「名刺さらし」…維新・藤田文武氏が語らぬ“記者個人攻撃”の目的とは 元テレ朝法務部長が危惧

日本維新の会・藤田文武共同代表をめぐり、公設秘書の会社への約2000万円の税金還流疑惑が報じられて波紋を呼んでいる。藤田氏は今月4日の会見で法的に適正だとの認識を示したが、この場では疑惑を報じた共産党機関紙「しんぶん赤旗」記者の名刺を藤田氏がXに投稿したことについての質問も飛んだ。この「名刺さらし」について、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士はその「目的」を危惧している。

西脇亨輔弁護士【写真:ENCOUNT編集部】
西脇亨輔弁護士【写真:ENCOUNT編集部】

西脇亨輔弁護士「正当化できる説明はない」

 日本維新の会・藤田文武共同代表をめぐり、公設秘書の会社への約2000万円の税金還流疑惑が報じられて波紋を呼んでいる。藤田氏は今月4日の会見で法的に適正だとの認識を示したが、この場では疑惑を報じた共産党機関紙「しんぶん赤旗」記者の名刺を藤田氏がXに投稿したことについての質問も飛んだ。この「名刺さらし」について、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士はその「目的」を危惧している。

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 答えになっていない。「名刺さらし」についての藤田共同代表の説明を聞いてそう感じた。

 藤田氏の公設秘書が代表の会社に政党交付金などから支払いがされていた問題は、これを報じた「しんぶん赤旗」記者の名刺を藤田氏がSNSで公開したことで、騒ぎがさらに大きくなった。名刺は記者の氏名やメールアドレスの一部などが記載されており、個人情報保護法の「個人情報」に当たる。これをあえてさらしたことについて会見で問われると、藤田氏はこう答えた。

「名刺については、携帯電話も書かれてたんですが、携帯電話は消してるし、それからメールアドレスのドメインも消えてるということでありまして、それ以外の番号は公開情報です。住所も含めて」

 だが、藤田氏が隠したメールアドレスの「ドメイン」は、その人の勤務先の名称などであることが多く「隠してもほぼ意味がない」箇所だ。現に記者のもとには5500通を超えるメールが殺到しているという。

 さらに藤田氏の説明には最も重要な点が欠けている。それは記者の名刺をさらした「目的」だ。

 記事を報じたのは「しんぶん赤旗」の編集部なので、記事内容などを批判したければ、「しんぶん赤旗」に宛てて行えばいい。それなのに「記者の個人情報」をさらす狙いは、一体何か。

 近年、政治家を批判する記者への「個人攻撃」が社会問題化している。今年6月、日本新聞協会は「記者等への不当な攻撃に対する声明」を出し、記者の個人情報などがSNSに不当に拡散されていると指摘した。7月には斎藤元彦兵庫県知事の問題を指摘した記者の実名がSNSにさらされ、勤務先の報道機関に「クレーム」が相次ぐ事態が発生、記者は知事会見の現場から外された。組織よりも攻撃に弱い「記者個人」がターゲットとなる事案が増えつつある。

 こうした風潮の中でなぜ記者の名刺をさらしたのか。藤田氏は以下のように答えた。

「名刺もそうですが、個人名で質問状が来てます。質問状とそれからそれに対する返答にも個人名を、編集部っていうか政党の部署名と個人名で返信をし、そして、『適切にそれが反映されない場合には公開をさせてもらいますよ』ということで、それについて『いや、公開しないでくれ』っていうお問い合わせもいただいてないんで、公開させていただいたと」

 しかし、「しんぶん赤旗」が公表した質問文によれば、記者は冒頭で「しんぶん赤旗日曜版編集部記者の●●と申します」と名乗っており、「個人」ではなく「編集部の一員」として藤田氏を取材したことは明らかだ。それなのになぜ、藤田氏の言い分が記事に「適切に反映」されないと「記者の個人名」が公開されなければならないのか。

 藤田氏は「しんぶん赤旗というのは報道機関ではありません。非課税である事業をされている政治活動です。つまり、公平な報道ではなくて政治的主張です」とも述べている。しかし、仮に同紙が「政治的主張をする組織」だとしても、その一員である私人の個人情報をさらしていい理由にはならない。

報道・言論の封圧へ予兆か

 報道機関の記者など「法人・組織の一員」として活動している人は、「個人の名前」で活動している政治家や芸能人とは決定的に違う。藤田氏のように自分の顔を世間に出して活動する「公人」は個人として批判対象にもなるし、プライバシー権も制約される。それは自分で「公人」になることを選んだ対価だ。一方、組織の一員として活動する場合、活動の対外的な責任は「組織」全体が負い個人のプライバシーは保護されるのが原則。『しんぶん赤旗』が藤田氏の疑惑を報じる際も、公人である藤田氏の実名は報じたが、その公設秘書については実名を出していない。公設秘書は「事務所の一員の私人」として扱ったのだろう。

 一方、藤田氏は「編集部の一員の記者」の名刺をさらし、この点の質問に答える中で次のような発言もしている。

「マンションの中まで入ってくるとか電話しまくるとか、あの、共産党の党員なんでしょ? しんぶん赤旗って。共産党の機関紙っていうか、その部門だから。そういう人らがピンポンピンポン来てやるって、私はそれ身体に危害を及ぼすんじゃないかと危機感を覚えるのは普通だと思いますよ」

 仮に「マンションのピンポン」があったとしても、「記者の名刺さらし」をしていいかどうかとは別の話だ。しかもその後、そもそも共産党はマンションの件と関係ないことが判明し、藤田氏はネット番組で訂正した。

 こうして藤田氏の会見を見返しても「記者の名刺さらし」を正当化できる説明はないように思う。それなのに今もSNSで名刺公開を続ける藤田氏の目的は「しんぶん赤旗という組織より攻撃しやすい、記者個人を狙う」という点にあるのか。連立与党の共同代表のこの言動は、日本全体が報道・言論の封圧へ進もうとしている予兆にも思える。

 藤田氏が衆院代表質問でその名言を引用した吉田松陰は「巧詐(こうさ)、過を文(かざ)るを以て恥と為す」という言葉も残した。「過ちを取りつくろうのではなく、公明正大であるべき」という教えは、今の時代にどのように響くのだろうか。

□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ) 1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうまワイド』『ワイド!スクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。社内問題解決に加え社外の刑事事件も担当し、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反などの事件で被告を無罪に導いた。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。同6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。同7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、同11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。昨年4月末には、YouTube『西脇亨輔チャンネル』を開設した。

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