クマ被害地で「犬をしまえ」 “飼い主批判”に香山リカが反論 過度なペットブームへの警鐘も
全国各地でクマによる被害が相次いでいる。今年度のクマ被害による死者数は全国で13人と、統計を取り始めた2006年以降で過去最悪に。屋外で飼われている犬などが襲われる例も多数報告されており、一部では動物愛護の観点から「この状況での外飼いはもはや虐待」「犬をしまえ」など、飼い主に対する批判の声も上がっている。番犬として犬を飼うことは許されないのだろうか。「イヌネコにしか心を開けない人たち」などの著書がある精神科医の香山リカ氏は、「人と犬の関わり方がペットという関係だけに完全に寄ってしまっている」と警鐘を鳴らしている。

屋外飼育していた犬がクマに襲われる被害が相次いで発生
全国各地でクマによる被害が相次いでいる。今年度のクマ被害による死者数は全国で13人と、統計を取り始めた2006年以降で過去最悪に。屋外で飼われている犬などが襲われる例も多数報告されており、一部では動物愛護の観点から「この状況での外飼いはもはや虐待」「犬をしまえ」など、飼い主に対する批判の声も上がっている。番犬として犬を飼うことは許されないのだろうか。「イヌネコにしか心を開けない人たち」などの著書がある精神科医の香山リカ氏は、「人と犬の関わり方がペットという関係だけに完全に寄ってしまっている」と警鐘を鳴らしている。
今月11日、秋田市内の住宅の敷地内で飼い犬がクマに襲われる被害が発生。クマに連れ去られた犬の行方は分かっていない。秋田県内では、先月30日にも大館市で柴犬がクマに襲われたとみられる被害が発生している。
一連の報道に対し、ネット上では「今時外飼い自体ありえない」「犬を家族と思ってたら外飼いなんて絶対させない」「飼い主は自分が鎖につながれたままクマに襲われてみろ」など、犬の屋外飼育に対する批判の声が殺到。「人が食われたニュースは何とも思わないけど、犬が食われるのは許せない」など、人よりも犬の側に感情移入している声もある。
とはいえ、都市部を除けば犬の屋外飼育はまだまだ一般的だ。地域や犬種によっても事情は異なり、一概に「犬の外飼いは不適切」と判断できるものでもない。現在、北海道鵡川町の診療所で地域医療に携わる香山氏は、「野生動物対策として、外で犬を飼う地域はたくさんある。都会の価値観やペット基準だけで批判するのはどうなのか」と一連の批判に対して反論を寄せる。
「人と犬の関係は何千年も昔から続いており、その中でペット、愛玩動物としての付き合い方が生まれてきたのはここ数十年のことです。高度経済成長を経て、社会が豊かになって、初めて動物を家畜ではなく、愛玩の対象として見る風潮が広まった。それはそれで犬との関わり方のひとつの形ではありますが、長年続いてきた他の関係性を否定していいものではないと思うんです」
犬と人の歴史は古く、住居周辺で野生動物や不審者の接近・侵入を防ぐ番犬の他にも、放牧してる羊や牛などの家畜をオオカミから守る牧羊犬、狩猟のサポートをする狩猟犬、警察犬や盲導犬など、犬種によってもその役割は多岐にわたる。香山氏は、近年の過剰なペットブームが人と犬の関係性を画一化させている現状に対し警鐘を鳴らす。
「今の日本では、人と犬の関係性が完全にペットとしてのものだけに寄ってきてしまっている。過度な動物愛護思想は、家畜や農耕馬、猟犬など、動物を使役すること全般に批判的ですが、人と犬との関係性はペットだけではない。人間が動物を使役してきた歴史はずっと長くあって、それは『かわいい』『かわいそう』という単純化した情緒だけで判断しきれない。番犬としての飼い方も、長年の人と犬のつながりの中で生まれてきた関係性で、ここ数年のペットブームの価値観で否定していいものではないと思うんです」
犬がクマに襲われるというショッキングな出来事に対し、ペットして犬を飼っている人が強く感情移入してしまうのは仕方のない部分もある。ただ、人と犬との関係性はそれぞれであり、屋外飼育をしている飼い主を安易に批判することはあってはならない。近年では「ベアドッグ」と呼ばれる、クマ除けに犬を活用した取り組みもある。「かわいそう」という感情論に流されることなく、被害が深刻な地域に対し想像力を持つことが求められている。
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