伊原六花、強みは“普通”であること「何にでも染まることができる」 ダンスに懸けた高校生活がベースに

俳優の伊原六花が、11月28日公開の映画『栄光のバックホーム』(秋山純監督)に出演する。元阪神タイガース・横田慎太郎さんの28年の生涯を描く実話をもとにした作品で、伊原は主人公が思いを寄せる幼なじみの小笠原千沙役を演じている。今作では「即興の芝居力」が鍛えられたと明かし、自身の個性についても語った。

インタビューに応じた伊原六花【写真:増田美咲】
インタビューに応じた伊原六花【写真:増田美咲】

映画『栄光のバックホーム』で故・横田慎太郎さんの幼なじみ役

 俳優の伊原六花が、11月28日公開の映画『栄光のバックホーム』(秋山純監督)に出演する。元阪神タイガース・横田慎太郎さんの28年の生涯を描く実話をもとにした作品で、伊原は主人公が思いを寄せる幼なじみの小笠原千沙役を演じている。今作では「即興の芝居力」が鍛えられたと明かし、自身の個性についても語った。(取材・文=大宮高史)

 この初冬、“号泣必至”の感動作が誕生した。横田さんは鹿児島実業高から2013年にドラフト2位指名で阪神タイガースに入団、プロ入り3年目には1軍出場を果たすも翌17年に脳腫瘍を患い、闘病の末23年7月に28歳の生涯を閉じた。大病を抱えながらも横田さんの前向きに生きる姿は周囲を勇気づけ、19年に阪神鳴尾浜球場で行われた引退試合(2軍)では病気で視力が低下した中、センター前の打球をノーバウンドでバックホームして走者をアウトにし、「奇跡のバックホーム」と語り継がれている。

 そんな実話がスクリーンでよみがえる。今作は、横田さんの自著『奇跡のバックホーム』と闘病を支えた実母・まなみさんの視点で描いたノンフィクション『栄光のバックホーム』(作:中井由梨子)をもとに映画化された。俳優・松谷鷹也が横田慎太郎役で主演し、伊原は彼の幼なじみであり思い人・小笠原千沙役を演じている。伊原自身、大阪出身で「幼い頃は父と一緒に甲子園球場に通っていました」と明かし、縁もあったようだ。

 ほか共演者は、横田さんの生涯に寄り添った母まなみさん役の鈴木京香、元プロ野球選手の父・真之さん役の高橋克典、当時2軍監督の掛布雅之氏役の古田新太ほか、加藤雅也、小澤征悦、平泉成、田中健、佐藤浩市ら豪華キャストが顔をそろえた。ベテラン勢らと渡り合う、伊原の演技に注目される。

――まず、映画の感想をお聞きします。

「どんな人にも深く、そして強く突き刺さる映画だなと感じました。作品では横田さん本人だけでなく、彼の周りにいる家族や友人たちも、それぞれにできないことや諦めたことを抱えながら日々を生きる姿が描かれています。その姿を見ていると、『自分も簡単に諦めちゃいけない』と思えてきて、すごく大きなパワーをもらえる作品になっていると思います」

――劇中で特に伊原さんの心に残ったシーンはありますか。

「たくさんありますが、特に横田さんがランニングをしながらゴミを拾っているシーンが好きです。年を重ねるごとに、その姿が何度も描かれるのですが、誰が見ているわけでもないのに、ごく自然にそんなことができる横田さんの人柄を描いていて、何気ない日常の場面でも人をしっかり捉えています」

――演じる小笠原千沙には、どんな印象を持ちましたか。

「距離感の取り方が素敵だな、と思いました。高校時代そしてプロに入ってからの慎太郎のすべてをちゃんと見守っているのですが、全部ありのままには話さないんです。例えば本当は活躍を知っているのに、『テレビ見てないから分からない』と言ってあげるような子です。どっちが彼のためになるのかを考えられる性格で、賢くて優しい子だなと思いました」

――少し引いたところから見守るような感じでしょうか。

「そうですね。だから演じる上でも、横田さんの病気が発覚した後も『もう一度頑張ろう』と思えるようなスイッチを、何気なくポンっと押してあげられるような存在を目指しました。映画の中ではご家族がずっとそばにいるので、ご家族が与える絶対的な安心感とはまた別に、彼が野球選手としてもう一度立ち上がるために、千沙も遠くから寄り添っていたのかなと想像しています」

「どんな演技をしたか覚えてないんです」と明かした【写真:増田美咲】
「どんな演技をしたか覚えてないんです」と明かした【写真:増田美咲】

スタンドでチアダンスのシーンも「ほぼぶっつけ本番」

――横田さんの高校時代の甲子園出場がかかった鹿児島大会決勝シーンでは、スタンドからチアダンスで応援するシーンもありました。

「事前に参考としてチアダンスの動画もいただいたのですが、現役の皆さんがステキすぎて、どうしよう? と思いました(笑)。いざ現場に行ったら、エキストラの高校生の皆さんの若さに刺激を受けて『私もこうだった』と思い出して、その場で感じたままに踊っていました。おかげでマネジャーさんに『若く見えたよ』とほめられました(笑)」

