ギレルモ・デル・トロ監督、“ボツ脚本”多数も貫く信念「自分のためにしか…」 最新作に入れた日本要素

米映画『ヘルボーイ』(2004年)、『シェイプ・オブ・ウォーター』(17年)などで知られるギレルモ・デル・トロ監督が、長年の構想を経て映画『フランケンシュタイン』を手掛け、現在Netflixで世界独占配信されている。一部劇場でも公開する本作は、日本の“怪獣”をこよなく愛する同監督が日本の要素も取り入れ、見応えある作品に。このほど、映画に込めたテーマ、そして映画づくりの流儀について聞いた。

インタビューに応じたギレルモ・デル・トロ監督【写真:ENCOUNT編集部】
インタビューに応じたギレルモ・デル・トロ監督【写真:ENCOUNT編集部】

Netflixにて独占配信中の映画『フランケンシュタイン』

 米映画『ヘルボーイ』(2004年)、『シェイプ・オブ・ウォーター』(17年)などで知られるギレルモ・デル・トロ監督が、長年の構想を経て映画『フランケンシュタイン』を手掛け、現在Netflixで世界独占配信されている。一部劇場でも公開する本作は、日本の“怪獣”をこよなく愛する同監督が日本の要素も取り入れ、見応えある作品に。このほど、映画に込めたテーマ、そして映画づくりの流儀について聞いた。(取材・文=猪俣創平)

 白いひげを蓄えた恰幅がいいメキシコ出身の巨匠は、笑みをたたえながら取材先に現れた。右手を差し出し握手。表情と同じ柔らかな手が印象的だ。あいさつを終えてソファに腰掛けると、スペイン語なまりの英語でゆっくりと話し始めた。

 本作はメアリー・シェリーによる名著『フランケンシュタイン』が原作。これまでも英出身の名優、ボリス・カーロフが“怪物”を演じた1931年のユニバーサル映画による3部作をはじめ、同古典小説を題材にした映像作品は数多く生み出されてきた中、本作は、デル・トロ監督が監督・脚本・製作を務め、長年温めてきた構想をもとに映画化した。

 欲望に駆られ、生命創造に挑むヴィクター・フランケンシュタイン(オスカー・アイザック)と、その実験によって誕生した“怪物”(ジェイコブ・エロルディ)との関係を軸に、人間とは何か、真のモンスターとは何かを問いかける壮大なドラマを描いた。

 デル・トロ監督自身も幼少期、カーロフ演じる“怪物”に心を奪われた。「子どもの頃からずっと、この“怪物”に自分を重ねていました。彼は美しく、ほとんど神聖なまでに不完全な存在です。幼い頃に教えられたイエスの姿を、カーロフが演じたその怪物の中に見いだしたのです。そこに個人的で霊的なつながりを感じました」と当時に受けた衝撃を振り返った。

 製作にあたり、「まだ語られていない何かをこの物語に加えられるだろうか」という考えが背景にあったと明かし、「過去作との優劣ではなく、“自分の歌うべき歌かどうか”という問いでもありました。ビートルズやジョー・コッカーが同じ曲を歌っても全く違うものになるように、もし自分が“歌うべき歌”だと言えるのなら違う曲にできると思いました」と胸を張った。

 一方で、製作された映画『フランケンシュタイン』をほぼ見てきたと自負し、「メアリー・シェリーの小説からは100本の名作が作れるほど多くの視点と可能性があると考えています」と原作の持つ文学的なエッセンスにも深く共感し、「ロマン主義文学は単なる美や理想ではなく、“愛・生命・死”の融合を描く哲学的運動です。この3つを理解することこそ、人間になるために必要なことだと思っています」と本作でも重視した物語のテーマを挙げた。

 その上で、本作は監督にとって「非常に個人的な物語」になっていると打ち明け、「“父と私”、そして“父としての私と子どもたち”のストーリーです。他のどんな『フランケンシュタイン』映画よりも親密で、家族について深く、よりカトリック的で、壮大なオペラのような映画を作りたかったのです」と狙いを語った。

 過去作との違いという点では、“怪物”のデザインも印象的だ。 これまでの“怪物”は交通事故に遭った被害者のように傷つき、無理に皮膚や肉体をつなぎ合わせた姿だった。しかし、本作では彫刻のように洗練されたビジュアルとなり、赤ちゃんのような姿がヴィクターとの“親子関係”をより際立たせている。

 その“映像美”について尋ねると、「私の考えるヴィクターは芸術家であり、非常に優れた外科医です。彼は何十年もこの創造を構想しており、その結果として“美しい存在”としてのクリーチャーを作り出そうとしたのです。だから私は、“怪物”ではなく、象牙や大理石、アラバスターのようにピュアで、まっさらな魂を持った“新生児”のように描きたかったんです」とデザインの意図を説明した。

