「俺はクマ擁護派」 東出昌大の“師匠”が明かす狩猟者の功罪 有害駆除は「金のための殺し」
全国各地でクマによる被害が相次ぐなか、狩猟免許を持ち猟師としても活動している俳優の東出昌大が週刊誌に寄稿した連載の再編集記事が、ネット上で物議を呼んでいる。記事は過熱するクマ報道に一石を投じた内容だが、実際に狩猟に携わる人々は現在のクマ問題をどう感じているのか。東出が「山の師匠」と仰ぐ登山家で作家の服部文祥氏に、過熱するクマ報道への見解を聞いた。

狩猟歴20年、銃と最低限の装備のみで食料を現地調達するサバイバル登山家
全国各地でクマによる被害が相次ぐなか、狩猟免許を持ち猟師としても活動している俳優の東出昌大が週刊誌に寄稿した連載の再編集記事が、ネット上で物議を呼んでいる。記事は過熱するクマ報道に一石を投じた内容だが、実際に狩猟に携わる人々は現在のクマ問題をどう感じているのか。東出が「山の師匠」と仰ぐ登山家で作家の服部文祥氏に、過熱するクマ報道への見解を聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)
物議を呼んでいる記事は、今月18日にYahoo!ニュース上に掲載。東出が一部週刊誌に寄稿している連載を再編集した形式で、内容は過熱するメディアのクマ報道への疑問を語ったものだが、見出しには「クマはそんな危ないもんじゃない」という東出の言葉が踊っており、ネット上では「クマ被害を軽視している」「被害地域への配慮を欠いている」といった批判の声が寄せられている。記事はすでに削除されている。
そんな東出が「山の師匠」「狩猟の大先輩」と慕うのが、銃と最低限の装備のみで食料を現地調達するサバイバル登山家の服部文祥氏だ。東出が狩猟免許を取得した直後から度々猟を共にしており、公私ともに交友が深いことで知られる。狩猟歴20年の服部氏はクマを巡る現状をどう見ているのか。11月上旬に行われたアウトドアイベントの会場で同氏を直撃した。
クマ問題についてのスタンスを問うと、服部氏は前提として「俺はクマ擁護派」ときっぱり。「クマが積極的に人間を襲うというのは今でもないと思ってる。今もほとんど99%以上の個体は人を恐れて生きています。一部の異常なクマのせいで、まるでクマ全体が人間の敵みたいになっている現状は残念だし、受け入れられない。実際に野生のクマを知りもしない人間が、目先の情報だけで『クマはモンスター』と決めつけるのは、クマに対して失礼ですよ」と私見を語った。
現実問題として、実際にクマが人を襲う事故が起きているのも事実だ。今起こっている状況について、服部氏は「自分自身、混乱している部分もある。(服部氏が活動する関東とでは)地域的な隔たりもある。そこは分からない」としつつも、クマが人を襲うようになった理由の1つとして、狩猟者モラルの問題を指摘する。
「我々狩猟者がシカを撃って、転がしたままにしてることにも責任はある。おいしい部位の肉しか取らない、後は運べないからそのまま山に捨てていく。今は殺して尻尾だけ持って帰ったら、有害駆除で1万円くらいもらえる自治体もある。食べるためじゃなく金のための殺しだから、俺は有害駆除はやらない。山にシカの死がいを放置して、肉食を覚えたクマがモンスター扱いされるのは、やっぱり『あれ?』と思いますよね」

「食べるために殺す」ことのみを実践、現在山奥の廃村で自給自足の生活を送っている
狩猟の目的は単なる趣味から食用としての利用までさまざまだ。そのうち、農作物や生活環境に被害を与えるなどの理由から、集中的かつ広域的に管理を図る必要がある動物(指定管理鳥獣)を自治体からの許可を得て捕獲・駆除する狩猟は「有害鳥獣駆除」と呼ばれる。2015年にニホンジカとイノシシが指定され、24年には四国の個体群を除くクマ類が追加指定。駆除の確認が取れるとハンターには自治体から報奨金が支払われる。
自治体からの要請で危険な駆除業務を担うハンターがいる一方で、趣味の延長で小銭稼ぎに有害駆除を行い、死がいを回収することもなくその場に遺棄していくようなモラルの低いハンターもいる、というのが服部氏の指摘だ。サバイバル登山家として「食べるために殺す」ことのみを実践する同氏は、現在山奥の廃村で自給自足の生活を送っている。丹精込めて育てた作物をクマに荒らされることもあるが、種として共存・共生していく姿勢は必要だと口にする。
「もちろん、そういう時はぶち殺してやろうと思いますよ。クマは柿もハチミツもみんな食っちゃう。本当に頭に来ますよ。ただ、当たり前の話ですけど、人間は人間だけでは生きていけないんですよね。それなのに、我々は表面上、人間だけで生きていけるような社会を作っちゃってる。慣行農法で野菜を作って、工業畜産で家畜を作って、まったく生態系に関わらずに人間社会だけで生きていけるというイメージを持っちゃってますよね。それは正しい命の在り方じゃない」
人命最優先のもと過熱するクマ報道を受け、ネット上では「クマは絶滅させるべき」「動物園で種の保存管理だけすればいい」といった極端な言説も出始めている。“弟子”の東出が苦言を呈した、過熱するメディアの報道姿勢については、同じ意見を口にする。
「人間が獣に殺されることに異様に反応しますよね。文明社会でそんなことがあってはならないというのも、簡単に言えば人間中心主義で、俺はその考えにはあまり共感しない。一緒に生きていくしかない。場合によっては何人か死んでもしょうがないと思うしかないんですよ。『じゃあお前の子どもが殺されたらどうなんだ』と言われるとちょっと揺らぐけど、究極的にはそれも仕方ないと思うべき。殺された瞬間はコノヤロー! と思うだろうけど、後々落ち着いて考えたら、それも生命の在り方だよなと。
だいたい、交通事故の方がよっぽど理不尽ですよ。車が危険だとみんなが分かっているのに、乗るのをやめないのは危険性より経済効率を取ってるからですよね。俺は他人を信用してないから、山には登っても交差点の近くには絶対に立たない。車にひかれて死ぬよりクマにやられて死ぬ方が、よっぽど生き物として正しい姿な気がしますけどね」
飾らない言葉でクマ問題への率直な考えを語った服部氏。過熱する報道に流されることのない、冷静な議論が求められている。
あなたの“気になる”を教えてください