 伊原といえば、歌手・荻野目洋子のヒット曲『ダンシング・ヒーロー』に合わせて踊る『バブリーダンス』で話題を集めた大阪・登美丘高校のダンス部キャプテンを務め、ブレークをきっかけに2018年に芸能界入りした。その後は俳優としてドラマ・舞台・CMなど多ジャンルに出演する中、今作の現場では過去のやり方では通用しない時もあったという。

「この作品は、段取りもテストもほぼなくて、いきなりカメラの前でお芝居をすることがほとんどでした。例えば秋山監督が試合の状況を説明したと思ったら、すぐ本番に入る、というような流れです。だから私もスタンドで『絶対勝って!』とその時の感情を大事に本当に応援している感覚のまま撮ってもらったので、終わった後にどんな演技をしたか覚えてないんです。即興のようなお芝居は、初めての経験でした」

――監督が感情を引き出してくれたと。

「そうですね。ほぼぶっつけ本番のお芝居をしたのが初めてで、今まで私は段取りの中で一つずつ確認して、お芝居を完成させていくタイプでした。でも今回はキャストもスタッフも、全員が最初から集中力をマックスにして、その場の感情を大事に臨んでいました。その緊張感の中で、皆さんが力を貸してくださったおかげで、私もそこで感情を出し切れました。新しい表現の引き出しを増やすことができて、絶対忘れたくない経験になりました」

――なるほど。これまでは事前にしっかり練っていくスタイルだったわけですね。

「ドラマや映画だと、場面ごとに切り取っていくので私の場合は特に準備が必要でした。ストーリーを順に追って演じる舞台よりも、私には映像の方が『気持ちの持っていき方』という点で難しかったです。今回は監督からのレクチャーで私も状況を想像して心を動かせたんですが、あの時の“ふつふつ湧き上がる感覚”を自由に作っていけるようになると、もっとお芝居の幅が広がると思います」

――では今作での発見も経て、ご自身の俳優としての個性や強みを、どのように捉えていますか。

「“普通なこと”が私の強みなのかなと思います。“圧倒的なヒロイン”というタイプでもないですし、個性が強いわけでもないですが、その分、何にでも染まることができると思います。高校時代も好きなことに打ち込めて、普通の高校生として過ごすことができたので、その経験も自分のベースになっている気がします」

――これからやってみたい役柄は。

「ギャップでドキッとさせる役に巡り会いたいです。例えば悪役とか、殺人犯の役もそうですね。多分、今の私だと全然やりそうにない役ですよね(笑)。そうやって今のイメージを打ち破って、見てくださる方の想像力を掻き立てるような俳優になることが目標です。そのためには、どんな役でも挑戦して、結果を残していくしかないなと思っています」

――俳優以外で、今後挑戦してみたいことはありますか。

「声のお仕事に挑戦してみたいです。昨年、アニメの『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』で少しだけ声優を経験させていただきました。憧れのお仕事だったのですが、たった三言のセリフでも緊張しっぱなしで……。もう一度がっつり挑戦して、声だけでキャラクターの感情や背景を表現するプロの皆さんに、少しでも近づきたいですね」

□伊原六花(いはら・りっか) 1999年6月2日生まれ、大阪府出身。2017年、大阪府立登美丘高ダンス部のキャプテンとして披露した“バブリーダンス”が話題になり、18年にTBS系連続ドラマ『チア☆ダン』で俳優デビュー。その後はドラマや映画などに出演。主な出演作は、NHK連続テレビ小説『なつぞら』(19年)、同『ブギウギ』(23年)、日本テレビ系『肝臓を奪われた妻』(24年)など。25年は、4月期のフジテレビ系『パラレル夫婦-死んだ“僕と妻”の真実-』、7月期の日本テレビ系ドラマ『恋愛禁止』で主演を務めたほか、3月公開の映画『少年と犬』、9月~11月に上演の舞台『ヴォイツェック』などに出演。

幻冬舎フィルム 第一回作品
『栄光のバックホーム』
11月28日(金)より、TOHOシネマズ日比谷ほか 全国ロードショー
製作総指揮:見城徹、依田巽
原作:『奇跡のバックホーム』横田慎太郎(幻冬者文庫)、『栄光のバックホーム』中井由梨子(幻冬舎文庫)
脚本:中井由梨子
企画・監督・プロデュース:秋山純

出演:松谷鷹也、鈴木京香
高橋克典、前田拳太郎、伊原六花・山崎紘菜、草川拓弥ほか
主題歌:『栄光の架橋』ゆず(SENHA)
配給:ギャガ
制作:ジュン・秋山クリエイティブ
(C)2025「栄光のバックホーム」製作委員会

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