ファンをリングに集中させる“おつまみプロレス”「六文銭」の覚悟とは【連載vol.8】
木高イサミ率いるBASARAが「おつまみプロレス」で、存在感を増している。
金曜午後8時更新「柴田惣一のプロレスワンダーランド」
木高イサミ率いるBASARAが「おつまみプロレス」で、存在感を増している。
BASARAの頂点ユニオンMAX王座を現在、保持する「闘う僧侶」阿部史典は「おつまみになるようなレスラーになりたい。他のBASARAの選手は思っていないかも知れないけど、自分がチャンピオンの限りは、柿ピー、マカダミアナッツ……を目指す」と胸を張った。
新日本プロレスのようなメジャー路線を追いかけても、簡単には追いつけない。だったら、メインの料理を提供するのではなく、おつまみでいいじゃないか。ちょっと違うスタイル。でも気になる。「あれ、こんなことするの」。対戦相手の虚を突くだけではなく、ファンの驚きも誘う。
実際に、阿部のファイトはクルクル回転してパンチやチョップを繰り出すなど、小気味いい独特のスタイルを築き上げている。プロレスにはいろいろあり、ファイトスタイルは無限大。100人レスラーがいれば100のファイトスタイルがある。
9・22後楽園ホール大会の中津良太とのV3戦でも「ホホウ」と、ファンの一手も二手も先を行く試合運びで勝利している。
大将のイサミもデスマッチ、ストロングの両スタイルで兵(つわもの)ぶりを披露している。「イサミは捨て身」と評されるが、蛍光灯に突っ込み、特大ラダーから両足ニードロップを繰り出すなど、傷だらけのデスマッチファイターとして名をはせる一方で、9・22決戦では、大日本プロレスのストロングBJの若武者・野村卓矢と、バチバチの打撃戦に粘っこいサブミッション合戦を展開した。
20分時間切れ引き分けの一戦は、見る者に呼吸することを忘れさせるほどのド迫力だった。若い勝気な野村をして、「イサミさんは頑丈でした。ゾンビですね多分。そして何より心が強いと感じた」と言わしめるほど、心身共に強さを発揮した一戦だった。
かと思えば、西村修、トランザム★ヒロシ組VSシュウとケイのバラモン兄弟の一戦では、西村組がヨガ殺法でバラモン兄弟だけでなく観客席も幻惑。4人そろってリング上で座禅を組むなど、BASARAの幅の広さを見せつけた。
多くの団体が乱立する中で、BASARAは独特の存在感でキラリと光っている。まるでプロレスのおもちゃ箱のようだが、もちろん、プロレスラーとしての土台がしっかりしているからこそ「おつまみ」を楽しめる。
DDTグループの傘下から今年初め、独立したBASARA。新型コロナウイルス禍もあって、苦戦かと思いきや、イサミを中心にしっかり生き残っている。
客席を見渡しても、ファンはみな熱心にリングを注視している。試合中もLINEやツイッターをチェックしているのか、スマホをいじりながら観戦というファンも多い昨今だが、BASARAの客席では写真撮影以外では、じっと試合に注目しているファンが多いように感じる。何が起こるか予測不能なリングなので、見逃さないようにしているのだろうか。
イサミは六文銭の首飾りを愛用していた。六文銭は、勇猛果敢な戦国武将・真田幸村の家紋、旗印で有名だが、元々は三途の川の渡し賃。いつ、その命が果ててもいいという決死の覚悟で、リングに、そして団体運営に臨んでいることの現れだろう。
BASARAは「婆沙羅」。遠慮なく振る舞う、派手に見栄を張る、しゃれ者など意味もある。熱狂的な女性ファンを指して「イサミ女子」という言葉がある。女子だけではない。「現代の侍」ともいうべきそのたたずまいからは、男も惚れる潔さがヒシヒシと伝わってくる。