「体罰」は必要悪か―青木真也の回答「俺は絶対にそれを『良い』って言っちゃダメ」 柔道部時代の理不尽な日々【青木が斬る】

2003年のプロデビュー以来、日本総合格闘技界のトップを走り続けてきた青木真也(42)。格闘家としてだけでなく、書籍の出版やnoteでの発信など、文筆家としてもファンを抱えている。ENCOUNTで昨年5月に始まった連載「青木が斬る」では、格闘技だけにとどまらない持論を展開してきた。今回のテーマは「体罰」だ。

今回のテーマは「体罰」【写真:山口比佐夫】
今回のテーマは「体罰」【写真:山口比佐夫】

連載「青木が斬る」vol.13

 2003年のプロデビュー以来、日本総合格闘技界のトップを走り続けてきた青木真也(42)。格闘家としてだけでなく、書籍の出版やnoteでの発信など、文筆家としてもファンを抱えている。ENCOUNTで昨年5月に始まった連載「青木が斬る」では、格闘技だけにとどまらない持論を展開してきた。今回のテーマは「体罰」だ。(取材・文=島田将斗)

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 一般的に、一定の年齢を超えると気力や体力に陰りが見え始める。しかし青木の場合、42歳の現在も抜群のコンディションを保っているという。

 その秘密は、想像を超えるハードな1日にある。朝のトレーニングを終えると事務所に移動し、格闘技大会の解説動画を1本撮影。その合間にnote記事を執筆し、さらに2本目の動画も収録。休む間もなくメディアの取材を受けた後は、ボクシングの元日本王者・細川バレンタイン氏との対談動画を撮影し、最後は別のYouTubeチャンネルに出演して格闘技のテクニックを披露する――。そんな一日をこなしている。ここまで動ける理由について、青木は「部活のおかげ」だと語る。

「部活のときは先輩にこき使われたって何ももらえないよ? いまはさ、働けば金もらえるんだから、そらやるでしょ。最高だよって思ってる。昔はさ、合宿中によく分からないOBが来て道着の洗濯を夜中までさせられて、洗濯したものを持っていったら『洗えてねぇ』って怒られたりしたんだよ。洗濯銭もよこさずにやらされて……」

 青木は中学、高校、大学と強豪校の柔道部に在籍。当時は体罰が日常的に存在し、現在もその名残が一部には残っている。「打たれ弱いのは当時のせい(笑)」と冗談めかすが、最も過酷だったのは東海一中(現・翔洋中)時代だと語る。

「中学の柔道部はめちゃくちゃクレイジー。本当にめちゃくちゃぶん殴られた。『できない』『気合いが入ってない』って殴られて。とにかく恐怖政治。なんで殴られたか分からないぐらい殴られたんですよね。社会に出てこの格闘技界ですら余裕って思うぐらい、とにかく理不尽だった」

 現代では体罰は確実に減っている。しかし、青木は「楽だから、短期で強くなるから。組織をマネジメントする上で、上が下をぶん殴って統率するシステムで回していくのは手っ取り早いから」と語り、その構造が一部では今なお続いているとした。

 体育会の理不尽な環境を生き抜いた人間は、社会でも重宝される風潮も根強い。

「そこで上がってきたやつは歴戦の猛者であるのも事実だと思う。理不尽に耐え忍んできたやつはやっぱり強いんだよね。それも事実です」

 一方で、“かわいがり”という名の暴力を経験することなく乗り越えてきたという。

「俺は柔道でも格闘技でもほぼ他にやられたことはねぇんだよ。OBとの練習で追い込まれたことはあるけど、練習で同級生とか上からいじめられたことはないのよ。なぜかと言うとそれは寝技が強いから。いじめてきても最悪、『極めちゃえばいい』って思ってるから。だから結局、戦争でもなんでも同じだけど、自分が強くなれば相手は来ない。だから平和なんですよ」

 青木もそうした環境の中で、タフな心身を作り上げた。しかし、それでも彼は声を大にしてこう言う。

「いじめとか体罰は基本絶対なし。強い俺を作ったのはそう(体罰やいじめ)だけど、俺はそれで成功したけど、失敗してるやつはめちゃくちゃいるから。生存者バイアスです。だから俺は絶対にそれ(体罰やいじめ)を『良い』って言っちゃダメなの」

 暴力的指導が短期的な結果につながるとした一方で、多くの“被害者”も生み出してきたことも指摘する。

「ぶん殴って勉強やらせずに教えるのは競技は強くなるけど、それによって被害者がめちゃくちゃ増えます。社会不適合になる人が。スポーツやってる人で犯罪起こしてしまうのはそういう人だと思う」

 では、厳しい練習はどこまで許されるべきなのか。青木の柔道時代には、タップ(参った)なしの絞め技練習という、現代では問題視されかねない手法もあった。だが、そうした練習が実力の礎になったことも事実だ。

「絞めで一本取られることはないからね。でも、今後はそういう練習もどんどんなくなっていくだろうし、『行き過ぎた練習』とか言われちゃう。面白くはないですよね。タップなしの練習が普通とは言わない。でも、ある程度は仕方ないと思っちゃう。『参った』ありの方が結果的にPDCA回るからいいと思うけど、ある程度ガチガチにやられる練習は絶対必要だと思うけどね。なんか骨抜きになっちゃう気がしますよ」

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 体罰が強さを育んだ時代は、確かに存在した。生き残った者が強いとされているが、そこにあった声なき声を無視してはならない。青木真也の言葉は、格闘技界のみならず、スポーツ界全体の“当たり前”をいま一度問い直している。

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