多部未華子、DV被害者を演じ新境地 セリフ少なく「どう表現するか」…重いテーマを支えた意外な理由

俳優・多部未華子が、23日スタートのWOWOW連続ドラマW『シャドウワーク』(日曜午後10時、全5話)に主演した。本作は、江戸川乱歩賞作家・佐野広実氏の同名小説を映像化したヒューマン・ミステリーで、夫からの暴力に苦しみ、命懸けで逃げ出した主婦・紀子を演じる。絶望の果てで再び生きようとする女性たちの“静かな闘い”を描く。

『シャドウワーク』で主演を務めた多部未華子【写真:増田美咲】
『シャドウワーク』で主演を務めた多部未華子【写真:増田美咲】

連続ドラマW『シャドウワーク』で主演

 俳優・多部未華子が、23日スタートのWOWOW連続ドラマW『シャドウワーク』(日曜午後10時、全5話)に主演した。本作は、江戸川乱歩賞作家・佐野広実氏の同名小説を映像化したヒューマン・ミステリーで、夫からの暴力に苦しみ、命懸けで逃げ出した主婦・紀子を演じる。絶望の果てで再び生きようとする女性たちの“静かな闘い”を描く。(取材・文=平辻哲也)

 タイトルの「シャドウワーク」は、“報酬を受けないが、社会を支えるために不可欠な労働”を意味する言葉。この作品に込められたテーマに、多部は強く共鳴したという。

「女性たちが結束して、自分の人生を自分の力で切り開くという話に共感しました。でも、現実にこんな家庭があるのかなって思って。実際にそういう経験をされている方もいらっしゃると思うと、想像だけでは追いつかない現実の重さを感じました」と静かに語る。

 多部が演じる紀子は、長年の暴力によって自尊心を奪われ、「暴力を受ける自分が悪い」と思い込んでしまった女性。逃げ込んだ先の病院で、ある人物と出会い、江ノ島のシェアハウスへ導かれる。そこには、同じように傷を負った女性たちがいた。彼女たちと共同生活を送りながら、紀子は少しずつ「生きること」を取り戻していくが、その家には誰にも言えない“あるルール”が存在していた。

「今回はすごく口数の少ない役で、感じたり悟ったり、気づいたりするシーンが多いんです。それをどう表現するかが課題でした。監督や撮影の方と『目線を少し上げた方が決意に見えるかも』など、細かく相談しながら作りました」と、多部は役づくりを振り返る。

 セリフではなく、表情や視線の動きで語る演技。その沈黙が、暴力に支配された女性の心の揺れを、より痛切に伝えていく。

 監督は、ニューヨーク大で映画を学び、吉沢亮主演の映画『AWAKE』で長編デビューした新鋭・山田篤宏氏。最近では阿部寛主演の映画『俺ではない炎上』(2025年9月公開)も話題に。多部にとっても初タッグとなった。

「山田監督はすごく穏やかで話しやすい方。ちょっとした疑問も素直に聞けて、みんなで作り上げていく現場でした」と信頼を込めて語る。

重い内容でも「信じられないくらい明るい現場でした」と振り返った【写真:増田美咲】
重い内容でも「信じられないくらい明るい現場でした」と振り返った【写真:増田美咲】

寺島しのぶら共演者と「みんなで楽しんで作れた」

 重いテーマを扱う一方で、撮影現場は想定外に明るかったという。多部が語る“現場の空気”には、俳優同士の信頼と連帯がにじむ。

「作品の内容は重いのに、信じられないくらい明るい現場でした。私が座長だからという意識はあまりなくて、みんなで楽しんで作れた感じです。寺島しのぶさん、須藤理彩さん、石田ひかりさんたち年上の女優さんたちが盛り上げてくださって、軽く質問し合ったり、作品の話をしたりして、それがヒントになりました」と笑う。

 先輩女優とはどんな話題で盛り上がったのか、と聞くと、「言えないことしかないです」と笑い。「40過ぎたらこうなるよ、とか恐怖を重ねるっていう話とか。育児の話、仕事の話、どこのおかきがおいしいとか、たわいもない話ばかりです」と楽しそうに語ってくれた。

 その“明るさ”が、作品に流れる微かな希望のトーンを支えている。DVという重い現実を描きながらも、『シャドウワーク』は“再生の物語”だ。

「女性だけでなく、誰にでも“やり直せる”ことを感じてほしい。自分の力で挽回できるんだよ、みんなと協力すればっていうメッセージを見ていただけたらうれしいです」。WOWOWドラマ初主演となる多部。沈黙の演技で新たな境地を切り開く姿は、紀子という女性の生き様と静かに重なっている。

□多部未華子(たべ・みかこ)1989年1月25日生まれ。東京都出身。2002年に俳優デビュー。05年公開の映画『HINOKIO』、『青空のゆくえ』でブルーリボン賞新人賞を受賞。09年、NHK連続テレビ小説『つばさ』のヒロインを務め、翌年の舞台『農業少女』で読売演劇大賞優秀女優賞・杉村春子賞・エランドール賞新人賞を受賞。近年の主な出演作に、映画『空に住む』(20)『流浪の月』(22)、ドラマ『いちばんすきな花』(23/フジテレビ系)「スロウトレイン」(25/TBS系)『対岸の家事~これが、私の生きる道!~』(25/TBS系)、舞台NODA・MAP『兎、波を走る』(23)などがある。

ヘアメイク:中西樹里
スタイリスト:岡村春輝(FJYM inc.)

次のページへ (2/2) 【写真】多部未華子の撮り下ろしインタビューカット
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