に怒号が飛び交う事態になった。以前から「説明責任を果たしていない」と指摘されていた斎藤氏の新たな展開について、元テレビ朝日法務部長・西脇亨輔弁護士は「民主主義の危機」と警鐘を鳴らした。
さすがにこれはまずい。その幕切れはあまりに衝撃的だった。
会見の最後、斎藤氏がフリーライター・松本創氏の質問に答え終えないまま会見場から立ち去ろうとしたのだ。松本氏は「えっ! まだ答えていただいてないんですけれども。まだ答え…」と驚くが斎藤氏は足を止めない。そして、場内の記者たちから口々に抗議の声が上がった。
「終わってない。終わってない。終わってない。終わってない。終わってない。終わってない。終わってない。終わってないよ。終わってない。逃げんな。終わってない。戻れよ。終わってないよ」
しかし、斎藤氏が演台に戻ることはなかった。会見場を出る斎藤氏の表情は心なしか緩んでいるように見えた。
なぜ、こんなことが起きたのか。その前段には斎藤氏の「間違ったテンプレート回答」による会見の紛糾があった。現実に斎藤氏の会見では、記者の質問に定型文句、いわゆる「テンプレート」で答弁し、「答えになっていない」と指摘されても同じ「テンプレート」を繰り返すという光景が毎回見られる。この日も松本氏の質問に斎藤氏は定型文句で返そうとしたが、そこで「ミス」が発生した。斎藤氏は松本氏に「別の質問用のテンプレート回答」を答えてしまったのだ。
松本氏の質問は、兵庫県「インターネット上の誹謗中傷、差別等による人権侵害の防止に関する条例案」についてのものだった。条例化の話が持ち上がった2023年当時、斎藤氏は自身の発言に関する泉房穂氏のX投稿に猛抗議し、条例による誹謗中傷対策を唱えていた。しかし、その斎藤氏が24年の県知事選では「誹謗中傷行為」が問題視された立花孝志被告の「二馬力」支援のもとで再選。その後に出された今回の条例案では「誹謗中傷対策が後退した」という指摘が出る中、松本氏は次のように質問した。
「兵庫県知事選挙における誹謗中傷、あなたを応援した立花孝志の行為等は(条例案に)反映されていないということでいいんですか」
この質問に対し、斎藤氏はこう答え始めた。
「前回の選挙については、私自身は自分ができることを精一杯させていただいたという…」
斎藤氏はなぜか条例案の話ではなく、前回の選挙運動の話を始めたのだ。この「自分ができることを精一杯した」という言葉は斎藤氏が多用する定型文句の一つだが、これを使う場面は「斎藤氏は立花孝志被告のお陰で当選したのではないか」などの「二馬力選挙についての質問」への回答。それなのにこの定型文句を「条例案についての質問」という別の場面で使ってしまった。そのために、問いと答えが完全にバラバラになったのだ。松本氏は「全く答えになっていない」と指摘。斎藤氏は「県の検討会が条例案を審議した」とも続けたが、かみ合わない質疑に他の記者からも批判の声が上がった。
「そろそろ時間」…自ら会見を終わらせようとする
すると、斎藤氏は「質問と食い違う答え」を謝罪することなく、逆に会見を運営する記者クラブの幹事会社にこう詰め寄った。
「私の発言中に質問者以外の方が大きな声出されてますけど、その点についてのご見解よろしくお願いします」
これに対して記者クラブ側は、場内の記者に発言は指名されてからするよう求めると同時に、斎藤氏にも「質問の趣旨というのは的確にとらえていただいて率直に答えていただけるように」と釘を刺した。すると、斎藤氏は「これまで通り、しっかり答えさせていただきたいと思います」と述べたものの、その直後こう口にしたのだ。
「そろそろ時間ですので、まとめを」
会見の司会者ではない斎藤氏が、立花被告に関する質問をされると、自分で会見を終わらせようとする。この展開に場内が再び騒然となると、斎藤氏は「幹事社さん、また大きな声を出された方がおられますけど、その点についてはどう思われますか」と繰り返した。そして、場内の紛糾が止んだ時に斎藤氏の口から出たのが次の言葉だった。
「よろしいですか。はい、ありがとうございました」
斎藤氏はどさくさの中で会見場からいなくなった。松本氏の質問への答えは宙に浮いたままだった。
この騒ぎがまず浮き彫りにしたのは、斎藤知事会見では真っ当な質疑応答が成立していないという事実だ。問題点を追及された際の斎藤氏の「答弁」は、多くの場合日本語として「答え」になっていない。
さらに9月頃からは斎藤氏は会見中に腕時計を見ながら「時間が来たので次で最後」と、司会者ではなく自分で会見を打ち切ろうとし始めた。そして、今月3日の会見ではついに「会見場から立ち去る」という強硬手段で、会見が「強制終了」されたのだ。事態は明らかにエスカレートしている。
民主主義のもとでは、議員や首長が持つ権力は有権者からの預かりものだ。だからこそ、権力を預けてくれた有権者に「説明責任」を果たすことは出発点のはず。その出発点から「逃げる」なら、それはもう民主主義とは言えないのではないか。今回の会見を容認するかどうかは、民主主義のあり方を左右しかねない大きな分岐点だと感じている。
□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ)1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうまワイド』『ワイド!スクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。社内問題解決に加え社外の刑事事件も担当し、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反などの事件で被告を無罪に導いた。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。同6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。同7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、同11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。昨年4月末には、YouTube『西脇亨輔チャンネル』を開設した。
あなたの“気になる”を教えてください