 続けて、「人は皆、空白の状態で生まれ、家族によって傷つき、不完全な存在になります。でも、クリーチャーには痛みの記憶がなく、世界を清らかな目で見つめる存在であってほしかったんです。そしてまた、どこかイエス・キリストのようでいて、脇腹に傷を持ち、完璧に設計された“神聖な造形”を考えました。私たちは解剖学的構造と骨相学(フレノロジー)に基づいてデザインして、科学的でありながらも美しく、カトリック的で、純粋な存在として描いたのです」と“怪物”に込めた思いを語った。

Netflix映画『フランケンシュタイン』一部劇場にて10月24日より公開/11月7日より世界独占配信
Netflix映画『フランケンシュタイン』一部劇場にて10月24日より公開/11月7日より世界独占配信

“怪物”に取り入れた日本的な動き

 また、“怪物”には日本的なエッセンスも取り込んだという。「ジェイコブの動きについてですが、彼は“死んだ肉体が再び動き出す”という感覚を体現するために、日本の前衛的な舞踏の動きを取り入れました。カナダで舞踏の師に師事してもらい、その基礎的な動きや感覚を学んで役作りに生かしました」。

 そう語るとやさしくほほ笑んだ。デル・トロ監督は親日家でもあり、日本のアニメや特撮、特に怪獣映画から多大な影響を受けてきた。特に好きな怪獣映画は、本多猪四郎監督の『フランケンシュタイン対地底怪獣』(1965年)だと即答し、「子どもの頃に見て、強い影響を受けました。怪獣では特にバラゴンが好きです」と少年のように瞳を輝かせ、日本が生み出した“フランケンシュタイン”作品の魅力を熱弁した。

「同じ物語の中に、怪獣と第二次世界大戦という歴史が存在していたのが斬新で、ドイツの潜水艦でフランケンシュタインの心臓を運ぶ設定は衝撃的でした。その映画のフランケンシュタインはとても無垢で、成長し続けるがゆえに世界になじめないキャラクターでしたね。今でも私はその作品を深く愛しています。ただ、怪獣はもっと根源的で宇宙的な存在です。その一方で、自分が今回描いたフランケンシュタインは精神的なメタファーだと思っています」

 長年の構想を経て実現した本作。同じくNetflixで独占配信中のアニメーション映画『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』(2022年)も10年以上かけて完成にこぎつけるなど、情熱を絶やさず製作を続けている。だが、「私はこの業界で企画を通すのが得意ではありません。たくさん失敗しています。40本以上の脚本を書きましたが、映画化されたのはたったの13本です」と苦笑まじりに告白した。

 実際、かつて自身のツイッター(現X)でも脚本に着手しながら実現できていない映画とドラマ企画が18本あることを明かし、SF映画『ミクロの決死圏』のリメイクや、ハワード・フィリップス・ラヴクラフトによる小説『狂気の山脈にて』の映像化など“願望”を列挙していた。脚本を完成させながらも映画化に至っていない背景には、監督としての確固たる思いがあった。

「私は自分のためにしか映画を作りません。自分が心から愛せる作品だけを作ることが重要なのであって、興味のない映画製作を引き受けたことは一度もありません。だから、仕事相手が思い描くものと、自分が描きたいと思うものが違う時はその場から去ることが私のルールです。たとえば『ブレイド2』(02年)も『ヘルボーイ』(04年)もすべて個人的な作品です」とクリエイターとしての矜持を語った。

 そして最後に、「『ブレイド2』では怪物の息子が父に“なぜ自分を作ったのか”と問い、結果として父を殺すフランケンシュタインと同じ物語でもあります。だから私は常にどの作品でも“自分自身”を探しています」と自らの描きたいテーマについても触れた。

 これからも強い信念を胸に、自らの思いを形にしていく。

□ギレルモ・デル・トロ 1964年10月9日、メキシコ出身。93年、『クロノス』で長編映画監督デビュー。97年に『ミミック』でハリウッドに進出すると、『ブレイド2』(2002年)、『ヘルボーイ』(04年)などをヒットさせる。06年の『パンズ・ラビリンス』で「第79回アカデミー賞」で脚本賞に初ノミネート。製作・監督・共同脚本を務めた『シェイプ・オブ・ウォーター』(17年)は「第90回アカデミー賞」の監督賞・作品賞を含む4部門を受賞した。その他の監督作に『パシフィック・リム』(13年)、『ナイトメア・アリー』(21年)などがある。

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猪俣創平

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