「ばかばか売れるとは思っていない」撤退から再参入、韓国自動車メーカーは日本市場を攻略できるか
世界の自動車業界が脱炭素化に本格シフトする中、日本はEV(電気自動車)の普及率が1%強と低迷。かなり特殊なマーケットになっている。背景にはEVそのものに対する懐疑的な見方やインフラ整備の遅れがあり、かつてのスマホ市場のように“ガラパゴス化”している。その敷居の高さは、とりわけ外国車にとって参入の障壁となるが、「ジャパンモビリティショー(JMS)2025」(9日まで、東京ビッグサイト)には韓国の自動車メーカー、ヒョンデとキアが初出展。日本攻略の“切り札”となる新車を用意していた。

日本市場への再参入から3年…「ヒョンデは本気です!」の真意
世界の自動車業界が脱炭素化に本格シフトする中、日本はEV(電気自動車)の普及率が1%強と低迷。かなり特殊なマーケットになっている。背景にはEVそのものに対する懐疑的な見方やインフラ整備の遅れがあり、かつてのスマホ市場のように“ガラパゴス化”している。その敷居の高さは、とりわけ外国車にとって参入の障壁となるが、「ジャパンモビリティショー(JMS)2025」(9日まで、東京ビッグサイト)には韓国の自動車メーカー、ヒョンデとキアが初出展。日本攻略の“切り札”となる新車を用意していた。
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「ヒョンデは本気です! 日本のマーケットに対して本気で取り組みます」
10月29日に行われたプレスカンファレンスで、ヒョンデモビリティジャパンの七五三木敏幸社長が声を張り上げた。
目玉として披露した車は、水素電気自動車の新型「NEXO(ネッソ)」。
「ネッソはヒョンデが27年にわたり描いてきた水素ビジョンの道を象徴するモデルであり、世界で最も多く売れている量産型水素電気自動車です」と紹介。改良された水素燃料電池システムや高性能バッテリーにより、「わずか5分の充電で最大約826キロの航続距離を実現しました。走行中に排出するものは水のみ。まさに究極のクリーンモビリティーとして未来を体感できる1台です」とアピールした。
JMSには初参加となるヒョンデ。日本市場を巡っては、苦い歴史がある。2001年に参入したものの、販売台数が伸びず、乗用車市場から撤退した(商用EVバスの販売は継続)。2022年に約12年ぶりの復帰を果たし、現在は全国27か所の拠点、63か所のアフターサービス体制を整え、販路拡大を続けている。
強固な日本マーケットでどのような戦略を立てているのか。
担当者に話を聞くと、「前からJMSに出展はしたかったのですが、新型車だったり、最適なタイミングで出展をしたいという話がありました。今回、ネッソを発表できるタイミングでJMSの開催もあったので、ネッソを公開する初披露と初出展、ダブルで情報を出すのが一番効果的だと判断しました」と語った。
ネッソは、およそ7年ぶりのフルモデルチェンジとなる。実は旧型モデルも再参入時から販売していた。
「旧型も結構好評だったのですが、水素ステーションの問題などお客さまの声を反映しきれていない部分がありました。今回の新型には、充填時間や航続距離など全てをグレードアップして反映しています」
新型ネッソは今年1月にグローバル発表され、日本では来年上半期中の販売開始を予定している。価格は未定だが、旧型が720万円だったことから、それを上回る見込みだ。
再参入からこれまで、乗用車の販売台数は累計2500台ほど。初年度は「アイオニック5」1車種のみだったが、現在はEV4車種を展開している。
日本市場での勝算について尋ねると、担当者は冷静な見方を示した。
「FCV(燃料電池車)はもちろんいい車に仕上がっていますが、なかなかインフラやマーケットがまだまだ小さいので、これが急にたくさん売れるとは思っていません。まずは我々の技術、テクノロジーのアピールと、水素の充填インフラが少ないといった課題を超えられる人に選んでいただくという感じです」
ネッソは販売台数を追い求めるよりも、技術力をアピールする象徴的な1台という位置付けだ。水素ステーションは現在、全国に200か所程度しかなく、むしろ採算が取れずに閉鎖するステーションも出ている状況だという。

国や都から補助金も…「ばかばか車が売れるとは思っていない」
「我々がインフラを直接増やすことはできないので、水素ビジネスをやっているいろいろな会社さんと一緒にコラボレーションしたりしていきたい。有明エリアや愛知県など、水素ステーションが比較的多いエリアでのマーケティングもやっていきたいと思います」
追い風は手厚い補助金制度だ。現行型ネッソの場合、国から約220万円、東京都からも100万円程度が支給され、合計300万円以上の補助が受けられる。EVでは、例えばアイオニック5の場合、補助金が67万円程度であることを考えると、その差は大きい。
ただ、ネッソは元の価格が700万~800万円と高額なため、補助金を差し引いても500万円程度の支払いが必要となる。
「お客様は、やっぱり都内が多いんですよ。補助金が手厚いというのもあります。EVもそうですけど、日本の場合はマーケットが急には伸びないので、そこは地に足をつけてやっていく感じですかね。急に、ばかばか車が売れるとは思っていませんので」
ヒョンデの日本戦略は、短期的な台数追求ではなく、長期的な視点でブランドを定着させることにある。それが、真の狙いというわけだ。
「我々は台数だけを追い求めているわけではなく、ちゃんと日本に根付くブランドとしてやっていくということです。すぐに車がたくさん売れるというよりは、日本のお客さまに寄り添っていくブランドになっていきたい。そこについては本国も理解していますし、力は入っています。なかなか難しいじゃないですか。もともと輸入車も少ないですし」
日本の自動車市場は輸入車のシェアが約5%、EVに至っては全体で1%少々という特殊な市場だ。あえてそこに挑戦するヒョンデ。担当者は「時間がかかるのはしょうがない」と語りつつも、着実な歩みを続ける構えを見せた。
一方、ヒョンデ傘下のキアは2026年春の発売を予定しているバッテリーEV「PV5」を日本初公開。総合商社「双日」とタッグを組み、ブランドの浸透を進めていく。
キアPBVジャパンの田島靖也代表取締役CEOは、「販売準備の過程で日本のさまざまな分野の皆さまからPV5への多大なる期待と高い評価の声を多数いただきました。私たちはPV5を個人、そして社会全体に貢献するモビリティーソリューションへと育てていくことに尽力してまいります。その実現のため、私たちはこれからも日本の皆さまの声に真摯(しんし)に耳を傾けてまいります」と決意表明。
ディーラーは全国に8か所、アフターサービス拠点は100か所を用意し、販売台数目標は26年に1000台、27年に2000台を掲げた。価格はPV5カーゴが589万円、PV5パッセンジャーが679万円となっている。
両社に共通するのは、これから日本で本腰を入れて車を売っていこうということ。グローバルでは成功を収めているだけに、その実績と知見が隣国でどこまで通用するのかに注目が集まっている。
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